音楽制作スタジオPower Up AudioのクリエイティブディレクターKevin Regamey氏は10月21日、インディー開発者Andrew Shouldice氏が手がけた『TUNIC』の、サウンドに隠された秘密を公開した。Regamey氏は、本作のサウンドデザインなどを担当した人物だ。
『TUNIC』は、キツネの剣士が主人公のアクション・アドベンチャーゲーム。『ゼルダの伝説』やソウルライクゲームからの影響を感じさせるゲームプレイが採用され、プレイヤーは謎の遺跡が広がる島を冒険する。
*以下、本作のゲーム内容に関するネタバレが含まれるため、注意してほしい。
本作には、マップや冒険のヒントが記された断片を集める要素があり、それによって本作の取扱説明書のようなものが完成していく。その説明文を含め、ゲーム内に登場するあらゆる言葉が、本作独自の文字にて記述されていることが特徴だ。Kevin Regamey氏は、本作のサウンドには、その独自文字と同じような構造が取り入れられていると明かす。
まず、本作の独自文字について簡単に説明しておこう。上の映像でも紹介されているように、謎の言葉として表現された象形文字であるが、すでにコミュニティによって解読され、Trunicと名付けられている。Trunicは英語がベースになっており、各母音・子音それぞれを表す図形が存在。基本的には、その図形の組み合わせによって英語での読みを表現できる。
そのうえで、本作にはGlyph Towerと呼ばれる塔が存在し、そこで確認できるTrunicを解読すると、とあるウェブサイトに誘導される。同サイトでは、轟音のようなサウンドが映像に合わせて再生。Regamey氏によると、そのサウンドファイルをダウンロードし、音声解析ソフトにてスペクトログラム(*)を表示させると、Trunicの文字が浮かび上がるという。
*音声などの周波数成分と変化を可視化する手法
つまり同サイトでは、Trunicの文字がスペクトログラム上で可視化されるように、周波数を調整したサウンドが流れているというわけだ。そしてスペクトログラム表示されたTrunicの下には、階段状の模様が存在。Regamey氏は、これは各Trunicの意味に対応した「アルペジオ」を表していると説明する。アルペジオとは、和音を構成する高さが異なる複数の音を、一音ずつ弾くことを意味する音楽用語である。
同氏が仕込んだアルペジオは、2オクターブ内で表現されており、音の低い方の半分が子音、高い方の半分が母音を表すために使用されるという。要するにTrunicと同じ仕組みで、ただし図形の代わりに音階を用いて言葉を表現できるというのだ。こちらはコミュニティによってTuneicと名付けられている。旋律や音の調子を意味する、英語の「Tune」とかけた命名だろう。
Regamey氏によると、Tuneicとして意味のある音声は、興味深いことに本作のあらゆる場面に仕込まれているという。たとえば、メインメニュー画面にてNew Gameを選択した際に鳴るサウンドは「New」を表している。また、スピードランモードをONにしてプレイし、ゴールして記録が表示される際のサウンドは「Time」を表しているそうだ。
ほかにも、ある敵が放つ魔法攻撃のサウンドは「AOE(範囲攻撃)」。隠し通路を発見した際のサウンドには「Here」。さらに、探索用魔術を使用した際の長いサウンドは「This way this way fox friend this way」と、まさに主人公のキツネを導くような言葉が表現されているとのこと。
Kevin Regamey氏は本作の開発当時を振り返り、まったく見知らぬ世界にやってきたとプレイヤーに感じてもらえるデザインに仕上げることを目指したと語る。どう読めば良いのか分からない象形文字が当たり前のように表示されるのも、そうしたゲームデザインの一環というわけだ。
また、分からないことだらけの状態でゲームを進めていくと、たとえば思わぬ場所からのショートカットを、のちに発見したりするだろう。そうした、「実は最初から存在していたが、プレイヤーが気づいていなかっただけ」という要素は本作にはさまざま存在する。今回Regamey氏が種明かしをしたTuneicと呼ばれているサウンドも、そのひとつだったそうだ。同氏の当該ツイートのスレッドでは、さらに詳しい情報が掲載されているため、興味のある方はチェックしてみてほしい。
『TUNIC』は、PC(Steam/Epic Gamesストア/GOG.com)/Nintendo Switch/PS4/PS5/Xbox One/Xbox Series X|S向けに配信中。Xbox Game Pass向けにも提供されている。
*スペクトログラム表示にて主人公のキツネが浮かび上がるサウンドが、本作のどこかに使われているという。こちらは、当時開発メンバーのなかで使われていたフレーズ「誰のためでもないコンテンツ(CONTENT FOR NO ONE)」の一例とのこと。開発者らが楽しみのために仕込み、自身らだけの秘密にしている要素も、ほかに存在するかもしれない。