『ポケモン』の超ハイクオリティな「ゲーム風映像」が続々投稿される。中の人はどのような意図でファンアートを作っているのか
ポケモン時空の歪み研究員(以下、時空の歪み研究員)なるTwitter/Instagramアカウントが、『ポケモン』に関するハイクオリティなファンアート/映像を投稿し話題を呼んでいる。一体どのような意図で活動しているのか、本人に話を聞いた。
時空の歪み研究員は、Twitter/Instagramで“時空の歪みによって生まれた”としてさまざまな『ポケモン』にまつわるファンアート/映像を投稿するアカウントだ。最近特に注目を集めているのが、「ゲーム風映像」だ。
たとえば『ポケットモンスター 赤・緑』のファンアートでは、トキワの森を立体的に再現。キャタピーやビードルのほか、ピカチュウや虫取り少年を巧みに表現している。さらには、別投稿では3番道路を表現。プリンやオニスズメたちが住まう道路に、トレーナーのミニスカートが佇んでいる。また6月3日には、『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』を、独自の切り口で表現。新ポケモンホゲータを連れ、ミニーブやピカチュウのいる道路を探索。ニャオハを連れるポケモントレーナーと言葉をかわすトレーナーの様子が描かれている。
いずれのファン映像もTwitterではリツイートは1万超え、大反響を呼んでいる。映像クオリティの高さに加え、初期のゲーム関連アートやメディアミックス作品で見られた、淡い色使いで線細めのデザインで再現された世界観が高く評価されているようである。また時空の歪み研究員は過去にもさまざまな作品を投稿してきた。
過去作品としてはエモンガVやエモンガVSTARといった独自解釈のポケモンカードや、ゲーム雑誌風のウォロのイラスト、『ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド』にウォロを混ぜ込んだ画像やポケモンを融合させたファンアート、イーブイたちのネオン看板などを投稿しており、とにかく作風の幅が広い。複数人でそれぞれの得意な分野の作品を作っているのかと思いきや、なんと時空の歪み研究員はひとりで活動しているのだという。本人に話を聞いた。
アカウントの中の人は、純粋に『ポケモン』を愛する単なるいち個人であるそうだ。同アカウントは、最初はポケモン時空の歪み研究“所”と名乗っていた。しかし組織的な活動として見なされることを懸念し、いちファンの活動であることを強調するために、研究“員“に改名したそうだ。きっかけとしては、同氏が友人とポケモンカードを遊んでいた際に、「自分の好きなポケモンを無理やり活躍させたい」と考え、テキスト内容などの性能はそのままで、別のポケモンが描かれているカードを作成。それがTwitterで反響を得たことから、活動が始まったという。
ちなみに前述のゲーム風映像については、Mayaを使って製作しているそうだ。仕事の合間の時間を使い、ひとつの動画を1週間程度で作り上げているとのこと。なおデザインが『ポケモン』初期に寄っている件については、同氏が初代の説明書をボロボロになるまで眺めているなど思い入れがあり、当時のイラストで動かしたいという思いから盛り込まれたそうだ。ファンアート作品の幅の広さもこのアカウントの特徴であるが、「表現能力自体は学生時代に修めた基礎が活きていると思います」とコメント。やはり只者ではなさそうである。
面白いのは、時空の歪み研究員は「今のポケモンの作風」を否定する意図はまったくないという。ゲーム風映像の制作は、初代『ポケモン』風のデザインを表現したいという考えが反映されている。また映像群については、「ファンアートだからこそ可能な尖った表現」「届く範囲が極端に限定されるような絵作り」に注目してほしいとのこと。現在のポケモンがこうあってほしいという思いではなく、初代を知る同士たちに送る作品として仕上げられているようだ。
またファンアートとしてのマナーも意識しているようだ。同氏の作品は「ファンアート」と各所に明示されているのが印象的。時空の歪み研究員は、ファンアートというのは著作者の権利を侵害した上での活動という場合が多いとし、それを著作者の方が広い心で快く受け入れてくれて初めて成り立っているとコメント。それに対する感謝と敬意は忘れずにいたいと語った。
投稿された作品はどれも非常に凝っている。ゲーム映像以外で手の込んでいる作品について聞いたところ、「歴代のポケモンを捕まえて見せてくれる人たちのイラスト」を頑張って制作したそうだ。『ポケモン』のゲームでは各作品なんらかのトレーナーが捕まえ方を教えてくれるシーンがある。そうしたシーンをまとめたかたちである。このシーンの調査自体も楽しんだとのこと。なおこの各キャラを円に並べるシリーズは、ほかの投稿でも見られ、同氏のお気に入りなのかもしれない。
これらの作品を生み出すのには、膨大な時間がかかっていると思われる。なぜそこまで続けられるのか聞いたところ、ファンアートを作ることは、『ポケモン』のコンテンツのひとつを遊ぶようなものとの返答をもらった。同氏は『Pokémon LEGENDS アルセウス』では図鑑を完成させるほどやりこんでいたそうだ。かなり時間をかけて完成させたが、終わってしまうと寂しい気持ちになったとのこと。ゲームだとすぐ終わってしまうが、自分で作れば楽しみは続けられる。ゲームとカードを遊ぶのと同じように、ファンアートを作ることを楽しんでいるとのことだ。
時空の歪み研究員は、初めて草むらに足を踏み入れた時、オーキド博士に呼び止められた瞬間の心の高揚が今でも忘れられないとコメント。「あの日の感動が、公私共に私の原動力となっています」と語り、回答を締めた。
ポケモン時空の歪み研究員は、とにかく『ポケモン』というコンテンツを愛しており、その上でファンアート制作をおこなっているようである。また現在の『ポケモン』を否定する意図もないわけだ。こうしたファンアートは現在のポケモンコンテンツ批判に使われることも多いが、そうしたことは時空の歪み研究員としても不本意。『ポケモン』本家とは切り離し、熱意と技術のこもったファン活動として、時空の歪み研究員の活動を応援していきたいところだ。
※ The English version of this article is available here