作家フランツ・カフカの世界をゲーム化した『Playing Kafka』好評スタート。没後100周年記念・人間不条理ゲーム、「城」「審判」や父への手紙をベースに
チェコ・プラハを拠点とするデベロッパーのCharles Gamesは5月21日、作家フランツ・カフカが生前に残した作品群を題材とするアドベンチャーゲーム『Playing Kafka』をPC(Steam)/iOS/Android向けに無料リリースした。Steamにおいては本稿執筆時点でユーザーレビュー40件中100%が高評価とする「好評」ステータスを獲得しており、さっそく高い評価を得ているようだ。
「変身」などの代表作で知られるフランツ・カフカは、オーストリア=ハンガリー帝国領時代のプラハに生まれ、現在はチェコの国民的作家として広く親しまれている。没後100周年を迎える今年は彼の死を悼むとともに、生前の業績を振り返る企画や催しが各地でおこなわれており、『Playing Kafka』もその一環で作られたという。
本作では「The Trial(審判)」「Letter to the Father(父への手紙)」「The Castle(城)」の3つのチャプターを、挙げた順番にプレイしていく。一度クリアした後は各章を任意のタイミングで遊ぶことが可能だ。いずれのエピソードも着想元として一部翻案が施されているものの、「Letter to the Father」はカフカが父親へ宛てた実際の手紙を元にしており、フィクションである他の2作品とは趣向が異なる自己言及的な内容となっている。
プレイヤーはポイント&クリック形式の操作を通じて、「逮捕された男」「カフカ本人」「測量士」と各章の主人公の立場からシーンを進行していく。画面上のキャラクターやオブジェクトをドラッグまたはドロップして、会話やインタラクションを発生させることでストーリーが展開。中には選択を迫られる場面も含まれており、選んだ選択肢によって物語の分岐も起こるようだ。また作中では、手紙の単語や父親の店の棚の商品を並び替えるといったパズル要素も設けられている。
登場人物は全員顔のパーツがなくのっぺりとした表情で、非現実的な状況設定やシームレスに場面が転換する演劇的な演出なども相まり、人間存在の不条理を描いたカフカの作風が本作ならではのゲーム表現に落とし込まれている。一方で、人物が突如巨大化したり穴に落ちたりといったシュールな滑稽さも見られるため、原作を知らない状態でプレイしても独自の味わいによる体験が得られるだろう。英語・ドイツ語・チェコ語の3言語のみの対応だが、ボイスオーバーによる声優の演技も臨場感を高めている。
「definitive Kafka videogame(カフカビデオゲームの決定版)」と銘打たれた本作は、ドイツ政府が設立した公的な国際文化交流機関である「Goethe-Institut」のプラハ支部をはじめ、文学研究者やカフカの伝記作家ら複数の専門家の協力のもと開発が進められた。新型コロナウイルスによる打撃からの経済再生に向けた欧州連合の助成基金「NextGenerationEU」の支援も受けていることから、映像や舞台化される機会も多いカフカ作品の魅力をビデオゲームの形式を通じて世界に発信し、チェコの文化や産業に光を当てる狙いもありそうだ。本稿執筆時点では、英語圏のApp Storeにおける無料アドベンチャーゲームランキングで3位にランクインを果たすなど、多くの注目を集めている様子もうかがえる。
なお『Playing Kafka』を開発したCharles Gamesは、『Attentat 1942』『Svoboda 1945: Liberation』といった第二次世界大戦をテーマとする実写映像を用いた高評価ゲームの制作実績をもつ。同スタジオが生み出す作品の雰囲気に惹かれた方は、あわせて触れてみるのもよいだろう。