Nintendo Switch改造で巨額の賠償金を課せられた男、この金額は「まだ捕まっていない人へのメッセージではないか」と推察。現在は超長期間の支払いを見据えて生活

 

アメリカで2020年に逮捕され、その後米国任天堂が提起した訴訟にて巨額の損害賠償金を支払うことになったハッカーグループTeam XecuterのひとりGary Bowser氏が、英国紙The Guardianのインタビューに答え、任天堂との裁判などについて振り返っている。


Team Xecuterは、2001年に発足し活動を続ける、家庭用ゲーム機の改造ツールの開発において長い歴史を持つハッカーグループ。近年はNintendo Switch本体のハックを可能にする、すなわち海賊版ゲームの起動が可能な製品を手がけ、任天堂は同製品を扱う販売代理店を相手取った訴訟を繰り返してきた。そうしたなかで、グループの主要メンバーのひとりであったGary Bowser氏はドミニカ共和国で逮捕。その後米国に移送され、米国任天堂および司法省から提起された裁判に臨む。

司法省との裁判においてBowser氏は司法取引に応じ、Team Xecuterによる違法行為への関与や、著作権保護されたゲームの海賊版をプレイするためのデバイスの開発・製造・販売をおこなったことを認めた。また任天堂との裁判は和解に至る。そして彼には、この2つの裁判であわせて1450万ドル(約21億円・現在のレート)の損害賠償金の任天堂への支払いが課されることとなった(関連記事)。

この一連の出来事は、同氏のセカンドネームBowserが『スーパーマリオ』シリーズに登場するクッパの英語名と同じだったことから、海外では一部で「任天堂がクッパを訴えた」と報じられ注目された。

Gary Bowser氏


今回のThe GuardianとのインタビューにてBowser氏は、Team Xecuterには2000年代後半に加入し、製品テスターとして働き始めたと振り返る。その後同氏は、テスターと開発チームの橋渡し役を担うようになり、中心メンバーへと昇格していったという。そして2020年9月の朝4時、同氏は複数の人物に取り囲まれライフルを向けられた状態で起床し、逮捕され国際刑事警察機構へと引き渡されたとのこと。

現在Bowser氏は、裁判で合意した賠償金の支払いのため、月の収入(家賃など生活に必要なお金は差し引く)の20〜30%を任天堂に支払うことが義務付けられており、その命令どおりに従っているという。ただ、生活にはあまり余裕はなく手元には数百ドルが残るだけで、支払いは大した金額ではないとのこと。言い換えると、1450万ドルを支払い切るには途方もない年月、ともすれば一生かかるかもしれない状況のようだ。それでも同氏は、任天堂に支払い続けると述べている。

また、そうした自身への厳しい刑罰についてBowser氏は、まだ捕まっていない人たちへのメッセージのようなものだとの見解を語る。同氏は海賊版にかかわる製品を開発したわけではなく、製品のWebサイトの管理など広報的な役割を担っていたに過ぎない。実際に製品開発に携わった人がもし逮捕・起訴されれば、より厳しい刑に服することになるだろうとした。つまり、自身の刑罰については「見せしめ」であると言いたいのかもしれない。

現在Gary Bowser氏は、人生の再スタートのため、また持病治療のための寄付を募っている


なおBowser氏の刑事裁判では、司法取引に応じたものの、懲役40か月の実刑判決となった(模範囚として刑期短縮され2023年3月に釈放)。当時検察側は、ゲーム業界を傷つける取り組みを続けた場合には、それなりの結果が伴うというメッセージを発する必要があるとして、懲役5年を求刑したという。これに対しBowser氏は、自身はTeam Xecuterのリーダーではないととして減刑を求めた(ArsTechnica)。

こうした経験が、先述した“まだ捕まっていない人たちへのメッセージ”という発言に繋がったのかもしれない。あくまでBowser氏の見解であり、そのとおり同氏よりも厳しい刑罰が科されることになるのかは何ともいえない。また、Nintendo Switch向けのハック製品は、今もまだ新たなものが登場している模様。任天堂は今後も粛々と対応していくことになるだろう。