『スマブラSP』大規模非公式大会「Smash World Tour」が“開催1週間前に”突如中止。任天堂との交渉が実らなかったと報告され波紋呼ぶ【UPDATE】

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来月12月8月から11日にかけて開催予定であった、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』(以下、スマブラSP)の大型国際大会「Smash World Tour」(以下、SWT)の決勝大会の中止が発表された。来年度のSWTのサーキットであるSWT2023と、同じく大型の『スマブラSP』国際大会であり来年開催予定であった「Glich: Duel of Fates」と「Double Down 2023」も同時に中止が発表され、プロシーンに関心のある『スマブラSP』プレイヤーが衝撃を受けている。

SWTは非公式のコミュニティトーナメントながらも、過去の『スマブラ』シリーズの大会でも最大規模を誇る世界大会だ。2020年に発表されるもコロナの影響で延期され、2021年は一部オンラインの形式で開催された。そして今年2022年、コロナの収束や渡航制限の緩和もあり、ついに本来の開催形式である「世界各地で開催されるオフライントーナメントと、それらの大会で獲得したポイントの合計に応じて招待される決勝大会」というフォーマットでの開催が発表。現在は予選となる大会は全て終わりポイントも締め切り、残すはLCQ(最終予選)と決勝大会のみという状況だった。単純な規模でも、プレイヤーやファンの期待度でも過去最大級となる世界大会の、決勝大会1週間前での中止発表である。一体何があったのか?SWTは公式に経緯を説明する声明文を出している。非常に長い文章だが、要約しつつ経緯と声明内容を見ていこう。

時は遡り去年、2021年11月に任天堂はPandaと公式のライセンス契約を締結し、「Panda Cup」という『スマブラ』シリーズ初の公式世界大会の開催を発表。特に『スマブラ』のeスポーツ関連にはやや消極的であることで知られる任天堂がこういった動きに乗り出したことは、コミュニティには大きな衝撃と期待をもって受け止められた。Panda CupもSWTと同様、通年のサーキットとなっており、北米各地で開催されるローカルオフライン大会の上位入賞者が決勝大会に招待される形式となる。そしてそんなPanda Cupの発表が行われた直後に、任天堂からSWTに話をしたいという旨の連絡が来たそうだ。SWT運営陣は、満を持して公式の世界大会が誕生したことで、非公式のSWTは中止を要請されるのではないかと危ぶんだという。

しかし任天堂からの知らせは予想とは真逆のもので、むしろSWTの開催に協力したいというものであった。これを受けてSWTは(任天堂の要請もあって)一旦2022年度のSWTの発表を保留し、任天堂と調整しつつ、大会の発表前に任天堂の公式ライセンスを獲得することを目標にした。『スマブラ』シーンと任天堂のトラブル続きの歴史を鑑みて、SWT側も最初は慎重であったという。

2021年11月から2022年3月までにかけての期間でSWTは任天堂との調整と相談を繰り返した。信頼関係も固まってきたところで、SWTは2022年のサーキットに参加する予定となる世界各地の大会の主催者(トーナメントオーガナイザー、TO)たちとの調整も開始した。しかし多くのTOが、SWTへの参加に難色を示した。彼らは公式世界大会の主催であるPanda、そのCEOであるAlan Bunney氏から「SWTは2021年をもって終了し、2022年度は開催されない」と伝えられていたようだ。


しっかり任天堂と協力関係にあることを説明したいものの、実際に公式ライセンスを獲得するまでは任天堂との内容をTO(主催者)たちに明かすことは出来ないと考えたSWTは、この件についてまず直接任天堂に連絡した。すると任天堂はいくつかの点を保証したそうだ。第一に、任天堂が直接中止を要請するのはModのようにゲームの改造に手を出しているイベントのみであり、SWTはそれに該当しないこと。第二にAlan氏はあくまでPandaのCEOであり、任天堂の意見を代弁しているわけではないこと。第三にPanda Cupのライセンスは独占契約ではなく、仮にSWTもライセンス契約しても共存可能であること。そして第四に任天堂は『スマブラ』競技シーンの規模が拡大することに危惧を覚えているわけではなく、またライセンス付与のガイドラインも明白なものにするつもりである、と語られたそうだ。

