「クレヨンしんちゃん」ゲーム配信を見て、人々が一斉に“バーチャルラジオ体操”を始める。RTAイベントが生んだモニタ越しの小さな絆

RTA in Japan Summer 2022にて、『クレヨンしんちゃん「オラと博士の夏休み」~おわらない七日間の旅~』のRTAがおこなわれた。その際、ギャラリーがラジオ体操をする場面があり、SNSなどで話題となっている。同イベントならではの一体感が生んだ、独特な文化が生まれていたようだ。

大型RTAイベント「RTA in Japan Summer 2022」の最終日となる8月15日、『クレヨンしんちゃん「オラと博士の夏休み」~おわらない七日間の旅~』(以下、オラ夏)のRTAがおこなわれた。その際、オフラインでのイベント会場にて、ギャラリーがラジオ体操をする場面があり、SNSなどで話題となっている。同イベントならではの一体感が生んだ、独特な文化が生まれていたようだ。

『オラ夏』は人気漫画/アニメ「クレヨンしんちゃん」の主人公・しんのすけが過ごす夏の田舎暮らしが体験できる、Nintendo Switch向けアドベンチャーゲーム。プレイヤーはしんのすけとなり、熊本のアッソーを舞台に、虫取りや魚釣りなどの夏休み生活を満喫。不思議な出来事にも直面していく。

そしてRTA in Japanは、人気の国内大型RTAイベントだ。RTAとはReal Time Attackの略称で、ゲームごとにカテゴリとして定められたクリア条件を、いかに速く達成できるかを競う遊び方である。海外ではSpeedrunなどと呼ばれ、国内ではRTAプレイヤーはしばしば走者と呼ばれている。

RTA in Japanでは、走者がカテゴリごとのレギュレーション(ルール)に従いつつも、あらゆる手を尽くして完走を目指す様子を生配信。過去の開催では「ホットプレートでゲーム機を加熱して最速クリアを目指す」「配信の都合上、ゲームキューブを物理的に振り回す」などの変わったRTAもおこなわれ話題を呼んでいた。RTAのさまざまな魅力を伝える、人気イベントとなっているわけだ。近年はオンラインのみで開催されていたものの、今年のRTA in Japan Summer 2022ではオフライン開催を決定。東京渋谷区にあるイベントスペースnote placeを会場としている。

今回は走者であるレバタン氏が、『オラ夏』のサブシナリオをすべてこなしてクリアするというレギュレーション「All Episodes」に挑戦。同氏はAll Episodeのほか、何でもありの「Any%」の両レギュレーションで世界記録を持つ走者だ。解説を担当するのは、るなそる氏。RTAの記録を集積しているSpeedrun.com上で『オラ夏』のモデレーターを務めている人物だ。

夏休みらしさを味わえる本作ながら、RTAは慌ただしい。とにかく効率良くイベントをこなして進んでいくためだ。田舎の空気がうまく表現された牧歌的なゲームの中で、しんのすけが「ケツだけ星人」状態でイベント発生ポイントを巡っていく。シンプルに、ケツだけの方が移動が速いからである。るなそる氏の解説いわく、夏休みは多少満喫する程度で「ひたすらケツを振ってカレーを食べる」プレイが繰り広げられる。


本作の夏休みらしさの1つとして、しんのすけが毎朝ラジオ体操をおこなう要素がある。時間を少しでも短縮したいRTAではあまり好まれない、イベントスキップできないシーンのひとつだ。しかし、このイベントがオーディエンスを巻き込んで、ほっこりする出来事を起こすことになる。

それはゲーム内時間での13日目、8月6日のことだった。るなそる氏が会場にいる人々とオンライン視聴者に「一緒にラジオ体操をしよう」と呼びかけたのだ。会場映像のワイプ内には映っていないが、カメラ外ではギャラリーが参加してくれたようだ。そして、続くゲーム内16日目にはついにギャラリーがワイプ内でラジオ体操をすることになる。名札をつけていることから、走者や解説者、あるいはイベントの運営スタッフたちと見られる。

そしてゲーム内19日目、EST(クリア予定タイム)まであと11分に迫る中でラジオ体操が始まる。最終的にワイプ内でラジオ体操をする人間は7人に増え、夏休み最後のラジオ体操を彩った。またオフライン会場のみならず、オンラインでも多数の“ラジオ体操参加者”が出現することになった。ちなみに本タイトルのRTAは早朝の6時30分頃からスタートした。19日目のゲーム内ラジオ体操が始まったのは、現実の時間で8時を過ぎた頃。リアルなラジオ体操を彷彿とさせる時間帯だ。日本人に馴染みの深いラジオ体操の文化と、視聴者たちの思い出が噛み合って、みんなが思わずラジオ体操に参加した可能性もあるだろう。

中継先であるTwitchのコメント欄やTwitter上では「素晴らしい 今日が来た」から始まる歌詞が視聴者より続々投稿され、いわばバーチャルな大合唱が巻き起こった。決め台詞となる「イチ・ニ・ノ・サーン」が、一時期国内Twitterでトレンド入りしたほどである。視聴者・走者・解説者・影でイベントを支えるスタッフたちが一丸となった瞬間だった。それぞれの「一緒にイベントを作り上げていこう」という連帯感が垣間見える光景ではないだろうか。

レバタン氏はその後、1時間56分41秒のタイムで『オラ夏』のAll Episodesカテゴリを無事完走。大きなミスもなく、同氏が8月8日に申請したばかりの世界記録1時間56分38秒まであと3秒に迫る好走となった。同氏は完走した感想として、後ろでラジオ体操をしてくれた人々に感謝を述べていた。

RTA in Japan Summer 2022は本日8月15日の19時頃に終了予定。残ったタイトルはわずかながら、毎回多くのネットミームを生み出す本イベントを最後まで楽しんでほしい。また、『オラ夏』は現在ニンテンドーeショップで8月16日までセール価格の税込4598円で販売中。PS4版は8月、PC(Steam/Epicストア)版は2022年に発売予定だ。

【UPDATE 2022/8/15 16:25】
表現の重複などを修正



※ The English version of this article is available here

Koutaro Sato
Koutaro Sato

何でも遊びますがメトロイドヴァニアとトレハン、ゲーム内の釣りが大好物。クリエイターやプレイヤーの人となりと、彼らが生み出す盛り上がりが大好きです。

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