マイクロソフトが「AIによるゲームNPCとのリアルタイム会話生成」などを提供するInworld AIと提携。AIツールセットをゲーム開発者向けに提供へ
マイクロソフトは11月7日、Inworld AIと複数年にわたるパートナーシップ契約を締結したと発表。ゲームにおけるダイアログ&ナラティブ制作用生成AIツールを共同で手がけ、ゲーム開発者向けに今後提供するとした。
Inworld AIは、アメリカ・カリフォルニア州に拠点を置く生成AI技術開発企業。ゲーム開発向けには「Character Engine」と呼ばれるNPC制作ツールを提供しており、Unreal EngineやUnityなどと連携させて利用可能。同ツールでは、NPCへの人間的かつゲーム世界観に基づいた特徴付けや、プレイヤーとのリアルタイムでの会話などを実現できるとされている。NPCの発言において、指定の表現を避けるなどのカスタマイズにも対応する。
今回発表された両社のパートナーシップでは、Inworld AIがもつキャラクター開発向け生成AI技術の専門的知識と、マイクロソフトがもつAzure OpenAI ServiceなどのクラウドベースのAIソリューション、およびMicrosoft Researchによる将来の遊びへの技術的洞察、Xbox部門によるあらゆる開発者のための開発ツールへの取り組みを組み合わせて、マルチプラットフォーム対応のAIツールを開発するとのこと。
ゲーム開発者は、そのAIツールをダイアログやストーリー、クエストデザインに活用可能。よりクリエイティブなアイデアを探求したり、プロンプトを調整してスクリプトやダイアログツリー、クエストなどのディテールを深めたりできるという。また、AIキャラクターランタイムエンジンをゲームクライアントに実装することで、ストーリーやクエスト、ダイアログを動的に生成することも可能だとしている。
マイクロソフトは、Xbox部門にて開発している開発者向けツールと同じく、世界中のあらゆる規模の開発者、およびあらゆるプラットフォームに向けて、最先端のAIツールを提供することが目標だと述べる。そして、開発者のビジョンの実現や新たなことへの挑戦、ゲームプレイやプレイヤーとの繋がりの改善などの実験に取り組みやすくなるよう、同ツールによって手助けしたいとした。
マイクロソフトは、対話型生成AIであるChatGPTを手がけるOpenAIに出資し、その技術を「Copilot」として「Word」や「Excel」などの「Microsoft 365」製品向けに展開している。今回のInworld AIとのパートナーシップは、そうした生成AI技術に関する取り組みを、ゲーム開発分野にも広げていくものと受け取れる。
近年の生成AI技術の急速な発達を受け、ゲーム開発にも同技術が取り入られれつつある。すでに一部のゲームにおいては、生成AIによって制作したオブジェクトなどのアセットが実装される例があり、キャラクターのボイスに活用された作品もある。また開発ツールへの導入という面では、たとえばUbisoftはNPCのセリフをAIによって生成する「Ghostwriter」を開発中。オープンワールドゲームにおける雑多なNPCのセリフ作成という単純作業を、迅速かつ効率的におこなえる社内向けツールだという(関連記事)。
マイクロソフトとInworld AIが手がけるAIツールでは、ゲーム開発にかかる時間やリソースを減らすだけでなく、より広大で没入感のある世界や物語を構築できるようにすることも目標としているそうだ。特に小規模のインディースタジオなどにとっては、これまで作れなかったタイプのゲームの開発に挑戦できる可能性を秘めるツールといえるかもしれない。今回の発表を受けてSNSなどでは、同ツールを用いてどのような作品が生み出されるのか期待を示す声が聞かれる。
一方で、従来は人間のクリエイターがおこなっていた作業をAIに代替させる技術という見方もできることから、今回の発表に対しては懸念や批判的な意見も少なくない。今年ゲーム業界では、マイクロソフトを含む多数の企業にてレイオフが実施され、また米国ではSAG-AFTRA(俳優組合)やWGA(脚本家組合)が生成AI技術規制などをめぐりストライキをおこなっている最中という背景もあり、より印象悪く映った様子である。もっとも、同ツールはこれから共同開発を進めるという段階であり、また導入するかどうかはスタジオごとの判断に委ねられている。今後どのように展開・活用されるのか注目を集めそうだ。