任天堂が今年5月に米国にて出願していた特許の情報が、9月7日に公表された。これを受けて、アナログスティックのいわゆる“ドリフト”の問題の解決に向けて、同社が取り組んでいるのではないかと注目を集めている。海外メディアVGCなどが報じている。
ドリフトとは、アナログスティックに触れていないのに勝手に操作入力がおこなわれる現象のこと。内部パーツの何らかの不具合が原因だと考えられており、Nintendo SwitchのJoy-Conなどで発生する場合があることで知られる。ただ今回出願が判明した特許については、この“ドリフト問題”とは関係ないものである可能性がある。
今回米国にて公表された任天堂出願の特許(PDF)は「INFORMATION PROCESSING SYSTEM, CONTROLLER, INFORMATION PROCESSING METHOD, AND COMPUTER-READABLE NON-TRANSITORY STORAGE MEDIUM HAVING STORED THEREIN INFORMATION PROCESSING PROGRAM」と題されており、アナログスティックパーツなどの図が添付。極めて大まかにいうと、そうした操作パーツに磁性流体を利用する技術が示されている。なお、任天堂による同様の特許は欧州でも2020年に出願されており、こちらは今年8月に公表されている。
アナログスティックにおいては、磁気を利用してその操作検出をおこなうホールセンサーの存在が知られる。スティック操作にて発生する磁界の変化を測定する電子部品のことだ。Joy-Conなどで採用されているアナログスティックでは、内部の金属製ブラシパーツが導電性のパッドに接触することで操作の情報を伝える仕組みとなっている。一方で、ホールセンサーではパーツの物理的な接触を伴わない。
ブラシパーツ利用型のような物理的な接触が、先述したドリフト現象の原因だとみられており、近年周辺機器メーカー製のコントローラーでは、ホールセンサーを使用したアナログスティックを搭載する例が増えてきている(関連記事)。前出の海外メディアVGCなどは、詳細は不明としながら、磁気を利用するという今回の特許はホールセンサーのような仕組みでドリフトの発生を回避することが狙いかもしれないと指摘している。
ただ、公表された特許資料を詳しく見ていくと、必ずしもそうした技術ではない可能性がある。資料にて任天堂は、アナログスティックなどの操作パーツにおいては、ユーザーが受ける感触や情報量に改善の余地があるとして技術の意図を説明。端的にいうと、磁気レオロジー流体(磁気粘弾性流体・MRF)を利用して、操作時にユーザーに抵抗感などのフィードバックを与える技術になるようだ。
磁気レオロジー流体は、磁気力の変化によって粘度が変化する性質があり、既存製品では電流・電圧を変化させてトルク制御をおこなうものがある。物理的な駆動部の接触を伴わずにトルクを発生させられるという。任天堂が出願した特許ではそうした特性を利用し、機器側からアナログスティックを制御。たとえば「沼地でスティックが重くなる」といったフィードバックをユーザーに与える技術になるとみられる。また、アナログスティックなどの操作パーツにおいて、粘度状態の異なる2種類の磁気レオロジー流体を用い、操作後に自律的に初期位置に戻すよう制御できることが特徴だと説明されている。
アナログスティックのドリフト現象に関しては、近年Joy-Conなどでの発生事例が多く報告され、一部の国では集団訴訟にも発展。そうした動きを受けてか任天堂は米国や欧州などにおいて、ドリフトの症状が発生した場合、そのJoy-Conが保証期間内か否かに関わらず一律無料で修理する対応をおこなうようになっている(関連記事)。
また、任天堂代表取締役社⻑の古川俊太郎氏は2020年6月の定時株主総会の場にてこの問題について謝罪し、製品の改良については継続的に取り組んでいると説明。米国任天堂社長Doug Bowser氏も当時、改善に向けた取り組みをおこなっていると述べていた(関連記事)。こうした背景があるため、アナログスティックなどに磁気を利用する今回の特許について、ドリフト問題への対策かもしれないと一部で解釈されたのだろう。
それはそれとして、今回の特許の内容自体は興味深いものとなっている。特許を出願したからといってその技術が必ず製品に導入されるとは限らないが、Nintendo Switchやその次世代機などにおける、任天堂の今後の動向に注目したい。