『メトロイドプライム』制作では、時に「開発機を冷凍庫で冷やして」テストされていた。GC性能に幅があったため
かつてRetro Studiosにて活躍したZoid Kirsch氏が、『メトロイドプライム』の開発時の思い出を振り返り、11月8日よりSNSに投稿している。そのなかで、「テストのために開発機を冷凍庫に入れていた」というエピソードが共有され注目を集めている。
『メトロイドプライム』は、ニンテンドー ゲームキューブ向けに2003年に国内発売された、一人称視点の探索型アドベンチャーゲームだ。現在任天堂の子会社であるRetro Studiosが開発を担当し、Kirsch氏はシニアエンジニアとして携わった。今回同氏は、当時の同僚でありテクニカルリードエンジニアなどを務めたJack Mathews氏と共に、上述の“冷凍庫”にまつわる開発秘話を投稿した。
Mathews氏によると、『メトロイドプライム』を発売した直後に任天堂から、性能の劣る(bad batch)CPUが搭載されたゲームキューブ本体が一部出荷されており、本作だけがそのCPUの影響を受けているようだと伝えられたという。一般的に半導体製品の製造においては、歩留まり率によって規定の性能を満たさないものが含まれることがある。ゲームキューブにおける当時の事情は定かではないが、良品として選定されたCPUのなかにも性能にやや幅があり、本作のみがその影響を受けてしまったということかもしれない。
そして問題発生時のプレイ映像を確認したところ、アニメーションが付けられたすべてのオブジェクトが、意図しない動きをしていたそうだ。原因は、本作のいくつかのコードの実行速度が、上述した性能の劣るCPUにとっては速すぎたためとのこと。問題を解決させるには、実行速度をスローダウンさせるようコードを適切に調整する必要があった。ただ、遅くしすぎるとフレームレートに悪影響が及び、十分でないとまたバグを生んでしまう。そこでRetro Studiosでは、テストを重ねることになる。
任天堂には、例のCPUが搭載された開発機が1台しか存在していなかったそうだ。さらに、どういうわけか問題を再現させるには、その開発機をかなり低温まで冷やさなければならなかったという。そのためMathews氏らは、冷凍庫に開発機を入れて冷やしては、TVのもとへ走って持って行きテストをおこない、15分経ったらまた冷凍庫で冷やすという作業を繰り返したそうだ。そうした慌ただしい作業のなかで、ゲーム内のあらゆる場面を確認し、コードを再調整しては試すこととなった。Mathews氏は、当時のことは忘れないと振り返っている。
結果的に問題は修正されることとなったが、当時はまだオンラインでパッチを配信し適用するということはできなかった。そこで任天堂は、この問題についてサポートに連絡したユーザーに対しては、コードが修正された本作のゲームディスクを送付して対応したとのことだ。
『メトロイドプライム』は、海外ではこの11月に発売20周年を迎える。Zoid Kirsch氏らはこれを記念して当時の開発秘話をさまざま共有しており、冷凍庫を使ったテスト以外にも興味深いエピソードが語られている。たとえば、ドアが開くのが遅い場合があるのは次の部屋のロードを待っていたためであるとか、本作のセーブファイルの容量が少なかった背景について、あるいはエレベーターを配置した技術的な背景など。興味のある方は、同氏のツイートをチェックしてみてはいかがだろうか。
※ The English version of this article is available here