Steamの高評価RPGを“生成AI製”と断じる攻撃的レビューに、開発者が怒りの反論。突然の“通り魔的決めつけ”レビュー

Steamで好評を集める『Shrine's Legacy』に対して少数ながらも“生成AIを用いているのではないか”と主張するレビューが投稿。開発元が真っ向から否定している。

アクションRPG『Shrine’s Legacy』を手がけるPositive Concept Gamesは12月11日、“生成AIを使用している”との憶測から不評レビューが投じられたことを受けて、何年にもわたって開発はすべて人の手でおこなわれてきたと反論。そうしたレビューを投じることもやめてほしいと呼びかけ、ファンからも励ましの声が寄せられている。

『Shrine’s Legacy』は、スーパーファミコン時代の名作から影響を受けたという16ビット風のアクションRPGだ。アルデミアという世界を舞台に、2人の主人公リオとレイマの冒険が繰り広げられる。戦闘はリアルタイム制で、近接攻撃と魔法を切り替えながら戦うのが基本となる。魔法は敵との戦闘だけでなく、フィールドやダンジョンに用意された仕掛けを解くためにも活用される。主人公は2人1組で行動し、相棒はCOM操作のほかローカル協力プレイにも対応。戦闘とパズル、探索がテンポよくつながる作りとなっており、レトロな雰囲気を楽しみつつ、誰かと一緒に冒険できる点が特徴だ。

本稿執筆時点でSteamユーザーレビューには約100件が寄せられ、うち83%が好評とする「非常に好評」ステータスを獲得。レトロ志向のビジュアルや協力プレイへの対応といった点が支持を集めている。戦闘の手触りや演出面については好みが分かれている様子ながら、全体としてはクラシックなアクションRPGを現代向けにまとめた作品として、一定の評価を得ている。

一方で、Steamユーザーレビューの一部では、本作の作風やビジュアルを理由に、「生成AIで制作されたのではないか」と疑う声が見られる。具体的には、「文章がAI生成のように感じられた」「アートの一部で色使いやタッチにばらつきがあるように見えた」といった指摘が挙げられている。こうした意見の中には、表現が過激な批判的レビューも含まれており、生成AIの使用を断定するような言い回しも確認できる。

こうした指摘を受け、開発元Positive Concept Gamesは声明を発表。「私たちはこのゲームに人生の何年をも注ぎ込み、すべてを実在する人間のアーティストと共に作ってきた」と説明した。また同スタジオは、本作の制作に生成AIは一切使用しておらず、生成AIの使用自体を支持していないとしたうえで、今後も使用しない方針であることを明言している。

ちなみにPositive Concept GamesはSteamユーザーレビューにおいても、一部の批判に反論。“開発元がAIツールを使用している証拠”としてとあるXポストを例示するレビューに向けては、このポストがエイプリルフールにおけるジョーク投稿であったことを明示している。これは2021年のエイプリルフールに同スタジオが投じた、『Shrine’s Legacy』のキャラの顔画像に画像を加工するAIアプリを使うと奇妙な画像が生成されたことをネタにするジョーク投稿だ。ジョークであることが分かりやすいポストであり、生成AIの使用を指摘するにあたっては“的外れな証拠”といえるだろう。

本作の開発始動は2016年とされており、その後2020年に発表され、Kickstarterでのクラウドファンディングキャンペーン成功も経ながら開発が進められていたタイトル。一部要素についてはスタジオのYouTubeチャンネルなどで開発の進捗も報告されながらリリースに至った。そうした経緯も踏まえてかスタジオを信頼する声はあり、“証拠もなく生成AI疑惑を向けられた”ことに同情する反応も寄せられている

近年のゲーム業界では、生成AIの活用をめぐる動きが広がっている。インディー・大手を問わず、開発工程の一部やプロモーション用途などで生成AIを取り入れる例も見られるようになってきた。Steamでは生成AIを使用している場合でも、審査の際に権利を侵害するコンテンツが含まれないといった条件を満たしていることを申告し、ストアページ上でその用途などを明記していれば販売自体は認められている。

一方で、生成AIは学習データの権利関係や創作物の扱いをめぐる議論が続いており、一部ユーザー間では否定的な見方も根強い。とりわけ、生成AIの使用を明示せずに販売していた場合には、強い反発を招くことがある。直近では、Steamストアページ上で生成AIの利用が明示されていなかったFPS『POSTAL: Bullet Paradise』にて、発表直後からタイトルロゴやビジュアルの一部をめぐり、「生成AIが使われているのではないか」との指摘がコミュニティ内で広がった。その後、販売元の判断により、発表からわずか数日で開発中止が決定。後に開発チームGoonswarm Gamesは内部調査の結果として、外部委託されたプロモーションアートに生成AI素材が含まれていた可能性があると報告されていた(関連記事

対して今回話題となった『Shrine’s Legacy』に生成AIが使用されていると断定できる証拠は確認されていない。Steam上では先述した一部レビューを中心に生成AI使用を疑う声が挙がっているものの、具体的な裏付けが示されたわけではなく、開発元Positive Concept Gamesも明確に否定している状況だ。なお生成AIの使用を疑うユーザーレビューは数件のみであり、本稿執筆時点では大規模な非難が寄せられるといった事態にはなっていない。とはいえ今回のケースからは、仮にそうした事態が発生したとしても作中に“生成AIを使用していないこと”を証明する難しさも垣間見えるかもしれない。

なおMicrosoft Researchの研究者が関与した学術研究では、本物の写真と生成AIによる画像を見分けられるかを、約1万2500人に尋ねる調査がおこなわれている。その結果、正しく判別できた割合は約62%にとどまったという。生成AIの表現は年々精巧になっており、人の目だけで「使われているかどうか」をはっきり見抜くことは、決して簡単ではないようだ。言い換えれば、ゲーム内の要素を見て「AIが使われている」と断定するのも、逆に「絶対に使われていない」と言い切るのも、外部からは難しい場面が増えていると言えるだろう。権利や透明性といった課題も含め、生成AIの利用をめぐる議論は今後も続くとみられ、ゲーム業界がどのような線引きを示していくのかは引き続き注目点となりそうだ。

『Shrine’s Legacy』はPC(Steam)向けに配信中。価格は税込2300円。

Junya Shimizu
Junya Shimizu

ローグライクが大好きです。映画や海外ドラマも好きなので、常に時間に追われています。

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