この返答を経て安心したSWTは正式に2022年度のSWTのライセンス申請を行うに至ったが、その間もAlan氏は世界各地のTOたちに「2022年度のSWTは発表後間もなく中止となるのが間違いなく、SWTに参加するのはリスクである」と説明していたという。

しかし2022年度SWTのライセンス契約申請に対する任天堂の返答は遅く、3月の発表予定日の数日前に連絡こそ取れたものの調整は難航し、結局発表までのライセンス取得は間に合わなかった。大会のスケジュール的に発表を遅らせることも難しく、ライセンス問題に関しては「見切り発車」の状態でSWT2022は始まった。大会開催中も任天堂との調整は続き、多くのアイデアを検討した結果、最終的には任天堂の提示した「サーキット全体ではなく、年末のSWT決勝大会のみ公式ライセンス大会として申請する、そしてそれまでの期間で2023年度のフルライセンスの調整を進める」という方針を採用することにしたという。

同時期、Panda Cupも予選大会として自身のサーキットに参加する大会を招致していたが、Alan氏はPanda Cupに参加する大会はSWTには参加できないということも明言していた 。また、いくつかの大会は配信契約をBeyond The Summit(以下、BTS)と結んでいたため、Panda Cupに参加する際はこの配信契約を手放すよう、Alan氏は大会運営とBTSに要請していた。BTSがこれを拒否すると、Alan氏は「Panda Cupに参加しなければBTSは2023年度の『スマブラ』関連の活動はできなくなる可能性がある」と返答。BTSは態度を崩さず、Alan氏は「配信権について、任天堂を巻き込んだトラブルに発展するだろう」と宣言したが、結局最後までBTSがPanda Cupに参加することはなかった。なお、この部分に関してはBTSのLDeeep氏本人が事実であるとツイートしている。

4月9日、改めてSWT2022決勝のライセンス申請が行われた。この時期のPanda Cupは参加大会の確保に苦労していたため、条件が変更されPanda CupとSWTの両方のサーキットへの参加が許可されるようになった(SWTはもともと参加大会のPanda Cupへの同時参加を制限していないため、Panda Cup側が許可を出した形)。またPanda Cupに参加するいくつかの大会に、公式の任天堂ライセンスが突然付与される。これらのライセンスはそれぞれの大会が発表された後に付与されたもので、大会発表後のライセンス付与は不可能であると任天堂から説明を受けていたSWTは困惑した。

SWT決勝大会は7月までにはライセンスを獲得し公式に発表する予定だと相談していたが、任天堂の返答頻度は急激に減り、やむを得ず8月にライセンス未取得のまま決勝大会の発表に踏み切った。任天堂は連絡の遅延を謝り、SWTが決勝大会の発表に踏み切ったことに理解を示したという。

結局SWTが任天堂としっかり連絡が取れたのは9月に入ってからのことで、Panda Cupの運営やCEOの振る舞い、そして板挟み状態になっている世界各地のTOたちの不安などが絡み合って非常な複雑な状況を生み出し、全体的な遅れに繋がっていると説明した。また、任天堂内部にも複数の意思決定者が関わっていて、特に全体像を把握しておらずSWTのことを単に「ライセンス契約を正式に取得する前に勝手に発表に踏み切った団体」として見る人も少なくないという説明がなされたそうだ。

再び任天堂の返答は途絶え、次にSWTが任天堂と連絡出来たのは11月となった。任天堂は今回の件には社内で多くの責任者の判断が錯綜しており、その中にはSWTやコミュニティ大会との関係性の大切さを訴える人も少なからずいると説明した。SWTはそういった責任者に直接説明する機会を貰えるよう申し出て、任天堂は善処すると返答した。

