株式会社ポケモンは6月1日、『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』の情報を公開した。発売日のほか、新ポケモンや主要キャラクターなどが公開されている。同作がどのようなゲームになるのかが、深く読み取れる内容になっているだろう。この情報公開は、前日である5月31日の夜に告知されていた。しかしその前のタイミングで、『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』の情報公開があると予期していた人物らがいたようだ。“増田学会”の人々である
増田学会とは、『ポケットモンスター』シリーズのディレクター/プロデューサーの増田順一氏を研究する人々のことだ。増田氏はゲームフリークにて活躍し、つい最近では株式会社ポケモンに加入。『ポケモン』のゲームの顔となる人物だ。ゲームクリエイターとしてだけでなく、パーソナルな部分にも魅力を秘める。そんな増田氏を研究する人々がいるのである。その中心となるのが、プルナレフ氏だ。プルナレフ氏は「増田氏を知るということは、ポケモンを知る」という金言を掲げ、ネット上の有識者が見識を発表するイベントであるリモートポケモン学会にて啓蒙活動をおこなっている。増田氏の投稿する写真から、服装や背景、食事を分析し、傾向や新作のヒントを読み取るわけだ。事例から分析をし、結論を生み出すという意味では、れっきとした学問だろう。
そんなプルナレフ氏を中心とした増田学会は、5月29日からざわついた。なぜなら、増田順一氏が木々の立ち並んだ街の写真を投稿していたからである。そして翌日5月30日には「髪の毛を切った」と報告。この時点で、『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』の新情報の公開が近いと提唱する声が続々寄せられる。そして5月31日の夜に情報公開の告知が発表された。予想はドンピシャだったわけだ。なぜ街の写真や散髪から新情報が予測できたのか?そこには、増田学会の研究の成果があったようだ。プルナレフ氏に話をうかがった。
プルナレフ氏による、増田氏の散髪に関する考察の歴史は2016年までさかのぼる。同氏は、その頃に、東京の表参道に増田氏がいきつけの美容院があると知ったという。実際に増田氏は表参道の美容院に通っていることをTwitterでたびたび公言している。一方でプルナレフ氏はある疑問を抱いた。ゲームフリークは当時三軒茶屋にあった(現在は神田)にもかかわらず、なぜ表参道の美容院に行くことを公言しているのか、という点である。そしてその後の言動を注視するうちに、表参道の美容院に行った後にメディア露出が多いことに気付いたそうだ。それゆえに、表参道や散髪が、新作や新情報発表のヒントであるという認識が学会内で広まったようである。
そうした傾向を実証したのが、まさに今回の動きだったというわけだ。5月29日に投稿された写真はけやき並木が特徴的で、左下には三菱UFJ銀行の宣伝柱あり。ここはまさしく表参道なのである。そして翌日の散髪宣言。表参道で散髪をした翌日に、『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』の新情報公開が告知された。6月1日の情報公開では増田氏の出番はなかったが、この動きにあわせてメディア露出などがなされる可能性はあるだろう。いずれにせよ、過去の増田氏の言動の傾向から、新情報公開のタイミングが見事に言い当てられたのである。この的中に学会は大きく沸いた。学会研究にはプルナレフ氏だけでなくさまざまな人々も参加。知見や事例が共有されており、その研究が実った瞬間でもあったのだ。
そもそも増田氏は、過去から現在にわたって“伏線を出し続けている”というのが学会の見解のようだ。プルナレフ氏がはじめて伏線に気づいたのは2013年の頃。2012年末に増田氏がフランスに行くとTwitterに投稿しており、2013年1月に『ポケットモンスター X・Y』がお披露目。同作はフランスがモデルになっていることから、その時点で増田氏の言動にヒントが隠されているかもしれないと感じ始めたようだ。
そしてプルナレフ氏の予感は確信に変わる。2016年の2月に増田氏は「太陽がまだ出てるのに、月が大きく明るく輝いてる!!鳥たちもつぶやいてる(笑)」と投稿。そしてその約2週間後に『ポケットモンスター サン・ムーン』が発表されたのである。この発言により、増田氏の“におわせ”を確信したそうだ。そのほか増田氏の伏線は多岐にわたっており、グルメ研究や聖地巡礼など学問は多岐にわたる。増田氏といえば、ファンとの交流も積極的で気さくな人柄も魅力。ファンの反応を楽しんでいる節もあり、意図的ににおわせをしているというのは、ありえそうである。
ちなみにプルナレフ氏はもともとは増田氏の研究ばかりしていたわけではないようだ。もともとは『ソリティ馬』をやりこんだり、『ポケモン』シリーズのイースターエッグを見つけるといったゲームフリーク作品のやりこみゲーマーだった。しかし増田氏の自撮りの多さや伏線に気づいてからは、その伏線の調査に傾倒している。プルナレフ氏いわく、増田氏の伏線は、同氏からポケモンファンへのメッセージであると考えているという。そして「その伏線を調べることは一種の対話であり、すなわち伏線考察は増田氏とのコミュニケーションだと思っている」と謎に熱い言葉で回答を締めた。
一見するとなかなか強烈な研究である増田学。しかし、増田氏のファンとの積極的な交流姿勢を見れば、同氏がファンに挑戦状を送っているようにも見えてくる。その挑戦に立ち向かうことで事例研究が深まり、増田学が充実するのであれば、そのやりとりには絆すらも感じられる。ひとつのコミュニケーションになりえる。ゲーム開発とパーソナルの両方で、ファンを魅了し続ける増田順一氏。増田氏がにおわせを続ける限り、増田学の研究が止まることはないだろう。株式会社ポケモンに活躍の場を移しても、増田氏が増田氏であり続けることを願いたい。
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