超高評価Steamゲーム開発者、「素晴らしいゲーム」と称賛されたレビューが“返金済み”で困惑する。その時の正直な気持ちを、開発者に訊いた

 

個人開発者SOMI氏は1月30日、自身が発売したSteamゲームのレビューについて投稿。そのレビューは、ゲームを称賛する内容ながら、「返金済み」ステータスがついているというもの。この投稿が注目を集めているようだ。

絶賛しているのに返金しているレビュー

SOMI氏は、韓国を拠点とする個人ゲーム開発者だ。重厚な物語を意欲的な構造をもって届けるところに強みをもつ。ゲームの尺は長くないながら、濃厚なゲーム体験を提供する開発者である。そんな同氏が1月18日に発売したのが、『未解決事件は終わらせないといけないから』である。

『未解決事件は終わらせないといけないから』では、警察を退職して12年が経過した元警部・清崎蒼と謎の人物の対話や回想を通じて、ある少女が行方不明事件となった経緯を紐解いていく。会話の発言者や時系列を並べ替えながら、事件の真相を紐解いていく独自の手法、そしてそこから導き出される物語など、短い時間で濃い体験ができるゲームであるとして、高い評価を獲得。Steamでは1000件弱のレビューが集まり、高評価率が97%の「圧倒的に好評」ステータスとなっており、極めて高く評価されている。

※ トレイラーは英語ながらゲームは日本語に対応している


そうした評価に喜ぶSOMI氏であったが、1月30日にあるユーザーレビューについて言及。その内容はゲームの質の高さを称賛する一方で、「返金済み」のステータスがついている。つまり、ゲームを高く評価したにもかかわらず返金したユーザーのレビューであるとして、SOMI氏は困惑しているようだ。


手軽な返金が可能なSteamレビュー

なぜこのような現象が発生しているのか。それはSteamの返金システムに由来するだろう。Steamでは、ユーザーが購入したゲームの返金を受け付けるサービスが存在。基本的な条件は、「購入から2週間以内で、プレイ時間が2時間以内」であること。場合によってはその条件に当てはまらずとも返金されるケースがあるが、基本は前述の条件を満たしていれば返金対応を受けられる。そして『未解決事件は終わらせないといけないから』については、2時間以内でクリアできうる作品である。


筆者は本作について迷い迷いにプレイしてすべてのエンディングを見たが、クリア時間は2時間30分であった。飲み込みが早く速解きできる人であれば2時間以内にクリアできるだろう。つまり、クリアしていてもSteamの返金条件を満たせる。該当ユーザーのプレイ時間は1.8時間。条件を満たしており、このユーザーはゲーム価格約800円が返ってくることを選んだわけだ。SOMI氏は「本当に素晴らしいゲーム」というユーザーコメントを参照しつつ、「もっと長いゲームにすべきだったかな」と嘆いている。

Steamの返金システムでは「ゲームを無料で試すためのシステムではない」ことは明言されており濫用しないようにも案内されている。一方で手続きのシンプルさもあってか、ユーザーに良心的ではあるが、今回のようなケースも起こり得るということだろう。実際のところ開発者はどう思うのか、SOMI氏に話を訊いた。

特殊な例だが、困惑あり

まずは上述のユーザーレビューを見た時どう思ったのか、詳細を訊いてみた。するとSOMI氏は、「不快に思わず、深刻だとは思わなかった」とコメント。むしろ少し面白おかしい(a bit funny)とも思ったそうだ。なにより、単純にレビューがゲーム内容を褒めるものであったにもかかわらず返金をしていたので、その矛盾を興味深く思ったという。その内容をSNSに投稿したところ、レビューの書き手に怒る人が思ったよりも多く、書き手には申し訳なくも思っているとのこと。


またこうした「返金済み好評レビュー」については、SOMI氏が確認したところ、このレビューのみだったとのこと。つまり、かなり稀なケースなのだろう。また同氏の作品ではゲームの返金率が高いわけでもなく、5%未満。『未解決事件は終わらせないといけないから』でもSOMI氏の過去作と同じく、同様の返金率になっているそうだ。

なおSOMI氏に、返金を意識してゲームのボリュームを大きくすることを検討したことがあるか訊いたところ、そうした考えはないという。SNS投稿は悩みというより愚痴(whine)に近いものだったそうだ。一方で、ゲームを全編遊んだユーザーが返金できるシステムについては、開発者やゲームの品質に影響を与える可能性があるとして、改善すべきとの考えを示した。ユーザー側の権利を守ることは重要であるが、プロバイダー(つまり発売する側)だけに負担を強いる仕組みは望ましくないとしている。

SOMI氏はその説明として、たとえばある映画の上映時間が1時間半であり、2時間に満たなかったことでユーザーがチケットを払い戻すようなシステムがあったとして、誰も同様の短さの映画を作りたくはならないだろうと指摘。制度の目的が正当であったとしても、「消費者のモラルにのみ依存する」システムについては、改善の余地があるのではないかとコメントした。


返金機能は特定地域では義務づけられており、対象や機能、条件は違えど、各プラットフォームで備えられているサービス。そしてSteamは大きなプラットフォームの中でも返金サービスが利用しやすい。先述のとおり濫用を避けるように案内されているものの、細かい手続きは必要とせず、さくっと返金措置を受けられる。消費者としては良心的だが、短編ゲーム開発者としては鬼門である。

作品を愛するゲーマーにできること

これまでにも評価は高いながらも返金措置に苦しんだゲームは数々存在。ホラーゲーム『Summer of ’58』(関連記事)やWebカメラを使ったアドベンチャー『Before Your Eyes』など、2時間以内でクリアできるものの、濃密な体験を味わえるゲームの開発者は、“ゲームをクリアし満足したにもかかわらず”返金を受けているユーザーがいるとし嘆きをこぼしている。こうした開発者の声を聞いて再度購入するユーザーも出るといった事例もあったが(関連記事)、とはいえ、そうした者は一握り。返金条件となる「プレイ時間2時間」は短編ゲーム開発者にとっては難しい問題なのである。


一方で、SOMI氏の述べるように返金済み称賛レビューが約1000件程度あるうちの1件程度であり、返金率自体も低いならば、「クリアしたのに返金される」のは特異なケースかもしれない。少なくとも本作に限っては、同氏のいうように深刻な問題ではないのだろう。最後にSOMI氏に「こうしたレビューを見た開発者を応援するにはどうしたらいいのか」と訊いてみた。

するとSOMI氏は「私のゲームのストーリーや、そこから得られた気持ちについて、周りの人たちと話してくれれば、とても励みになります」とコメント。そしてプレイしてくれた人に感謝を述べ、回答は締められた。ゲームが広まればいろんなユーザーが出てくるだろう。その中で開発者に納得できないようなことがあったとしても、ユーザーがそのゲームがいいものだと感じたならば、それを声にすることで、開発者のモヤモヤは少し晴れるのかもしれない。

※ またゲームを作ることができる日はくるのか、考え込むSOMI氏


『未解決事件は終わらせないといけないから』はPC(Steam)向けに販売中。同作を気に入った方は、SOMI氏過去作『Replica』や『Legal Dungeon』『The Wake』といった作品も秀でているので、チェックしてみてほしい。その購入が、何よりの応援になるはずだ。