AI技術を活用した「イラスト生成」サービスが議論の的に。AI学習禁止を呼びかける人も【UPDATE】

 

株式会社ラディウス・ファイブは8月29日、AI技術を活用した新たなイラスト生成サービス「mimic(ミミック)」のベータ版をリリースした。本サービスは利用者が描いたイラストをアップロードすることで、AIが画風を学習してクリエイター風のイラストを新たに生成するというものだ。画像生成AIといえばオープンソース化されたStable Diffusionが先日話題となったばかり(関連記事)。しかしmimicのリリースが発表された直後から、インターネット上では日本のクリエイターを中心に、賛否をめぐる議論が活発となっているようだ。

mimicは「AIは本来創作活動をする人のために使われるべきではないか」という理念のもとに開発されたAI。クリエイターが抱えるさまざまな問題を解決するためにつくられた、クリエイターのためのイラスト生成AIサービスだ。AIがクリエイターの絵柄を学習したイラストを生成することで、イラスト制作における参考資料としての利用や、SNSやファンコミュニティにおいてコミュニケーション目的での利用が想定されている。ベータ版時点では作成されたイラストには透かしが入っているが、将来的に透かしを解除する機能がリリースされる予定となっている。

クリエイターの創作活動を補助するために開発されたといえるmimicは、リリース告知のツイートが本稿執筆時点では4万リツイートと5万いいねを超えている。しかしリリースが発表されてからわずか1日で、公式から異例の声明が発表される事態となった。声明によると本サービス発表後から、開発に協力したクリエイターにSNSを通じて、批判や誹謗中傷のコメントが寄せられているのだという。声明を通じて「クリエイターに対する批判や誹謗中傷は厳に慎むようにお願いします」とされている。また、開発元へと寄せられている意見についても現在協議中であり、見解を作成しているとのこと。

ではなぜ、協力したクリエイターに誹謗中傷が寄せられる事態となっているのか。既存の画像生成AIとの大きな違いとして、本サービスはイラストを生成するにあたり既存のイラストを用いなければならない、という点が挙げられるだろう。多くのクリエイターが常日頃から悩まされている問題のひとつに、自身が著作権を保有する作品の無断使用がある。もし本サービスのユーザーが権利を保有していないイラストを用いると、権利を保有するクリエイターとしては、知らない間に自身の絵柄に酷似したイラストがAIの手によって生成されてしまうことになる。

そうして生成されたイラストが、さらに預かり知らぬ場所で使用される可能性も生じる。このような事態が今後、起きてしまうのではないかと恐れられているのだ。くわえてそのイラストは自身で描いたものではなく、あくまでもAIが生成したもの。クリエイターが権利を主張するのは難しいのではないかという声も上がっている。MidjourneyやStable Diffusionといったサービスでは文章を入力することで画像を生成するため、このような懸念は発生しづらかったといえる。

当然、mimicのガイドラインには禁止事項として、他人のイラストをアップロードしないでくださいと記載されている。利用できるのは自身で描いたイラスト、あるいは権利を保有しているイラストだけだ。また、mimicで生成されたイラストの権利は、すべて元となったイラストの権利者に帰属すると明記されている。利権侵害を発見した場合は、アカウントの停止・捜査機関への情報提供など、しかるべき措置を講じるとも記載されている。しかしこうした記述だけでは、無断使用がなくなることはあまり期待できない、という意見が数多くみられるのが現状だ。

その結果、SNSのプロフィール欄へ無断使用禁止や転載禁止といった記述のほかに、新たにAI学習禁止の一文を追加するクリエイターが急増。Twitterでトレンド入りする事態にまで発展した。mimicのリリース告知ツイートには8月30日18時時点で2.8万件の引用ツイートがつけられており、その中にはクリエイターがAI学習禁止を明言しているものが数多く含まれている。悪用対策とはいえ、プロフィール欄に記載しないといけない禁止事項がさらに増えることについて、疲弊しているクリエイターの姿も見受けられる。

mimicにおけるイラストの無断使用についてはガイドラインで禁止されているものの、最終的には利用者のモラルや善性に委ねられる部分が大きいといえる。法的に罰することができたとしても、勝手にAIに学習させられてしまったものは取り返しがつかないと危惧するクリエイターもいるようである。また、AI学習禁止という言葉そのものに、法的な拘束力は発生しないという意見もある。

なお著作権法30条の4では、以下のように情報解析のために著作物を利用することができる場合を定めている。そのため、無限定に著作物が利用できるわけではない。

                  記

(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合

二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合

三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合


学習AIに対する懸念は今に始まったものではなく、昔から議論されてきたことだ。Midjourneyが登場した際にも、インターネット上のデータをAIが学習する点について問題視する声は少なからず存在していた。今回、クリエイターを中心に発生するであろう弊害が見えてきたことで、AIを用いたアートにまつわる問題が顕在化してきたといえる。

悪用されることによる権利侵害の可能性のほかには、AIが絵柄を学んで発達していくことで、将来的に自身のクリエイターとしての価値が失われてしまうことを危惧する声も少なくない。中にはAIが生み出したアートでは”温かみ”や”心を込める”といった心情が欠落してしまい、アート本来の価値が損なわれるという主張もある。いずれも学習AIとの折り合いがつけられず、嫌悪感を示す意見が目立つ印象だ。

画像生成AIの台頭によって、これまで積み上げてきた技術や自信が崩れ去ってしまうクリエイターもいるはずだ。拒絶してしまうのは、いたって当然の思考だといえるだろう。しかしmimicをはじめとするAIに対して、受け入れる姿勢をみせるクリエイターも存在していないわけではない。技術が発展していく上で、こうしたAIが登場していくことは避けては通れないという主張もある。本サービスもまた、クリエイターの手助けをするために開発されたもの。正しく利用されるのであれば、便利なツールのひとつになるはずだ。

また、mimic運営側もユーザーから寄せられた意見については認識している様子。本サービスの不正利用に関しては運営側も課題として認識しており、見解を作成している最中とのことだ。協議の結果次第では、クリエイターに寄り添ったサービスへと改善される可能性もある。くれぐれも誹謗中傷をおこなうのは控えた上で、新しいサービスの経過を見守っていきたいところだ。

【UPDATE 2022/8/30 20:53】
株式会社ラディウス・ファイブは8月30日、「mimicベータ版へのご意見に対する対応と回答、及び今後について」というタイトルで声明を発表。「利用者が著作権を保持していないイラストを、著作権者の許諾なくアップロードすること」に関し、mimicベータ版では不正利用を防ぐ仕組みが不十分であるとして、トップページを除く全機能を停止、イラストメーカーに関するすべての画像をサービスから削除すると発表した。不正利用に関わる課題が改善できた場合は、mimic正式版をリリースする予定とのことだ。


【UPDATE 2022/08/31 18:28】
記事内にて説明が不十分であった、著作物を情報解析のために利用できる場合について定めた著作権法の内容、および関連した文章について、加筆・訂正。




※ The English version of this article is available here