「Branching Paths」試写会レポート、フランス人監督は日本のインディーゲームシーンをどう捉えたのか?


国内での独自イベント開催やKickstarterでの日本人開発者の成功など、ここ数年にわたりインディーゲームの熱が我が国でも高まりつつあるのは明らかだ。その大きな盛り上がりのなかで、作品の作り手である日本のインディーゲーム開発者たちはなにを考え、どのような軌跡を残してきたのか。7月25日、日本のインディーゲーム開発者たちの動きをつづったドキュメンタリー映画「Branching Paths」の試写会が、東京都内で開催された。

 

日本インディーゲームシーンの黎明期を記録

世界のインディーゲーム開発者たちを追うドキュメンタリー映画「Indie Game: The Movie」がカナダの監督コンビより公開されてから約4年。今度はフランス人の目を通じ日本のインディーゲーム開発者たちにスポットを当てた作品が、7月29日より価格980円でSteam/PLAYISMにて配信される。

「Branching Paths」にて見ることができるのは、東京ゲームショウにて初めてインディーゲームブースが登場した2013年から、『Downwell』の開発者である「もっぴん氏」が同作をリリースする2015年までの、2年間の日本のインディーゲームシーン。「BitSummit」や「東京ゲームショウ」、「Picotachi」などのイベントを節目としつつ、開発者と業界関係者が赤裸々に当時の事情や心情を語る。近年、国内でもインディーゲームはブーム的な盛り上がりを見せつつあるが、独自の考えで挑戦する挑戦者たちは、それぞれさまざまな夢と苦悩を抱いている。

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4人のインディーデベロッパーのストーリーラインに集中した「Indie Game: The Movie」に対し、「Branching Paths」は日本のインディーゲームシーン全体を“いくつもの点”で映しだす作品だといえるだろう。時の流れに沿って、関係者が登場しては自身の考えや心情を吐露するという構成が続く。多数の取材映像を通じて、「インディーと同人の違い」といった難しいテーマから、近年のPCゲーム市場の広がり、小規模開発ではかならず大きな壁となる「開発資金やマンパワーの不足」、どうしてインディーデベロッパーになるのか、インディーゲームとはなんなのかといったテーマが浮かんでは消えてゆく。

こういった数々のテーマはどれも確かに興味深いのだが、取材対象や題材が絞りきれておらず、それぞれ掘り下げられていない印象を受けるのは否定できない。「Branching Paths」自身が各テーマにおいて明確な答えを下すこともなく、そういう意味で記録的な作品だといえるだろう。近年のシーンを賑わせているタイトルや開発者、イベントについて知っているのならば、その背景を見る作品として楽しむことはできるだろうが、その辺りの事情に疎いのなら、どこにストーリーやテーマの軸を置けばいいのかわからなくなるかもしれない。

ただ、昨今の日本のインディーゲームシーンに登場した中心的人物たちが、赤裸々に心の内を吐露するドキュメンタリーとしては貴重な作品だ。フランス人の監督Anne Ferrero氏によれば、本作における取材対象は80人以上、記録データは20TB以上にのぼり、悩みながらカットしたシーンも多かったそう。Ferrero氏は試写会冒頭で、同作を「モザイク(小さな欠片を集めて1つの作品とするアート)」だとも表現している。日本のインディーゲームシーンがどこかへ行き着いた際、「Branching Paths」は黎明期を振り返る作品として重要になる可能性が高い。

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本作の後編では、米国の大手パブリッシャーDevolver Digitalとの契約を果たした「もっぴん氏」が特にクローズアップされており、彼が『Downwell』をどのように開発し、なにを感じてきたのかを知ることもできる。日本のインディーゲームシーンが盛り上がりつつあるも、まだ先は誰にもわからないという状況で、実際に1つの成功の果実をもぎとった1人の開発者として、物語をどうにか締めくくる大役をつとめる。

 

「他人につけられた日記のよう」

試写会では、本編でメインの取材対象として登場したOnion Gamesの木村祥朗氏、NIGOROの楢村匠氏、『Downwell』開発者のもっぴん氏が登場。監督のAnne Ferrero氏、PLAYISMの水谷俊次氏と共に、「Branching Paths」の完成を祝しつつトークを交えた。

木村氏は映像を見終わったあと、「この数年間の思い出アルバムのようだ」と語り、「(見ていて)泣きそうになった感じ」とコメント。また楢村氏も「他人につけられた日記を見ている感覚」と伝えたほか、もっぴん氏も「恥ずかしかったです」と気恥ずかしい様子を見せた。

もともと「Branching Paths」は、Onion GamesのドキュメンタリーをAnne氏に依頼したことがきっかけで始まったという。同企画は制作されなかったものの、そこから日本のインディーゲームシーン全体を捉えるアイディアへとシフトしていった。木村氏はさらに、昔住んでいた場所がAnne氏の自宅と近く、近所のモスバーガーで朝コーヒーを飲みながら話をしたところ盛り上がったのが始まりだと詳細を伝えた。

一方、監督であるAnne氏自身は、フランスの番組製作会社で働いているころに実施した1つのアンケートが制作のきっかけになったとも語る。約6400人を対象に実施したアンケートでは、「フリーなスピリットを持ったゲーム、クレイジーなゲーム」を遊びたいという回答があったそうで、「『塊魂』みたいな変なゲーム」と表現する人々もいたという。日本のインディーゲームに興味を持っていたところ、木村氏がゲームのプロトタイプを制作したり、東京ゲームショウ2013でインディーゲームブースが初登場したりといったことも重なり、「Branching Paths」の企画をスタートさせたそうだ。

このほかゲーム開発者向けカンファレンス「Game Developer Conference(GDC)」におけるインディーゲームの祭典「Independent Games Festival(IGF)」に参加し、日本と海外のシーンの違いを直接目で見たことがある3人は、その違いについてもコメント。もっぴん氏は英語圏があるため情報量は日本よりも海外の方が圧倒的に多く、この構造が海外でインディーゲームの良作を生みだしているのではないかと伝える。また3人はゲームメディアについても言及し、国内では近年インディーゲームの露出が各メディアで格段に増えたことを振り返った。インディーデベロッパーがプロモーションに費用をかけられない中で、プレイングが浅くゲームの内容を取り違えていることがないのであれば、レビューでの批評も受け取めるという姿勢を示している。

「Branching Paths(わかれた小枝、分岐)」のタイトル名がそう示すように、日本のインディーゲーム業界やそれぞれの開発者たちがどのような未来を進むのかは、第三者であるメディアも当の本人たちもまだわからない状況だ。はたしてどのような先に行き着くのか、本作を鑑賞しつつ行く末を見守ることとしよう。なお本作の制作背景については、先日のBitSummitにおけるAnne監督へのインタビュー記事をご一読いただきたい。