元Valveの開発者、今後の作品ではSteam早期アクセス配信を使わないと表明。開発途中で「死んだゲーム」扱いされる現状に不満述べる

 

デベロッパーのStray Bombay CompanyのCEO Chet Faliszek氏は11月28日、今後はもう早期アクセス配信を通じたゲーム開発をしないと表明。同スタジオは現在新作『The Anacrusis』の早期アクセス配信を実施している最中であり、同氏のコメントに注目が集まっている。海外メディア80 Levelなどが報じている。

『The Anacrusis』は、レトロフューチャーな世界観をもつ、最大4人協力プレイ対応のFPSだ。エイリアンの大群に襲われた巨大宇宙船内を舞台に、プレイヤーは銃や特殊効果を発動できるスキルを駆使して戦う。また、武器や各種アイテムの配置、敵のスポーン、ボスの行動などさまざまなゲーム要素が、プレイヤーのスキルレベルに応じて調整されるAI Driverシステムが特徴のひとつとなっている。


『The Anacrusis』の開発を率いるChet Faliszek氏は、かつてValveに長年勤め『Left 4 Dead』シリーズなどを手がけたことで知られる人物だ。同氏は2019年に独立してStray Bombay Companyを設立し、2022年1月に『The Anacrusis』の早期アクセス配信をPC/Xbox One/Xbox Series X|S向けに開始。それからさらに開発が進められ、今年12月5日に正式リリースされる予定となっている。

約22か月にわたって続けられた早期アクセス配信ももうすぐ終了というタイミングでFaliszek氏は、今後の作品では早期アクセス配信をおこなわないと自身のLinkedInページに投稿。その後、YouTubeを通じて真意を語った(いずれも現時点で削除されている)。そのなかで同氏は、もともとSteamの早期アクセス配信は、プレイヤーからのフィードバックを得ながらゲームの改善・変更をおこなっていくために役立つ仕組みであったが、もはやそうした使い方はできないと述べる。

その理由のひとつには、早期アクセス段階であるにもかかわらず、大手メディアが製品版のように扱ってレビューすることを挙げている。同氏は、プレイヤーが現状に不満があった場合にそれを述べることは理解できるとしつつ、さらに改善させ多くの変更を重ねていく前に、作品としての評価が定まってしまうことにフラストレーションを感じているという。ちなみに『The Anacrusis』では、これまでに57回ものアップデートが実施されている。


またFaliszek氏は、SteamDBなどの外部データベースサイトにて伝えられる同時接続プレイヤー数についても言及。かなり少ない人数であることが確認された場合、その作品に対して掲示板などに「Dead Game」と心無い言葉を投稿するゲーマーがいるという。早期アクセス配信を通じてゲームを改善させ、さらにプレイヤー数を増やしていこうにも、同時接続プレイヤー数の可視化が悪循環に繋がる可能性があるということのようだ。

さらに同氏は、その同時接続プレイヤー数の正確性に疑問を投げかけている。同氏いわく、『The Anacrusis』のSteam版の同時接続プレイヤー数が1人とSteamDBに表示されていた当時、開発元側では1万人のプレイヤーを確認していたという。本作はクロスプレイに対応しており、その1万人にSteam版以外のプレイヤーも含まれるのかどうかは不明だが、同氏は大きな誤差があるとしている。

ただし、これはSteamDBなどのデータベースサイト側の問題ではなく、Steam APIを通じてSteamから提供されるデータ自体に問題があると同氏は述べている。SteamDBの運営者Pavel Djundik氏も、サイト側では数値は操作しておらず、開発者はSteamの開発者ページにて同じデータを確認できるはずだとコメントしている。


Stray Bombay Companyのコミュニケーション担当者Will Smith氏は、同時接続プレイヤー数が500〜2000人程度を下回っている場合に、Steam APIから提供される数値は正確でなくなると主張している。ちなみに、Steam向けゲームの同時接続プレイヤー数はSteamストア上でも公開されている。ただ上位100タイトルまでのため、上記の数値の作品を確認できることはほとんどない。なお、その上位タイトルの数値については、SteamDB上の数値と一致している。

今回言及された、Steam APIを通じて提供される同時接続プレイヤー数の正確性については、これまでに開発者から指摘された例があまりないため、事実かどうかはっきりしない。ちなみに『The Anacrusis』の早期アクセス配信開始直後には、20万人以上のプレイヤー数を記録したと発表された一方で、SteamDB上ではSteam版の同時接続プレイヤーは9人しかいないと伝えられた。その際に開発者は、Xbox/PC Game Pass向けに提供していることを理由に想定どおりであると回答し、数値の正確性については触れなかった(関連記事)。その9人という数値については正確だったのか、あるいは後に正確でないことがあると判明したのか気になるところである。


ともあれ、Chet Faliszek氏率いるStray Bombay Companyでの今後の作品では、早期アクセス配信を利用した開発はおこなわないとのこと。プレイテストが必要だったとしても、完成に近づいた段階で実施するという。開発終盤にクローズドでベータテストを実施するか、ゲーム内容の変更を前提としないサーバーのストレステストだけを実施するか、どちらかに止めるだろうとしている。それが『The Anacrusis』の開発を通じて得た教訓だったということのようだ。

一方で同氏は(先のLinkedInおよびYouTube投稿を削除したのち)、『The Anacrusis』の早期アクセス配信中に寄せられたコミュニティからのフィードバックは貴重なものであったともコメント。開発の早い段階からコミュニティに参加してもらう場合は、Patreonのようなスタイルで自らのコミュニティを構築することが良いかもしれないと述べている。

『The Anacrusis』は、PC(Steam/Microsoft Store)/Xbox One/Xbox Series X|S向けに早期アクセス配信中。そして12月5日に正式リリース予定だ。