末期がんに苦しんでいた開発者、痛みや苦しみを『Crashlands』の開発に注ぎ克服。「がんが僕のすべてを変えた」


アクションRPG『Crashlands』がPC/モバイル向けに、1月21日にリリースされる。1月1日には発売にむけてプロモーションビデオも公開された。『Crashlands』はButterscotch Shenanigansが開発した『Don’t Starve』ライクのサンドボックスゲームだ。クラフトで装備やアイテムを作りつつ、探索し敵を倒し、時には家を建てていく。これらの要素に加えてModで自分たちのキャンペーンモードを作る機能が搭載されるようだ。『Clashlands』はユーザーの期待も高くかなり力が入ったゲームに見えるが、発売されるまでの道のりには多くの困難が伴ったようだ。その様子の一部をPolygonが報じている。

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がんの発覚によって生まれたゲーム

Butterscotch Shenanigansは兄弟であるSam Coster氏とSeth Coster氏の2人が中心となって構成されている開発会社だ。ゲームジャムなどで複数のゲームを開発したのちに、いくつかのモバイルゲームを開発していた。しかし2年前、23歳であったSam氏の体に異変が訪れる。その異変の正体はなんと悪性リンパ腫だった。

“当時僕らはモバイル向けにエンドレスランニングゲーム『Extreme Slothcycling』を開発していた。悪くないゲームだと思っていたが、何かが決定的に足りなかった。色々悩みながら開発している内に頭打ちになった。体重は10キロ近く減り、すぐに疲れるようになった。コーヒーをたらふく飲んでなんとか仕事をしたよ。でもそれが間違いだった。数々の病院に行って検査を受けた後わかったんだ。僕の身体はがんまみれだってね。”

Sam氏のがんは悪性のリンパ腫であり、すでにステージbにまで進んでいたようだ。症状はすでに末期に達しており、診察後に治療をはじめなければ数週間で死に至ると医師に告げられた。氏は自分に何が起こっているか理解しようとしたが、頭が追いつかなかったという。しかしひとつ気がかりなことがあった。「僕が死ぬ前に作る最後のゲームが『Extreme Slothcycling』なのか?」

Sam氏は『Extreme Slothcycling』の開発は進んでいたものの行き詰まりを感じていて、がんの痛みや苦しみを忘れられるほど深く挑戦的なゲームを作りたいという欲望を感じていたようだ。開発キットを使って即興でゲームを作ったはいいが、ロボ掃除機ルンバが落ち葉を集めサンダルを履くという“ひどいゲーム”だったと本人は語っている。とにかくSam氏はルンバゲームがいたく気に入ったということと、『Extreme Slothcycling』を自分の人生の最後の作品にしたくない気持ちでいっぱいだったということを明かしている。

そのことをSeth氏に伝えると、兄弟の愛か、がんという現実からの逃避かは不明であるが、快諾する。Sam氏はがんに「くたばれこの野郎」という気持ちを抱きながら、毎日ゲーム開発へ没頭していった。病院であろうとも、吐き気に襲われようとも、とにかく働きたかったと語っている。そしてこのルンバゲームがのちの『Crashlands』となる。

 

がんが人生の分岐点に

がんによってさまざまな苦しみを強いられることになったが、Sam氏にとってこの病気は大きな分岐点となったようだ。“よくある短期間で生まれるゲーム”ではなく、ユーザーにとっても開発者にとっても意味のある挑戦的な大きなタイトルを開発するきっかけとなった。さらにはもうひとりのCoster兄弟であるAdam氏も大学院の博士課程を終えた後プログラマーとして参加し、開発体制は強化されていった。

がんの治療は進みSam氏は幸運にも症状をそれほど感じないで生活をしていたが、ゲーム開発の進行は芳しくなかった。開発を急ぐSam氏は2014年のクリスマスにまたしてもがんに苦しむことになった。入浴中、左の胸部に強烈な痛みがはしったのだという。氏はあまりの痛みにのたうちまわり、それでもなんとかシャワーを浴びようとしていたが、最終的には異変を察知してかけつけてきた婚約者とともにお湯が冷めるまで泣き叫び続けたと明かしている。

