『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』開発者、前作のユーザーお手製“非公式フライングマシン”に勇気づけられていた


ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』を開発する上で、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドのユーザーの遊びが開発者に勇気を与えていたようだ。『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドでは、ユーザーたちがゲーム内でさまざまな“ツール”を生み出していた。その例のひとつが、空飛ぶフライングマシン。そのフライングマシンは、思わぬ影響を生み出していたようである。

『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』では、公式にフライングマシンは存在しない。そもそもフライングマシンという呼称もユーザーがつけたものだ。どのようなものなのかというと、トロッコを重ねて乗り込み、マグネキャッチを使い空を飛ぶという力技だ。マグネキャッチは、リンクがオブジェクトを移動させる力である。リンクが今乗っている乗り物は動かすことができない。しかし、トロッコの上にトロッコを重ね、“下側のトロッコ”をマグネキャッチで操作することで、フライングマシンを完成させたのだ。箱を使うパターンもあるが、いずれにしても物を重ねて無理やり空を飛ぶ手法が発明されていたわけだ。


そして新作『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』では、公式にフライングマシンが登場する。前作のユーザー謹製フライングマシンとは形態は違うが、乗って移動する手段が大量に生まれている。前作と新作のディレクターを務める藤林秀麿氏は、前作のユーザー製フライングマシンに勇気づけられたことを、The Washington Postのインタビューにて明かしている。

新作における、オブジェクトをつなげる遊びは、開発初期に藤林氏が持ち込んだものであると、任天堂公式のインタビューでも明かされていた。同インタビューで藤林氏は「回転する4つの歯車をタイヤに見立てて板につけて車をつくったり、その自動で回る歯車に板をくっつけて外輪船にしたり。あとは、石板を組み合わせて筒にして、リモコンバクダンを使って古代球を飛ばせる大砲をつくって、車と合わせて戦車にしたりもしました」とコメントしていた。

藤林氏は、新作開発初期に試行錯誤をしたのち、SNSなどで『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のフライングマシンやほかの発明を目撃したという。藤林氏は、そうした動画を見て、ユーザーが(フライングマシンなどの)発明を楽しんでいるのを見たことで、自分たちが新作で取り組んでいる要素が、人々を楽しませることができるだろうという自信をもったそうだ。つまり、ある意味では、非公式フライングマシンが開発者を勇気づけていたといえる。


『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』では、ユーザーたちによる遊びがさまざま生み出されてきた。そうした遊びや仕様に対して、開発者側が直接コメントすることはあまりない。ただ、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』発売直後のインタビューでは、テクニカルディレクターの堂田卓宏氏が、宙を浮く方法についてあえて残しているとコメント(ファミ通.com)。またプロデューサーの青沼英二氏はインタビューにて、「トロッコとマグネキャッチを使って空を飛ぶような動画を見て、スタッフ全員が絶句した」とコメントしていた(日経クロストレンド)。前作では、ユーザーによる遊びの手段は一部意図的に残されており、そして開発陣はそうした遊びを見守っていたわけだ。

『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』においては、前出のフライングマシンを含めて、仕様か不具合か曖昧な愉しげなテクニックがさまざま生み出され、かつそれらの多くが修正されなかった。そして『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』では、前作以上にユーザーがさまざまなものを発明できるようになった。そうした背景や今回の藤林氏の発言を踏まえると、開発陣がユーザーコミュニティと遊びをリスペクトしていることが伝わってくるだろう。新作においても、ユーザーらが生み出した発明を、開発者は楽しんでいるのかもしれない。


なお、引用元であるThe Washington Postのインタビューでは、プロデューサーである青沼氏の年齢にともなうパーソナルな話や、昨年3月にゲームを延期した理由、発売直前に出た青沼氏のプレイ動画が急遽提案されたものだったことなど、さまざまな秘話が飛び出している。公式インタビューと重複する内容も多いが、興味のある人は英語テキストであるが読んでみるといいだろう。

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』は好評発売中。ニンテンドーeショップを見る限り、新作発売に際して、前作『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のセールスも伸びているようだ。