そして11月23日が任天堂からSWTへの最新の連絡となる。内容はSWTの決勝大会、そして2023年度のサーキットにライセンスは付与されず、またライセンス無しでの開催も認められないというものだった。この内容は書面でも送付された。SWTはこの判断に至った経緯を尋ねたが、詳細は明かせないとの返答。ひとまず決勝大会とSWT2023はライセンス無しで運営し、2024年度のライセンス付与に向けて動けないかと再度相談したが、それも不可能と言われた。この時期の開催キャンセルが及ぼす影響についても、任天堂側は十分に把握した上での判断だという。この時点でSWT運営は大会の開催を完全に諦め、中止発表に向けての準備に移行した。

以上が声明文に掲載された「開催中止までの経緯」だ。もちろんこれはSWT側の発表であり、状況の全体像を把握するためにはAlan氏をはじめとした他の関係者からの発表も待つしかないだろう。しかし経緯はなんにせよ、1年かけて多くの選手が努力を重ね、コミュニティからも多くの期待を集めたイベントがこんな形で中止となってしまったのは、誰にとっても不幸な結末と言えるだろう。

また、同じく『スマブラ』シリーズの大手TOとして知られるVGBCが関わる来年度の大規模世界大会、Glitch: Duel of FatesとDouble Down 2023についても中止が発表されている。こちらも詳細は説明されていないものの、「任天堂との最近のコミュニケーション内容を考慮すると、2023年度も今まで通りに大会を開催していくのはリスクが高くなってしまった」と説明されている。来年は一切大会を開催しないつもりというわけではないものの、どういった形に落ち着くかはまったくの未知であるとのことだ。

わずか1週間前の開催中止発表ということで、今回の一件のコミュニティへの影響は計り知れない。特にこの大会に向けて調整を重ね、また渡航計画なども綿密に練り上げていただろう参加選手たちの悲しみは想像を絶するものがあるだろう。国内の『スマブラSP』シーンでは、直近でZETA DIVISIONやCrazy Raccoonと言った有名チームも新規に『スマブラ』部門を立ち上げ、SWT決勝大会に向けて盛り上がりを見せていた。そんな中突然もたらされた今回のニュースが、今後のコミュニティ大会や選手の活動に一体どのような影響をもたらすのか。『スマブラSP』競技シーンは今、かつてない不安に包まれている。

【UPDATE 2022/11/30 21:40】
海外メディアKotakuの記事にて、今回の状況について任天堂の広報担当者からの返答が掲載されている。内容は「任天堂はあくまで2023年のSWTについてパートナーシップの締結に至らなかったのみで、2022年のイベント(今回のSWT決勝大会を含む)についてはいかなる変更や中止も要請していない」というもの。

これに対してSWTもさらにGoogle Docsにて反論を掲載している。SWT側は(もともとの声明文でも主張している通り)任天堂に何度もライセンスなしで2022年の決勝大会とSWT2023を開催できないか確認したものの、明確に「すでにそのような状況ではない(Those times are over)」と返答されたとしている。

また、SWTは任天堂から書面にて通告を受け取っているとのこと。任天堂からの通告の内容は「任天堂のライセンス無しで任天堂IPを利用した商業活動をすることは認められない。またこのライセンスはイベントの発表に先んじて取得するべきものである。調査の結果、SWTはライセンスの要件を満たすことに失敗していることが分かった。SWT 2022の決勝大会ならびにSWT2023に任天堂のライセンスを付与することは出来ない」というもの。

書面で「ライセンスを付与することは出来ず、ライセンス無しでの開催は認められない」と伝えたのみならば、直接的に「決勝大会の中止を要請した」とは言えないが、SWT側の言い分が正しいのであれば、これは詭弁にも見える。とはいえSWT側は「そもそもSWT2023のライセンス申請はまだ行っておらず、任天堂側がSWT2023も含めて却下してきたこと自体に驚いている」とも主張しており、SWTと任天堂間、あるいは任天堂社内でのコミュニケーションエラーという線も濃いように思える。なお、Panda側はいまだに沈黙を貫いている。

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