「マジック:ザ・ギャザリング」の新カードをリークしたYouTuber、自宅訪問されカードを回収される
「マジック:ザ・ギャザリング(Magic: The Gathering)」(以下、MtG)の、未発売の新カードセットを入手して開封動画を投稿したYouTuberの自宅に、ピンカートン社(セキュリティ会社)の捜査官らが訪れたという。このYouTuberはWizards of the Coast(以下、WotC)に問い合わせをおこない、未発売セットをすべて返送することで事態は収束をみたようだ。Kotakuなどが伝えている。
「MtG」は1993年からWotCが開発・制作している人気トレーディングカードゲーム。「もっともよく遊ばれているトレーディングカードゲーム」として2016年にはギネス世界記録にも認定されるなど、世界でもっとも有名なカードゲームのひとつといえる。
「MtG」では毎年の春・夏・秋・冬に、カードセットと呼ばれる新しいカードが収録されたパッケージが販売されている。現行の最新セットは4月21日に発売開始された「機械兵団の進軍(March of the Machine)」である。また、「機械兵団の進軍:決戦の後に(March of the Machine: The Aftermath)」の発売が5月12日に控えている。
この未発売・未プレビューのカードセット「機械兵団の進軍:決戦の後に」を手にしたとある人物が、YouTube上に開封動画を投稿した(現在は削除済み)。問題の人物は「MtG」の長年のファンでありYouTuberでもあるOldschoolmtg氏。同氏はこの動画投稿後、開発元のWotCから派遣されたピンカートン社(セキュリティ会社)の捜査官に詰問されることになったという。同氏はYouTubeに動画を投稿し、ことの顛末を報告した。
Oldschoolmtg氏は偶然にも合法的な手段で未発売のカードセットを受け取ったといい、自宅で開封動画を撮影し、カードの詳細についてYouTubeに投稿した。翌日の朝、別の動画を撮影していると、ピンカートン社の捜査官らが玄関に現れたという。
ピンカートン社は、19世紀のアメリカで活躍した有名な探偵社を前身としている。同社は西部開拓時代の犯罪捜査に関与し、リンカーンの暗殺を阻止したことでも知られている。一方でストライキ破りとしてのスパイ活動や暴力的な活動から世間の非難の対象となった過去もある。近年では『レッド・デッド・リデンプション2』にて主人公を追う勢力として登場し、作中での描写を巡り訴訟に発展した(関連記事)。なお現在はスウェーデンのセキュリティ会社Securitasの子会社となり、同社の一部門として「Pinkerton」の名を残し運営されている。
Oldschoolmtg氏によれば、ピンカートン社の捜査官らは「盗まれた」カードを回収しに来たと述べた上で、窃盗による10年間の懲役や20万ドル(約2660万円)もの莫大な罰金などについても言及し、カードを押収しようとしたという。玄関で対応していた妻はあまりの恐怖から泣き崩れてしまったと同氏は語る。
その後、ピンカートン社の捜査員はOldschoolmtg氏にWotCの担当者と連絡し、事態を解決するよう求めたという。同氏によれば、WotCの担当者はとても親切に対応してくれたそうだ。担当者は朝早くからピンカートン社の捜査官を動員するという物々しい応対をしたことについて謝罪。一方で、事件の原因究明をおこなうために流通経路などを調べる上で必要だとしてカードの返品を求め、Oldschoolmtg氏はこれに応じたそうだ。開封したものも含めそのすべてをピンカートン社に回収されたと同氏は語る。
Oldschoolmtg氏によれば、カードセットの購入費用は4000ドル(約53万円)に上る。WotCの担当者はカードの購入費用について、別の製品を送ることで弁償したいと語っていたという。
また、4月26日に投稿された別の動画でOldschoolmtg氏は、ピンカートン社の捜査官は家に来ただけではなく近所の家々にも訪れ、「彼らは私どもと会う約束があったのに現れていない」などと騙り同氏に関する情報をなんとか収集しようとしていたようだと語った。同氏は、本件に対し今後どのような対応をするかは検討中だが、WotCないしピンカートン社の対応は一線を越えているように感じると表明している。
いくら公式発表前のカードセットを回収するためとはいえ、強引すぎるとの主張だろう。
なお海外メディアTheGamerの問い合わせに対し、WotCは現状での各誌の報道を確認しており、ピンカートン社はWotCがおこなう調査の一部を担っていることを認めたという。
なおOldschoolmtg氏は、今回の一件はピンカートン社の捜査官らが語ったような「窃盗事件」ではないと主張している。すでに削除された開封動画の中で同氏は、懇意にしていたカードショップの店員からすでに発売中である「機械兵団の進軍」のコレクターズボックスが安く手に入ったから見てみないかとの連絡を受け購入したと説明していた。このカードショップの店員は『遊戯王』や『ポケモン』については詳しいが、「MtG」については明るくないはずだと語り、それが原因で店員が勘違いしてしまったのだろう、とも述べていた。
同氏の主張が正しければ、たしかに発売済みの「March of the Machine(機械兵団の進軍)」と発売前の「March of the Machine: The Aftermath(機械兵団の進軍:決戦の後に)」は英名でのタイトルの違いが「The Aftermath」の有無のみであり、下の画像のようにパッケージのロゴも似ている。「MtG」に詳しくなければその違いは分かりにくいかもしれない。長年の「MtG」ファンであるOldschoolmtg氏もこの“コレクターズボックス”が実際には未発売・未プレビューの最新セットであることに気がついたのは購入した後だったという。
なお今回、騒動の渦中にあった「機械兵団の進軍:決戦の後に」は、前編「機械兵団の進軍」のストーリーを補完する、全50枚からなる小規模なカードセットだ(通常は200枚)。
枚数こそ少ないが、「団結のドミナリア」から長きに渡って描かれてきた新ファイレクシアとの争いを巡る壮大なストーリーに関係し、その最終決戦の結末を収録したもので、「MtG」の世界を永久に変えてしまうような要素も含まれているとされていた。スタンダードの本流における正統な続編として、これまでのストーリーを追っていたファンにとっては待望のセットだったといえるだろう。5月1日から公式サイトにてストーリーが徐々に紐解かれ、5月2日にはカードのプレビューがおこなわれる予定だった。
Oldschoolmtg氏の動画のコメント欄などには、同氏の語ったピンカートン社の強硬な手段へ非難が集まる一方で、Oldschoolmtg氏の行動に批判的な目を向けるファンも見受けられる。「MtG」の公式ストーリーには膨大な数のクリエイターたちが関わっており、少しずつ小出しにされる情報を心待ちにしているファンも大勢いる。入手手段が同氏の主張どおり故意ではなかったとしても、未発売・未プレビューのカードセットの開封動画を公開した点はリーク行為であり、問題だろう。
「MtG」のリーク自体は珍しい話ではない。1月にも「ファイレクシア:完全なる統一」は事前に情報がリークされていたほか、「統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い」「ゲートウォッチの誓い」「新たなるファイレクシア」など、これまでも未発売カードセットの情報が事前にリークされてしまうことは多々あった。
待望の新カードセットの公式発表を前に起きた今回の一件。Oldschoolmtg氏の主張どおりであれば、カードショップにおける新カードセットの管理のずさんさも問題といえる。公式による正式な情報発信を心待ちにしているファンからはこれを機に、これ以上不幸な事故が起きないよう、カードの管理体制を見直すべきという声もあがっている。
「マジック:ザ・ギャザリング(Magic: The Gathering)」のカードセット「機械兵団の進軍」は4月21日より発売中。新セットの「機械兵団の進軍:決戦の後に」は5月13日に発売を予定している。