麻布大学の高木哲教授の研究グループ、あまた株式会社、株式会社EDUWARD Pressは3月22日、『VETS VR~牛の分娩介助~』を共同開発したと発表した。本作は牛の分娩介助を学ぶことができる獣医療トレーニング用VRソフトウェアで、4月より麻生大学の授業で使われる予定とのことだ。
『VETS VR~牛の分娩介助~』はVR技術を用いて、牛の子宮内を可視化し、牛の分娩介助の流れを再現したソフトウェアだ。牛の子どもが子宮内で好ましくない体勢にある「失位」の状態で、どのように分娩介助をおこなうかを学ばせる狙いがあるという。失位にもさまざまなパターンが存在するため、それぞれ子宮内ではどのような状態になっているのか、どのような介助が必要かをVR技術を用いて可視化できる点が強みとなる。また、外から見える子牛の脚の向きから、どのような失位に陥っているかを想像する訓練もできるとのことだ。
畜産の現場では、飼育頭数の増加や大型化により乳牛の飼養形態が多様化し、難産となるケースが増加。分娩に伴う子牛の死亡事故も年々増加しているそうだ(帯広畜産大学)。本ソフトウェアで取り扱う、子牛の失位も難産の原因のひとつ。適切な処置をおこなえる人員が増えれば事故数の減少が期待できるだろう。
なお本ソフトウェアの開発チームは以前にも『VETS VR~犬の気管挿管~』を開発している。こちらもVRソフトウェアであり、犬の治療の流れを体験できる内容とされていた。実際の動物を使った臨床実習は、動物にとって命がけとなることも多いとされる。また実習生1人が何度も経験できるものでもないとのこと。『VETS VR』シリーズはVR技術を用いることで、臨床の前に、教科書や映像教材だけでは体験しにくい臨場感のある学びを得られる設計になっているという。治療の手順を事故のリスクなく、繰り返し体験できる点もVRならではだろう。
高木教授によると、海外でもVR技術の獣医療教育への利用はおこなわれており、VRを用いて学習した学生のほうが試験の合格率が高くなっているという。今後も獣医療に限らず、実習に危険を伴ったり繰り返しの実習が難しかったりする分野の教材として、VR技術は利用されていくかもしれない。
※ The English version of this article is available here