Sam氏は再診察をしたところ、がんは更に悪化しているようで、幹細胞の移植や放射線治療など多くの治療を経験した。それらの治療は全て“『Crashlands』を完成させるための時間を買うため”だったと語っている。いくつかの治療を経て2015年5月には幹細胞移植に成功したものの、体調の変化が激しく抗癌剤メルファランなどに頼りながら体力を消耗させていった。同時期にSteam Greenlightの投票も開始され、42時間以内に75%の賛成投票を受けて通過した。その後Sam氏の激しい苦しみは収まり、体調は退院できるまでに回復したようだ。病院内で考えた構想をもとにシナリオを書き始めSam氏の生活は再び『Crashlands』にうめつくされていった。

しかし開発が山場を迎えた7月にSam氏はまたしても入院し、幹細胞移植を受ける。一度目の移植は困難な状況を解消するためであったが、二度目の移植はより“前向きな”、がんに対する身体の防衛機能を強化するための移植であったようだ。移植自体には成功するものの、今度は移植片対宿主病という臓器移植に伴う炎症に苦しむようになる。そんな生活の中でもSam氏は病院で小型パソコンに向かいながら毎日ひたすらシナリオの原稿を書き続けていたと語っている。9月に入り再び退院することができたが、他人の臓器を身体になじませるのは容易ではないようで、かなりの痛みがついてまわったことを明かしている。大きな薬箱を持参し1日20錠の薬を飲みながら仕事をこなしていたようだ。11月に入ると体調は少しずつ安静に向かい、抗がん剤の影響で生えてこなかった毛が再び生えてきた。Sam氏がこの毛が生えることが一番勇気づけられた出来事だと語っている。

a-developer-of-crashlands-managed-to-beat-cancer-to-create-a-game-002その時期から160人のテスターを集め『Crashlands』のベータテストを開始した。Sam氏は定期検診を受けるたびに異常が少なくなっていくことを感じていたが、決して喜ばないようにした。医師の正式な言葉だけを信用し、氏はその言葉をひたすら待ち続けた。Seth氏はお見舞いに行く代わりに一日中ベータテストで見つかったバグの除去に取り組み続けた。

 

何も僕を止められない

Sam氏ががんと闘い続けた2年間はすなわち『Crashlands』を開発してきた重要な歴史だ。いくら苦しみが襲おうとも手術を重ねようともSam氏がゲーム開発を止めることはなかった。そして『Clashlands』はその扉を叩こうとしている。ついに医師からも「私自身も信じられないが、自信を持って言える。がんは消滅したよ。」と正式な告知を受ける。Sam氏は一瞬時が止まったように感じたが、その後すぐに視界は明るくなる。

“僕は成し遂げたんだ!”

Sam氏ががんから解放された24時間後に『Crashlands』の発売日が告知された。もはやゲームの発売を止めるものは何ひとつない。

“がんが僕のすべてを変えたよ。死ぬかもしれない運命を感じて、自分と向き合って最高の2年間をすごしてきた。不安や鬱、吐き気や頭痛ですら僕のゲーム開発を止められなかった。すべての苦しみをゲーム開発の喜びに変えてやったんだ。がんなんて、ぶっ飛ばしてやればいいんだよ!”

がんを患ったユーザーがゲームを遊ぶことで幸福感を得ていた男性を以前に弊誌でも取り上げたが、今回Sam氏はがんをきっかけに新たなゲーム開発をはじめ、そしてそのがんを克服するという快挙を成し遂げた。Sam氏の『Crashlands』への情熱ががんになんらかの影響を与えたことは間違いないだろう。『Crashlands』のリリースは1月21日に迫っている。