マイクロソフトとActivision Blizzardが、買収手続きについて現状を報告。イギリス当局では懸念をもとにさらなる審査へ

マイクロソフトとActivision Blizzardは現地時間9月1日、マイクロソフトによるActivision Blizzardの買収方針について、それぞれ新たな声明を発表した。巨額買収となることから、反トラスト法(独占禁止法)違反の恐れなどについて、各国の当局による審査が進められている。

マイクロソフトとActivision Blizzardは現地時間9月1日、マイクロソフトによるActivision Blizzardの買収方針について、それぞれ新たな声明を発表した。

マイクロソフトは今年1月18日、総額687億ドル(約9兆6000億円・現在のレート)というゲーム業界最大規模の金額にて、Activision Blizzardを買収することで両社間で合意したと発表。業界大手メーカーを傘下に収める巨額買収となることから、反トラスト法(独占禁止法)違反の恐れがないかなどについて、各国の規制当局による審査が現在進められており、買収を完了するにはその審査通過を待つ必要がある。

今回の声明にてマイクロソフトのゲーム部門CEOでXbox事業を率いるPhil Spencer氏は、今年1月のActivision Blizzard買収方針発表以来、規制当局をはじめゲーム開発者やゲーマーからその意味について問われてきたとコメント。そしてこれに対し、最大の理由はプレイヤーのためであると述べた。コンソールはもちろん、世界最大のゲーム市場であるモバイルを含め、プレイヤーおよび開発者に選択肢をもたらすことで、新たな機会や革新が生まれ、業界が発展していくとした。

その選択肢のひとつとして同社は、サブスクリプションサービスXbox/PC Game Passを挙げた。同サービスはクラウドゲームサービスXbox Cloud Gamingを通じて、モバイル向けにも展開されている。そうしたサブスクリプションサービスによって、世界中のプレイヤーにより手頃な価格でゲームを届けられるとし、開発者にとってもより多くのプレイヤーに作品を届けられるとした。

そして、Activision Blizzardには『Call of Duty』や『オーバーウォッチ』『Diablo』などの人気作があり、それらをもってXbox/PC Game Passを拡充させ、各作品のコミュニティも拡大させていくことが狙いであるとした。またSpencer氏は『Call of Duty』シリーズなどの作品について、(買収完了後も)発売日から同じバージョンをPlayStationプラットフォームにもリリースする考えを示した。この方針については以前にも表明されており、あらためて言及された。

声明の最後にてSpencer氏は、規制当局の審査に対しては透明性をもって対応していくとコメント。また、テンセントやソニーといった業界をリードする企業は、ほかのエンタメブランドや作品シリーズを取り込みながら、その深く幅広いゲームライブラリを拡大させ続けていると指摘。それが世界中のプレイヤーに楽しまれていると前置きしたうえで、マイクロソフトとActivision Blizzardが一緒になることは業界およびプレイヤーに有益であることが、審査を通じて明らかになるだろうとした。

一方Activision Blizzardは、CEOのBobby Kotick氏が従業員に送付したメッセージを公開した。同氏はマイクロソフトとの合併については、必要となる規制当局の承認の数が多いため時間がかかるとコメント。ゲーム業界に対しては、世界最大級のIT企業やメディア企業が積極的に投資している現状があるとし、規制当局は世界中での市場の競争について理解を深めるため、慎重かつ適切な手続きを踏んでいるのだと説明した。

もっとも、当局との手続きは想定どおりに進んでおり、マイクロソフトの会計年度末である2023年6月には、買収手続きが完了する見込みが高いと信じていると述べている。そして、今年9月からはタウンホールミーティングを実施し、従業員に対してその進捗状況について説明するつもりであるとした。

またKotick氏は、同社として北米に次いで2番目に多くの従業員を抱えるという、イギリスでの審査状況について言及。現地の規制当局から、第2段階目の審査に入ったと連絡を受けたとし、全面的に協力しているところであると述べた。

Activision BlizzardのBobby Kotick氏が言及したイギリスでは、競争・市場庁(Competition and Markets Authority・以下、CMA)が時を同じくして声明を発表している。CMAは、マイクロソフトはソニー・任天堂と共に過去20年間にわたってゲーム市場をリードしてきた一角にあり、市場への新たなライバル企業の参入は限定的だと指摘。そのうえで、『Call of Duty』や『World of Warcraft』などの世界的人気作をもつActivision Blizzardをマイクロソフトが買収した場合、ライバル企業に損害を与える可能性について懸念していると表明。つまり、そうした作品の他社への提供を拒否したり、悪い条件で提供したりといったことが懸念されるとした。

またCMAは、Activision Blizzardがマイクロソフトのエコシステムに統合された場合の、潜在的な影響についての証拠も得ているとした。マイクロソフトは、Xbox・Azure・Windowsといった各分野での主要プラットフォームを保有しており、これらはすべてクラウドゲーム市場での成功にとって重要な要素であると指摘。これらのプラットフォームにて強みをもつマイクロソフトがActivision Blizzard作品をもって、クラウドゲーム市場での競争を阻害することを懸念しているとのこと。そのため、第2段階目の審査をおこなうとし、両社に対してこれらの懸念に対する回答を求めるとした。

今回マイクロソフトは、規制当局に対し説明してきたであろう内容を公表したかたち。そのなかで、買収の目的はモバイルを含めたゲーマー・開発者の選択肢の拡大だとした。また、Activision Blizzard作品のXbox/PC Game Passへの提供も初めて明言。そのうえで、少なくとも『Call of Duty』シリーズについては、PlayStationプラットフォームにも提供し続ける考えを示した。ゲーム市場におけるライバル企業に言及したのはこの点のみであり、市場での競争が買収の目的ではないと強調しているようにも受け取れる。こうした内容は、イギリスCMAの懸念への回答にもなっているようだ。

一方のActivision Blizzardは、買収手続きに関わる審査の状況を報告するにとどめ、今後も進捗を報告するとした。なお、マイクロソフトのActivision Blizzard買収に関しては、8月22日にサウジアラビアの規制当局が最初の承認をおこなっている。

Taijiro Yamanaka
Taijiro Yamanaka

国内外のゲームニュースを好物としています。購入するゲームとプレイできる時間のバランス感覚が悪く、積みゲーを崩しつつさらに積んでいく日々。

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