Blizzardベテラン開発者、社内の“低ランクスタッフ”を決める人事システムに猛反発し解雇。本人が認める


Blizzard Entertainment(以下、Blizzard)にてリードソフトウェアエンジニアを務めたBrian Birmingham氏は1月24日、同社に存在する“スタックランキング”と呼ばれる人事評価システムについてTwitter上で語った。この直前に海外メディアBloombergが、同システムに反対したBirmingham氏をBlizzardが解雇したと報じており、自らの口から事情を明かした格好である。

Brian Birmingham氏は、2006年からリードソフトウェアエンジニアとしてBlizzardで働いてきたベテラン開発者だ。主に『World of Warcraft』作品のプログラミングを担当し、また同作の初期バージョンを再現した『World of Warcraft Classic』の開発を率いた人物のひとりとしても知られる。

先述のBloombergの報道は、マネージャー職でもあったBirmingham氏がBlizzardのスタッフらに送ったメールを独自に入手し、また匿名の同社スタッフの証言と併せて報じられた。内容はというと、Blizzardは従業員を正規分布するかたちにランク付けする人事評価システム・スタックランキングを2021年に導入。Birmingham氏は同システムの運用に反対し、人事部に撤回を求めたところ解雇されたというもの。

同社のスタックランキングシステムにおいてはマネージャー職のスタッフに対し、部下の従業員のおよそ5%に、仕事のパフォーマンスが悪いとして低ランクを付けることが求められているという。低ランクとされた従業員はボーナスが減らされ、また将来的な昇給や昇進に悪影響が及ぶ可能性もあるとのこと。

Birmingham氏はスタッフに送ったメールにて、スタックランキングシステムは従業員のあいだで仕事の妨害をし合うような競争を生み、結局は互いの信頼を損なって創造性が破壊されると主張。ただ会社の上層部は、最下位の従業員を絞り出すことで全員が成長できるとして同システムを正当化し、またこのシステムの存在を従業員には秘密にするよう求めたという。

今回Birmingham氏は、Blizzardから解雇された事実を認め、またBloombergの報道内容についても、自らのメールの引用部分については正確であるとコメント。本件を公にするつもりはなかったが、すでに報道されていることであるとして背景について語った。

同氏は、Blizzardの親会社であるActivision Blizzardが生まれた歴史から振り返っている。歴史部分の詳細は割愛するが、ActivisionとBlizzard、Kingを傘下に抱える同社は2020年末から2021年にかけて、3社の人事評価システムの統合に動き出したという。もともと3社とも似たシステムをもっていたものの、この取り組みのなかで5%の従業員を“発展途上(developing)”であると低評価することを強制する方向へと向かっていったそうだ。

Blizzardにとって2021年は、社内のセクハラ問題や関連する訴訟などにより大きく揺れた年だった(関連記事)。これをきっかけに同社では職場環境の改善に動き出し、Birmingham氏はスタックランキングシステムについても撤回されるものと期待したものの、そうはならなかったという。なおスタックランキングシステムの運用については、Blizzard社長のMike Ybarra氏よりも上のレベル、Activision Blizzardの上層部から直接指示が下っていたとのこと。Birmingham氏は、Blizzardは強制されていた立場であり、親会社に問題があると批判した。

スタックランキングという人事評価システムは他社でも採用事例があり、たとえばマイクロソフトではSteve Ballmer氏がCEOを務めた時代に導入。ただ、まさにBirmingham氏が指摘したような理由によって社内に混乱が広がり、2013年には撤廃された。一方、Blizzardの広報担当者はBloombergの取材に対し、同社のシステムは従業員の優れたパフォーマンスを引き出すよう設計されているとコメント。また、期待に応えられていない従業員に対しては、パフォーマンス向上に繋がるフィードバックを提供していると述べたとのこと。

今回のBrian Birmingham氏の声明および同氏に関する報道を受けて、Activision Blizzardに対しては批判的な意見が多く聞かれる。Birmingham氏は、自身はBlizzard作品を今後もプレイするとしつつ、批判を込めてボイコットするかどうかはそれぞれが判断すべきだとフォロワーに向けてコメント。そして、もし許されるならBlizzardに復帰し、内部からスタックランキングシステムについて戦いたいとの希望を語った。