マイクロソフト傘下のデベロッパーThe Initiativeが現在開発中のアクションスリラーゲーム『パーフェクト ダーク(Perfect Dark)』においては、『トゥームレイダー』シリーズなどで知られるCrystal Dynamicsと共同開発することが昨年発表され大きな注目を集めた。本作はシリーズのリブートを担う作品であるとされ、大型タイトルになることが予想される。
マイクロソフトでは、そうした大型タイトルいわゆるAAAタイトルの開発において、ひとつのスタジオで開発が完結するスタイルはもう過去のものだとされているようだ。傘下各スタジオを統括するMatt Booty氏が、その背景を語っている。
Matt Booty氏は、Midway Gamesなどでゲーム業界でのキャリアを積み、2010年にマイクロソフトに入社。それ以来、ファーストパーティタイトルを手がける傘下スタジオを統括する要職を歴任してきた人物だ。『マインクラフト』の開発元Mojangの買収にも深く関わったという。同氏は、先週末にアメリカ・シアトルにて開催されたPAX West 2022のオープニングイベントStorytimeに出演。業界のさまざまなトピックについてインタビューに答えた。
このなかでBooty氏は、マイクロソフトのゲーム開発スタイルの進化について言及。ひとつのチームがひとつの屋根の下で開発することは、かつてのように頻繁におこなわれることはもうないとし、その事例のひとつとして『パーフェクト ダーク』を挙げた。本稿冒頭でも触れたように、本作はThe InitiativeとCrystal Dynamicsが共同開発している。
このコラボレーションが発表された当時には、開発が難航しているために、経験ある外部スタジオの手を借りたのではないかとも囁かれたが、Booty氏は事実はまったく逆であると否定。Crystal DynamicsにはAAAタイトルを手がけてきた100人以上のスタッフがおり、『パーフェクト ダーク』のようなスタイルの作品開発の経験もある。AAAタイトル開発には膨大な作業を要することもあって、マイクロソフトは一緒に仕事をすることを望みオファーしたのだという。
またBooty氏は、『Age of Empires IV』のRelic Entertainmentや、『Microsoft Flight Simulator』のAsobo Studio、あるいは『Halo』シリーズに長く携わるCertain Affinityや、『Killer Instinct』の開発を受け継いだIron Galaxy Studios、『Minecraft Legends』を開発中のBlackbird Interactiveにも言及。マイクロソフトの近作では、外部スタジオとの共同開発を数多くおこなってきたとした。
AAAタイトルに限らず、ある程度の規模の作品においては、ゲーム内アセットの制作など物量をこなすために、多数のスタジオが開発に携わることはかねてより一般的である。今回の話はそうした取り組みとは別で、作品のディレクションなど大きな役割におけるコラボレーションを指している。
マイクロソフトが共同開発を推し進める背景には、AAAタイトル開発の複雑さが増してきている状況があるそうだ。Booty氏は、もしひとつのスタジオに何らかの問題が発生した場合、即スケジュールに影響するという悩ましさも共同開発にはあるとしつつ、チーム全員をカフェテリアに集めて仕事の指示を送るような開発スタイルは、もうとっくに過去のものになっていると述べた。
*Matt Booty氏は『Fable』シリーズ新作にも言及。開発の進捗に手応えを感じており、すぐにでも披露したい気持ちだそうだが、準備が整うまではダメだと開発チームに止められているという。
今回のイベントではほかに、大型タイトルの発売延期が相次いでいる状況について問われ、Booty氏が品質テストに言及する場面もあった。大型タイトルの開発において、コンテンツの制作スピードに追いついていないプロセスがいくつかあり、そのひとつがテスト作業なのだという。ゲーム開発では、ちょっとした追加や調整が大きな問題に繋がることもあるため、そのたびに全面的にテストすることが求められるそうだ。
Booty氏は、そうしたテストにAIを活用することが夢であるとコメント。イベントでの言及はそこまでにとどめていたが、マイクロソフトではすでにそのための実験が進められていることをXbox Wireにて語っている。AIによるテストは品質管理チームの仕事と置き換えるものではなく、大規模かつ繰り返しのテスト作業をAIに任せ、品質管理チームはそのスキルを活かして、より複雑なテストに集中できるようにすることが狙いとのこと。
ゲーム開発現場での、品質管理へのAIの導入は各社が研究を進めており、たとえばスクウェア・エニックスは『ファイナルファンタジーVII リメイク』のデバッグに“自動QAシステム”を導入している(CEDEC)。肥大化する大型タイトル向けテストのコストを抑えることは、各社の喫緊の課題となっているようだ。