『Call of Duty』のチート業者、米国で訴訟されるも「もう別の国で訴えられてる」と取り下げ求める。ドイツとアメリカ
Activision Blizzard傘下のActivision Publishing(以下、Activision)は2022年1月、自社が手がける『Call of Duty』シリーズのチートツール販売業者に対し、訴訟を起こした。これに対して訴えられたチート販売業者は1月14日、起訴内容を棄却するように要請し、裁判所に申し立てをおこなったという。海外メディアTorrentFreakが報じた。
訴えを起こされたのは、ドイツのEngineOwning社(以下、EO)。チートツールの開発・販売をおこなう会社だ。このチートツールは、自動エイムボットや相手プレイヤーの位置表示といった機能を搭載。『Call of Duty』シリーズや『Battlefield』シリーズなど複数のタイトルに対応するチートツールとして、不正なプレイに使用されてきた経緯がある。同社製含むこうしたチートツールに対し、各タイトルも対抗。Activisionは『Call of Duty』シリーズ向けアンチチートシステム「RICOCHET Anti-Cheat」を導入するなどの対策を進めてきた。
ゲーム内でのチート対策が実施される一方で、Activisionは母体となるEO自体への法的措置にも乗り出した。同社は2022年1月、チートツールを販売するEOや複数の関係者を相手取り、アメリカで裁判を起こした。起訴内容には、チートツールがコンテンツ保護プログラムを回避したとするDMCA(デジタルミレニアム著作権法)侵害や、市場における不正競争を招いたことなどが含まれる。さらに同年9月には、コンピューター詐欺・濫用防止法に基づく請求と、組織的犯罪に対する制裁の要求を追加した。チートツール販売会社らに対し、毅然とした姿勢を示したかたちだ。
しかし、アメリカでの起訴から約1年後の2023年1月14日、EO側関係者らはActivisionの訴えを取り下げるよう、カリフォルニア州中央地方裁判所に申し立てした。海外メディアTorrentFreakが伝えたところによると、取り下げを要求する根拠は大きく分けて2つ。「被告の一部はすでにドイツで起訴されており、現在Activisionと係争中である」「アメリカでの裁判は不合理である」というものだ。
訴訟棄却申し立てにまつわる資料での、EO側の主張は以下のとおりである。まず、一部の被告はすでにActivisionと同様の内容で係争中であるという点だ。今回訴えを起こされた複数の会社・個人のうち、EOおよびValentin Rick氏については、本件の2年以上前にドイツでActivisionから起訴されていたと訴状で明かしている。起訴内容は不正競争防止であり、今もなお裁判は続いているとのこと。今回新たにActivisionがアメリカで提起した訴えは、ドイツにて係争中の裁判と、その起訴対象や内容が一部重複しているというのだ。
なおActivision側の訴状では、このドイツでの裁判に触れていないという。これについてEOは、「一度ドイツで裁判を起こしたと分かれば、同じ内容でもう一度起訴することが難しくなる。そうした事態を危惧して、あえて訴状に記述しなかったのでは」と、Activisionを非難している。
あわせてEOは訴状にて、本件はアメリカで争われるべき内容ではないと述べた。もとより被告らの多くがドイツ在住であり、Activisionによる起訴内容が主にドイツでおこなわれた行為に対する訴えであることから、本件は米国司法の管轄下にないはずだと主張している。「被告はアメリカでサーバーを運営している」というActivision側の主張についても、EO側は「サーバーの所在地は訴訟の管轄地域と関係がないと、本法廷で結論付けられたはず」と反論。Activision側が勝訴すればドイツでも損害賠償の請求が可能であるとし、アメリカでの起訴および裁判は理にかなっていないと主張した。
なお本件の被告には、4つの企業と20人以上の個人のほか、匿名の人物50名も含まれる。Activisionの調査で個人情報が得られなかった人物を、匿名で起訴対象に含めているようだ。このように大人数かつ匿名の被告が存在する場合、裁判でそれぞれの行動をどのように起訴内容と照らし合わせるか、判断が曖昧になりうる。EO側はそうした「広すぎる」起訴対象についても、不適切であると指摘した。
EOの主張を信用するならば、Activisionは同じ相手に別の地域で2度訴訟を起こしたことになる。Activisionにどのような意図があったのか、記事執筆時点では明らかになっていない。なお過去のドイツでの裁判については、EO側によれば今年2月までに進展が見込めるという。チートツールをめぐる2社間の係争について、もうじきひとつの結論が出るかもしれない。