Steam開発者が「ゲームがアルゼンチンから大量に不正購入されている」と報告。被害防止優先か現地尊重か、販売者が悩むジレンマ
ゲーム開発グループNumericGazerは、同グループがSteamで販売するセクシーゲーム『Hero’s Journey』について、一部国からの不正購入被害に遭っていることを明らかにした。同グループだけでなく、さまざまな人々が、こうした不正購入被害の対策に悩んでいるようである。
きっかけとなったのは、NumericGazerによる被害報告だ。同グループは7月25日に、自身のTwitterアカウントにて、『Hero’s Journey』がアルゼンチンおよびトルコからの不正購入に苦しめられていると報告した。Steamでは作品価格設定において、米ドルなどの項目に価格を入れると、ほかの国の価格にも自動的に変換してくれる機能が存在。地域の経済を加味して、自動で価格を調整してくれるサービスだ。その機能を使った場合、たとえば10ドル(約1360円)のゲームも、アルゼンチンとトルコでは1ドル相当で販売される。そしてこの販売価格が悪用され被害にあっていると、NumericGazerは報告している。ゲームを安く購入するために居住国を偽装しているユーザーがいると、伝えているのだ。
NumericGazerは、現在はアルゼンチンおよびトルコ向けの『Hero’s Journey』の価格は変更されているものの、ローンチ後1週間、価格を変更できなかった際の損失は大きかったと語っている。同グループは、知らずに自動で価格を設定して、後悔するような人がいないように、この知見を投稿したとしている。NumericGazerが投稿した、作品購入国ランキング画像を見ると、なんとアルゼンチンからの購入が17%でトップとなっている。3位にトルコがついている。1位と3位が「格安国」からの購入であり、その多くが居住国偽装であるとすれば、スタジオにとってはたまったものではないだろう。実際に不正なのかは断言できないものの、Steamにてアルゼンチンユーザーが活発といった報告がこれまでされていないことから、悪用されている可能性は高い。
実は、こうした被害報告はしばらく前から開発者/販売者の間で発生していた。たとえば2021年8月には、『Over 9000 Zombies!』の開発者が、セール期間中におけるゲーム売上数の95%がアルゼンチンからであると報告していた(関連記事)。Steamの非公式データベースサイトSteamDBを見てみると、多くのゲームにおいて、アルゼンチンやトルコ向けに格安で販売されている。前述したように、地域経済を加味した自動価格設定で、こうした値段になるわけだ。これらの地域では、たとえば日本での価格が1000円のゲームだと、日本円換算で100~150円程度で売られている。アルゼンチンやトルコの外から、これらの国のアカウントを不正に取得したユーザーから、安くゲームを買われるという被害は、自動的に価格設定をしたどのタイトルでも一定数発生していると考えられる。
弊社アクティブゲーミングメディアのパブリッシング事業PLAYISMでも、こうした被害は発生し続けていると、PLAYISM事業統括者の水谷俊次氏は語っている。PLAYISMのゲームでも、売上の国別割合を見るとアルゼンチンが4~5位にランクインしているケースが多いそうだ。おおかた、似たような手法で、格安にゲームを購入するユーザーが多いのだろう。
一方でPLAYISMでは、「アルゼンチン・トルコ対策」はおこなわれていない。対策していない理由を聞いてみたところ、「現地の人々が買いづらくなることを避ける」ために、価格を変更していないようだ。水谷氏は、実のところ「アルゼンチン・トルコ対策」の検討は過去に何度もしたという。しかしながら、ある時、現地のアルゼンチン人ユーザーが、対策をとっているメーカーに対し「この価格は高価すぎてゲームを買うことができない」と嘆いているのを見たという。不正ユーザーらしき存在に毎日葛藤はしながらも、現地ゲーマーが買いやすいように、アルゼンチンおよびトルコ向けに価格は据え置きにしているそうだ。またこうした価格差の不正利用が発生していると思われる状況について、Valveにはすでに何度か意見を述べているとのことである。
NumericGazerもまた「トルコやアルゼンチンの方には申し訳ないですが、尋常じゃない数の人が悪用しているのが現実です」と述べており、現地の人々の存在も考慮しているのは間違いない。とはいえ、前述したように『Hero’s Journey』の売上においてアルゼンチンは1位でトルコは3位。小規模開発グループにとっては、見逃すにはあまりにも重すぎる規模の悪用だったことがうかがえる。Valveは、居住国の偽装による規約違反に対する取り締まりを強化し続けている。とはいえ、価格差が存在する以上は、こうした被害は続くだろう。現地ゲーマーを優先するか、被害防止を優先するか。そこに答えはなく、多くの販売者がこのジレンマに苦しんでいる。Valveから適切なソリューションが提示されることを望みたい。
ちなみに、NumericGazerが手がける『Hero’s Journey』のSteam版がリリースされたのは、7月15日。同作はDLSiteなどでは『アンダーザウィッチ:ビギニング』として販売されており、Steamではタイトル名は異なっている。同作は高品質なモデルが特徴だが、かなりセクシャルなゲームで、「成人指定(アダルトオンリー)」作品である。チェックする時は注意してほしい(Steamストアページへのアクセスには年齢認証必須)。
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