一般社団法人運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)と千葉房総技能センターは10月26日、「e建機チャレンジ大会」を開催した。本大会は建設機械を遠隔操作し、いかに早く作業がおこなえるかを競い合うというもの。
そんな大会に、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』でプロとして活躍する、eスポーツチームCERULEAN.EXE所属のヤマナクション氏や、駒澤大学eスポーツサークルのメンバーなど、若手の建機操作未経験者も参加。普段はゲームキャラクターのコントロールで勝敗を競い合う彼らが、建設や人命救助のプロらにまじり、建設機械の操作においてもテクニックを見せつけた。そんな若手ゲーマーたちの操作技術に、建設業界が注目している。
e建機とは、無人の建設機械を遠隔操作で操り、現場での作業を進めるシステムだ。1991年に長崎県で起きた雲仙普賢岳の噴火による復興工事を皮切りに、熊本地震などでも用いられている。危険が残る災害現場で遠隔地から安全に作業ができることで重宝され、すでに国内で200件ほどの実績もあるという。情報通信技術 が発展した現在は、インターネット環境さえあれば作業が可能になり、人間が長期的に活動を続けにくい場所でも運用できる。将来的には宇宙開発、月面開発での運用も想定されている。今もさらなる進歩のため、研究、開発が進められている分野だ。
今回の大会で操作された建設機械は、ショベルカーとキャリアダンプの2台となった。ドローンによる空中からの映像のほか、複数枚のディスプレイで拡張して運転席からのカメラ映像を大画面表示。ディスプレイ前にセットされた2本のレバーを操作して、建設機械を操作する。本大会ではレバー操作のみだったが、ゲームパッドなどのデバイスでも操作が可能なようだ。
e建機チャレンジ大会には5チームが出場。まず建設業界から丸磯建設チーム、人命救助のプロである千葉消防レスキューチームら現役の建機オペレーターが参加。プロ&学生eスポーツプレイヤーチームと、駒澤大学eスポーツサークルチームのほか、千葉にて若者の就労支援に取り組むちばサポステチームが参戦している。基本は3人1チームで、それぞれ監督、キャリアダンプオペレーター、ショベルカーオペレーターの役割を務める。丸磯建設チームのみ、2人のオペレーターだけでの参加となった。
競技内容は、いわばショベルカーとキャリアダンプのタッグによる“砂運びスピードラン”のような形式。ショベルカーは直線の先、キャリアダンプは2つのカーブを越えた地点で合流し、ショベルカーがダンプに土砂を積み込む。そして、2台の建設機械が合流地点からスタート地点へ戻るまでの往復の時間を競う。コース幅は2台の建設機械に対してやや狭く、コースアウトやパイロンに接触することでペナルティが与えられる。ショベルカーは巧みな油圧ショベルの操作、キャリアダンプは正確なコーナリングおよびコントロール技術が特に問われる競技となっている。
そして、本大会の「遠隔操作会場」は、東京都港区にある六本木グランドタワー。一方で「実際に建機が動く会場」は、千葉県大多喜町筒森にある千葉房総技能センター筒森AIセンターだ。千葉県に用意された建設機械を、約70km離れた東京は六本木グランドタワーから操作したかたちだ。なお、大会では競技を盛り上げる実況と解説もおこなわれ、さながらeスポーツの大会のような形式になっていた。解説者の話によると、建機側会場の筒森はGPS、通信環境が劣悪とのこと。そんな環境下でもe建機の操作は可能なようだ。
本大会を制したのは、災害現場での建設機械操作経験もある千葉消防レスキューチーム。手が震えるほどの緊張と語りながらも4分29秒97の成績を叩き出し、11月21日に開催される「遠隔施工等実演会」へのエントリー権が与えられた。
そして、プロ&学生eスポーツプレイヤーチームは、建設機械操作の経験がないながらも5分3秒50の記録で2位に。ヤマナクション氏のスムーズなコーナリングが光るキャリアダンプ操作は、実況者、解説者からも称賛を浴びていた。現場経験のない彼らが限られた時間での練習だけで2位という好成績を残せたことは、eスポーツプレイヤーがe建機において適正をもつ可能性を示唆しただろう。
続いて丸磯建設チームが5分5秒47の成績で3位、駒澤大学eスポーツサークルが5分49秒03の成績で4位。ちばサポステチームは、往路は順調だったものの土砂積載後の復路でキャリアダンプの操作に苦戦し、10分0秒21の成績で5位となった。とはいえ、未経験で10分台という成績は十分評価できる成績だということだ。
そんな建設業界未経験である彼らの成績に対して、建設業界も好印象を抱いたようだ。建設業界は、現在高齢化が進む中、深刻な労働力不足に悩んでいるという。そこで本大会のようなイベントを通じて、不足している若手の雇用につなげたいという意図があり、特にコントローラーの操作に慣れたゲーマーに期待をしている背景があるそうだ。本大会の後、スポンサーであった伊藤忠商事や大手ゼネコンである大林組などの各社は揃って「eスポーツプレイヤーの技術が、建設機械の遠隔操縦に生かせることを確認できた」との認識を示したという(産経新聞)。
また、本大会での実演による遠隔操作によって、作業環境さえ整えば現場に行かずともオフィスや自宅からでも建機の操作ができるということがアピールされた。また、ゲームに慣れ親しんだ者が建機遠隔操縦に適している可能性も示された。建機に乗り込まずとも操縦できるe建機の仕組みがさらに進歩すれば、より広い人材が建設業界に興味をもつかもしれない。
長年鍛えてきたゲームテクニックが建機操縦を通じ、建設のみならず、災害復興、果ては宇宙開発にまで生かせる。そんな未来は、すぐそこまで近付いているのかもしれない。
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