『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』のリンクに、はたして乳首はあるのか。ゆれる世情と消える乳首


ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』のリンクに、乳首がないのではないかとの指摘が寄せられている。きっかけとなったのは、昨日公開されたキーアートだ。新作でのリンクとゼルダの姿がお披露目されたが、そのうちのリンクの胸部に乳首がないと、一部ユーザーが指摘している。


新作のリンクには、乳首がない。実際にそうなのだろうか。キーアートをじっくり観察してみよう。公開されたリンクは油彩画のようなデザイン。長い髪の毛やはだけた服装も味わい深いが、今回の主役は乳首、胸部を見てみよう。右腕のあたりから胸の中心部まで影が伸びている。一見すると乳首がないように見える。が、もう少し凝視してみたい。胸の少し下に、既存の影とは違う黒い塗りが確認できる。肌の模様と混ざり合っているが、この影が乳輪および乳首を表現していると解釈できる。つまり、乳首が存在する可能性は残されている。


はっきりとは描かないものの、目立たないようにそれとなく描く。あるいは、どさくさに紛れて描く。任天堂が得意とする“紛れ込ませ系乳首”描写かもしれない。まだ両方の可能性が残されているので、現段階で「リンクに乳首がない」と断じるのは時期尚早だろう。

とはいえ、実際のところ、『ゼルダの伝説』の歴史を考えてみると、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』にてリンクが乳首を備える可能性は低めだ。その歴史については、ビデオゲーム研究を行うYouTubeチャンネルThomas Game Docsの調査動画を見つつ追っていこう。

まず前提として理解したいのは、前作『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』ではリンクは乳首を備えていなかったことだ。前作では、オープニングでリンクが半裸で目を覚ますという、かつてない乳首アピールチャンスがあった。パンツを履くリンク。上半身に何も着けていないリンク。しかし何度胸部を見返しても、そこには乳首は存在しない。同作では上半身裸でフィールドを移動することができるが、もちろん、ゲームが進んでもリンクの胸部に乳首が突然生えることはない。リンクは旅立ちの時点で、すでに乳首と袖を分かっていたのだ。

 


もう少し時系列をさかのぼろう。『ゼルダの伝説』シリーズで、はじめてリンクに乳首表現が確認できたのは『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』になるという。同作ではリンクが仮面をかぶることで、さまざまな効果を得られる。また一部の仮面をかぶれば、特定の種族になることができた。そして仮面をかぶってゴロン族になった際に、変身したゴロンリンクはなんと胸部に乳首を備えていたのだ。同作に登場するNPCのゴロンに乳首はないにもかかわらず、ゴロンリンクが乳首を備えていることから、これはゴロン族ではなくリンク固有の表現であると理解された。

Image Credit : Thomas Game Docs / 任天堂


そして興味深いことに、『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』でリンクは乳首を堂々披露する。同作では、デスマウンテンにて長老ドン・コローネと相撲をとるイベントの際に、リンクは上半身を露わにする。その胸には、ほんのりとであるが、ふたつの乳首が描かれていたのだ(紛れ込ませ系乳首ではあるが)。ちなみに同シーンではトアル村の村長もまた乳首をさらけ出している。こちらのほうが乳首の色は濃い。リマスター版においても、リンクの乳首は「乳首がある」と他者と合意がとれる程度にははっきり描写されている。作品によって世界観は違うもののシリーズの基本設定として、リンクに乳首が存在すると認識できるだろう。

Image Credit : Thomas Game Docs / 任天堂
Image Credit : Thomas Game Docs / 任天堂


しかしながら、それ以外でリンクの乳首目撃例は乏しい。そもそもとしては、旧作においてはリンクが裸になるケースが少なかった。なので「開発陣がリンクに乳首をつけるかどうか」というよりは「リンクが作中に裸になるかどうか」が、乳首が登場するかの鍵を握っていただろう。しかしそんな中、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』では、リンクが裸になるにもかかわらず、はっきりと“乳首なし”が表明された。開発陣からのある種の意思表明である。

乳首をなくすにあたっては、大きな決断が下されたと考えられる。キーとなるのは設定資料集だ。『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』については、公式設定資料集として「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド:マスターワークス」なる大型書籍が発売されている。そちらには、裸のリンクのコンセプトアートが掲載されているが、胸部に乳首らしきものは見えない。開発の最中に「乳首をつけるか、つけないか」をめぐって議論をするなど紆余曲折を経てなんとなく乳首をなくしたのではなく、最初からリンクに乳首をつけないというコンセンサスが開発チーム内でとれていたことが想像できる。

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』は、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の直接的な続編。前作の世界観を継承させていると考えるのが妥当だろう。ならば、乳首なき世界でリンクが脚光を浴びたことを踏まえて、新作でもリンクは乳首をもたないことが濃厚である。うまくいったものを変えるのはリスクがあるからだ。


こうした経緯から、キーアートの影の部分が乳首かどうかを議論するまでもなく、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』のリンクには乳首がなさそうだ。しかしながら、前作は「当たり前を見直す」ことでシリーズは大きな飛躍を果たした。近年の『ゼルダの伝説』シリーズにおいては、リンクに乳首がないのが当たり前。「乳首がないという当たり前」もまた、見直される可能性がある。

結局のところは、すべて製品が発売される日に明らかになるだろう。乳首が『ゼルダの伝説』の醍醐味のすべてではないので、期待はあまりせず、新作の出来栄えを楽しみにしておこう。『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』は、5月12日に発売予定だ。



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