オープンワールドの「アイアンマン」ゲームが開発され頓挫していた。開発者は「ディズニーとの折り合い」が原因と明かす

 
「アイアンマン」原作コミックより

アイアンマン」を題材にしたオープンワールドゲームが、『ジャストコーズ』シリーズなどで知られる Avalanche Studiosにより開発され、ひっそりと中止となっていたようだ。海外メディアMinnMaxによる、同スタジオの創業者の一人へのインタビューを通じて明かされている。

「アイアンマン」はマーベル・コミックスにより出版されているアメリカンコミックだ。巨大軍需企業のCEOであるトニー・スタークが、自身の開発したパワードスーツをまとって悪と戦う物語だ。2008年にはマーベル・スタジオによりロバート・ダウニーJR.主演で実写映画化された。2009年にウォルト・ディズニー・カンパニーがマーベル・エンターテイメントを買収した後も映画版シリーズは継続。2010年には「アイアンマン2」が、そして2013年には「アイアンマン3」が公開された。コミック・映画ともに世界的知名度も高く、人気を博しているシリーズだ。

映画「アイアンマン3」より

そんな「アイアンマン」を題材にしたゲームが人知れず開発され、そして人知れず中止されていたという。MinnMaxによるインタビューのなかで、Christofer Sundberg氏が語っている。同氏は、Avalanche Studiosの創業者の一人であり、現在はデベロッパーLiquid Swordsを立ち上げている人物だ。また、Avalanche Studiosでは『ジャストコーズ』シリーズ開発に深く携わっていた。同氏によれば、開発中止の背景には、スタジオとディズニーの間で、合意に至らぬ点があったようだ。

インタビューのなかで「アイアンマン」のゲームのプロジェクトの存在について尋ねられSundberg氏は、「あまり多くを語ることはできない」としながらも口を開いた。プロジェクトは2012年ごろに中止となったようで、同氏によれば中止までに 約2年の開発期間を経ていたという。。また同氏は中止になった理由として、簡潔に”Company politics”(社内政治)とコメント。「ディズニー関係?」と追求され、肯定している。具体的には、ディズニーから開発期間の1年間の短縮を要求されたことや予算の膨張、開発を急ぐためには新たに7~80人を新たに雇用しなければならなかったことをあげている。これらすべてを実行するとスタジオの体制が崩壊してしまうと判断したそうだ。つまり、ディズニーの要求とスタジオの経営的な観点の折り合いがつかず、開発の中止に至ったとの見解だろう。

またSundberg氏は、1年間の開発期間の短縮は、開発終了後に人材を割り当てるプロジェクトを用意するための猶予を一年間失うことを意味すると述べている。そのため、開発期間の短縮のために新たに多人数を雇用していた場合、開発チームの人数に見合った新たなプロジェクトを用意することは困難であり、またそれだけの人数を雇い続けることは難しいと判断したようだ。同氏は、「アイアンマン」のプロジェクトを無理に進めるのではなく、中止としたことについて「最善と信じての選択だった」と振り返っている。

結果的にAvalanche Studiosによる「アイアンマン」のゲームは完成には至らなかった。しかしSundberg氏は、同スタジオとディズニー双方から素晴らしいスタッフが集まっていたため、もし完成していれば素晴らしいゲームになっていただろうと語っている。オープンワールドでアイアンマンが自由に飛び回り、壁を貫通して相手にパンチを食らわせたり、リパルサーといったアイアンマンの装備を利用した戦闘が可能になる予定だったそうだ。それだけに、開発の中止をチームに告げるときは非常につらかったという。スタッフを解雇しなければならないような状況にはならなかったが、約2年間心血を注いだプロジェクトが白紙に戻ってしまったわけだ。

『ジャストコーズ4』のウィングスーツを利用した飛行シーン

実は「アイアンマン」を題材にしたゲームは、このプロジェクト以前にもリリースされている。映画「アイアンマン」と「アイアンマン2」を題材にしたものがセガをパブリッシャーとして、それぞれ2008年と2010年に発売された。日本向けには展開されなかったため、国内知名度は低いかもしれない。主人公トニー・スタークとなって映画のストーリーを追体験する作品だ。オープンワールドではなく、ステージでの飛行やシューティングを楽しむ構成になっている。

「アイアンマン」と同じくマーベルの人気作品が題材のゲームとしては、 Insomniac Gamesが手がけた、『Marvel’s Spider-Man』シリーズがある。こちらはPS4/PS5において3300万本以上を売り上げており大ヒットしている。ニューヨークを再現したオープンワールドでスパイダーマンを自在に操れる点が人気の一要素だ。Sundberg氏の語ったように、「アイアンマン」をオープンワールドで操れる作品となれば、大きな人気を呼んだ可能性もあるだろう。

Sundberg氏は現在、Liquid Swordsとしての第一作目となる作品を開発中だ。8月13日には、Unreal Engine 5で描かれた街並みの一部を公開している。ゲームの概要は不明であるが、シングルプレイであるとしている。