「RPG Developer Bakin」、RPG制作ツールなのに発売1週間で“アクションゲーム作品だらけ”になる。愉快な現状を開発元に訊いた

スマイルブームは10月18日、「RPG Developer Bakin」の早期アクセス配信を開始した。プログラミングの知識を必要とせず、どんな人でもRPGを作れる……という謳い文句だが、同作ではユーザーらにより、やたらとアクションゲームが作られているようだ。スマイルブーム代表取締役に話を訊いた。

スマイルブームは10月18日、「RPG Developer Bakin」(以下、Bakin)の早期アクセス配信を開始した。同作はスマイルブームによる、新たなゲーム制作ツール。プログラミングの知識を必要とせず、どんな人でもRPGを作れる……という謳い文句だが、同作ではユーザーにより、やたらとアクションゲームが作られているようだ。スマイルブーム代表取締役の小林貴樹氏に詳細を訊いた。


「Bakin」は、プログラミング知識なしでもゲーム制作ができると謳う、PC向けのRPG制作ツールだ。マップエディターやイベントエディターといったツールのほか、ゲームに使えるグラフィックやサウンドの素材が用意されている。さらに作ったゲームは有償無償を問わず、ロイヤリティーフリーで配布が可能。『プチコン』シリーズや『SMILE GAME BUILDER』などを手がけてきたスマイルブームの、ある種集大成的なゲームツールになっているわけだ。

RPG制作ツールなのにアクションゲームが量産される

そして面白いのは、同作はRPG制作ツールと触れこまれているにも関らず、アクションゲームが数多く作られている点。たとえばTwitterユーザーのラストスマイル氏は、“どこかで見たような”横スクロールアクションを作り出している。Twitterユーザー森羊羹氏に関してはステルスゲーム風の実装をしたようだ。ほかには一人称視点ゲームの制作をするユーザーなども登場。これらはRPG制作ツール「Bakin」で作られたものだ。たしかに小林氏の言うように、アクションゲームがやたら作られているのは確かなようだ。

一体なぜなのだろうか。小林氏に話を訊いた。要因はさまざまながら、物理演算エンジンを組み込んだ影響は大きいようだ。前作にあたる「SMILE GAME BUILDER」の開発当時(2016年)には、利用するユーザーたちの実行環境の普及率の問題で、実装を我慢していた要素もあったそうだ。そして「Bakin」を作るにあたっては、そうして実装を見送った要素を全部出し切って、次の世代の表現を作れるツールにしようという方針で開発をしてきたという。「SMILE GAME BUILDER」は、RPG系のツールでは一般的なタイル単位での移動や当たり判定で表現していたが、今回はBulletと呼ばれる物理演算エンジンを組み込み、タイル単位の当たり判定ではなくモデルの形そのものを当たり判定に使うことができるようになっているという。

また移動についても物理ベースの処理系に置き換わっているため、ジャンプや慣性付きの移動なども気がつけば実装。最近のアクションゲームと同じような実行環境が「Bakin」の下地に組み込まれたという。


さらにPBR(物理的ベースレンダリング)もスマイルブームで自社開発し、パーティクルエフェクトもエフェクト制作ツールEffekseerに対応。画面の表現力もかなり現代的で派手になり、滑らかな動きと合わさってアクションゲームっぽく見えるのではないかとも語った。さらに「イベントの動的生成」という機能もあり、主人公から弾を発射するような動作が比較的簡単に実装できるようになったという。ジャンプして弾が撃てることが、ユーザーの中で眠っていたアクション魂を刺激したのではないかとも推察した。

小林氏は「現代のゲーム開発では当たり前な作り方に置き換えたらアクションもできちゃったという感じです」「近年の市販RPGでは当たり前に使われている表現と要素が手軽に使えるようになり、そういうことを試したかったユーザーさんに響いたのかなと」とも語っている。ツール自体を現代化させ、表現できることの幅を広げた結果、アクションゲームを作るユーザーが増えたということなのだろう。

小林氏に、アクションゲームが多く作られているのは歓迎しているのかを尋ねたところ、大歓迎とのこと。「Bakin」はあくまで道具であり、道具で何を作るかはユーザーの自由。正統派のRPGでもアクションゲームやノベルゲームでもどれも新しい表現を積極的に試してもらうことを大歓迎しているとのこと。なお、RPGの中にジャンプを使ったアクション性を盛り込んでいるユーザーも多い印象だそうだ。アクション、RPGと区別せずにさまざまな表現を出せるのも「Bakin」の魅力であり、開発元も歓迎しているのだろう。


セールスも好調示唆

「Bakin」は売上についても好調なようだ。発売初日にSteamトップページ「売り上げトップ」欄の1位になり、さらに周りが錚々たるタイトルばかりの中しばらくトップ10に乗り続けたのには驚いたそうだ。好調の理由としては、小林氏はさまざまな要因をあげている。ゲーミングPCなども普及し比較的3Dが身近になってきた影響もあって3D表示への心配が減ってきたこと。TwitterやYouTubeなどSNSを通じて、ツールの使い方の分からないところをお互いに補完しあうことができたり、流れてくる動画でゲーム開発の様子が楽しそうに伝わったりと、情報が伝わる速度も発信のペースも上がったことなどをあげた。

また「RPGツクール(RPG Maker)」関連コミュニティでは、有名な海外のプラグイン作者が、「10年ぶり」だという目立った活動として「Bakin」をレビュー。海外の「RPGツクール」ユーザーの中で話題になっているそうだ。

小林氏に、個人的にアイデアに驚いた「Bakin」利用作品について訊いたところ、33もの作品を共有いただいた。さすがにすべては本記事で紹介できないので、そのうちのいくつかを紹介する。

すでに多彩な作例が出ている一方で「Bakin」は早期アクセスタイトルであり、不具合なども報告されている。この点については開発元がSNSでこまめに声を拾って対応している。また「Bakin」を今後どのように発展させていくかを訊いたところ、以下の回答をもらった。

1)バグの少ない、安心して触れる道具として使えるような迅速な修正
2)初見で迷うことが無いようにガイドや補助的な仕組みの組み込み
3)外部からのデータの持ち込みやすさを補助する機能や資料の拡充
4)楽に簡単にオリジナリティが出せるような機能の追加
5)日々のチューニングによる速度向上
6)グループ開発による大作にも耐えられる膨大なデータ管理や作業分散の仕組みの追求

不具合を減らしながら、チュートリアルやガイドを充実させつつ、より拡張性を高めていくのだろう。グループ開発による大作にも耐えうるような仕様にしていくことも含めて野心を感じさせる。小林氏にいただいた、読者向けのコメントで本稿を締めさせていただこう:

「Bakin」は経験を積むことでレベルが上がり、攻撃力や防御力が増減するRPG的な要素をベースとしてシンプルで王道なJRPGや脱出系ゲームを作ることができることを保証しつつ、ジャンルを超えた新しい遊びを生み出すためのアクション的な要素もしっかり入った、作ることを楽しめるツールとなっています。短期間で多くの製作者さんが予想もしない作品を生み出しています。ぜひ、手に取っていただき世界に向けた作品作りを一緒に楽しみましょう!

「RPG Developer Bakin」はSteamにて早期アクセス配信中だ。愉快な作品群は「#RPG Developer Bakin」といったSNSハッシュタグを見てみるといいだろう。



※ The English version of this article is available here

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

記事本文: 5194