ゲーム開発者たちが「ポリゴン数の失敗話」に花を咲かせる。“1600万ポリゴンで構成された3Dポップタルト”をきっかけに

ゲーム開発者たちが、ポリゴン数の失敗話に花を咲かせている。「1600万ポリゴンで構成された3Dポップタルト」をきっかけに。

ゲーム開発中に遭遇したパフォーマンスに関するユニークな失敗談を、開発者たちが共有している。ゲームづくりにおいては、失敗はつきもの。いろんな要素をつなぎあわせて作られており、ユーザーは完成したものを遊ぶことがほとんど。しかしその裏では、さまざまな失敗が生じており、それらを修正したり改善したりしながらゲームはできあがっていく。そうしたゲームの失敗に関する体験談を、開発者たちが共有している。ことの発端は、アーティストのdatbx氏がVRChat用素材としてTwitterに投稿したとある画像だ。

https://twitter.com/datbx_/status/1635510281542545409


この「1600万ポリゴンで構成された3Dポップタルト」の画像は、実際にはVRChat用ではなく、モデラーのminwin3d氏が現実のポップタルトから3Dモデルを作成する過程でTikTokに投稿したもの。しかし、そのポリゴン数だけでもゲーム開発者を恐怖に陥れるには十分だったようだ。

ポリゴンとは3Dモデルを構成する要素のひとつ。3Dモデルは多くの平面の組み合わせで構成されていて、その一つ一つの面をポリゴンと呼ぶ。つまり、このポップタルトは1600万もの平面で構成されているということだ。ポリゴンが多ければ多いほど構造を正確に反映することができ、曲面がなめらかに見えるなど自然な造形に近くなる。一方で、多くのポリゴンを描写するには膨大なメモリが必要となり、マシンのスペックに対してポリゴン数が大きすぎると、ゲームのパフォーマンスが悪化し、最悪の場合、クラッシュする原因になることも。つまり、このタルトはポリゴンが多すぎるがゆえに悪夢であるというわけだ。

このタルトは、高ポリゴンを扱うことができる専用のソフトウェアを利用しても、操作するだけで30GBもメモリを消費してしまうようだ。普通のパソコンでは動かせそうもない。

この恐怖のタルトを引用する形で、Tracy Kennedy氏(現Riot Gamesプロデューサー)は『オーバーウォッチ』のアートディレクターから聞いたという『World of Warcraft』(以下WoW)のとあるマップ、「Zangarmarsh」の制作過程に関する興味深い話をTwitterで共有している。

https://twitter.com/RiotLavaliere/status/1636364822416867335


「Zangarmarsh」の開発中、パフォーマンスに深刻な問題が発生していたもののアーティストたちは誰も原因が分からず困り果てていたたという。実はゲームデザイナーが巨大なキノコを縮小してポリゴン数を減らさずにマップに散りばめていたのが原因だっただとか。

それだけではなくRiot Gamesなどでゲームシステムデザイナーを務めたAlexander Brazie氏によると「縮小されたキノコには地形情報と衝突判定まで存在した」とのこと。個性の強いキノコを求めていたユーザーには天国だったかもしれない。もちろん、それだけの処理をおこなえるパソコンを持っていれば、だが。


この話を受け、BlizzardのプロダクトサポートマネージャーであるFreddy氏は、『WoW』内に存在する都市「Dalaran」を、ポリゴン数を変化させることなく縮めて小さなスノードームにした話を聞いたことがあると投稿。この場合、原因を探すのにも一苦労しそうだ。


どうやら、こういった多くのポリゴンを含むオブジェクトをコピーペーストしたことでゲームのパフォーマンスが悪化してしまうというトラブルは『WoW』に限った話ではなさそうだ。Zenimax Online StudiosのリードデザイナーであるFinn氏は、とあるゲームの開発中、ボス戦の場面で用意したクールな光源オブジェクトをゲームデザイナーが気に入ってしまい、画面を明るくするためだけに光源のオブジェクトを複製して、パフォーマンスに悪い影響が出たと語った。画面を単に明るくしたい場合はVFXを用いることで、負荷を最小限に留めることができる。

またFiraxisでパイプラインプロデューサーを務めるJon Jones氏もポリゴンにまつわる苦い思い出があるという。Jones氏がMMORPG『Dungeon Runners』のプロジェクトを引き継いだ時、敵のアイテムドロップでやたらフレームレート落ちるのでなにかと思い見てみたところ、アイテムがプレイヤーモデル全体を適当に流用しており、プレイヤー部分だけをむりやり消してぺったんこにしただけだったのだとか。つまり、ドロップアイテムに大量に不必要なデータが張り付いており、重かったのだろう。


Squanch Gamesの環境アーティストTaylor氏からも興味深い話あり。内容としては、ゲーム内のレストランで提供されていた「ほうれん草のディップ」に誤って8Kのサイズのテキスチャーが貼られていたこともあったという。

https://twitter.com/_hypersapien/status/1635791409361088512


この話を見て「プレイヤーモデルと同様のポリゴン数でフラワーポッドを作っていた『FF14』の初期を思い出したよ」と語るユーザーも。『WoW』然り、一般的にMMORPGでは、多くのプレイヤーをサーバーに収容するためメモリの軽量化をはかる必要がある。さほど重要でないオブジェクトにポリゴン数を割くと、パフォーマンスには深刻な影響が出てしまうだろう。

https://twitter.com/thatbluecatboy/status/1636615962442039299


パフォーマンスとグラフィックに関わる問題について、ゲーム開発者らは枚挙にいとまがないようだ。スレッドには、ほかにも多数のエピソードが投稿されており、中には業界内での専門的な話題も含まれているので、興味のある方は一度チェックしてみることをお勧めする。

Akira Tabata
Akira Tabata

離島に暮らす雑食ゲーマー。物語性の高いゲームが特に好き。『League of Legends』はシーズン3からプレイ。学生時代を棒に振った。歴史ストラテジーゲームが好物です。

Articles: 16