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ゲーム難易度の「EASY」「かんたん」表記は変えたほうがいいのか?開発者が問いかけた疑問、“初心者向け難易度”の扱いの難しさ

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ゲーム開発者ますだたろう氏が投げかけた疑問が、反響を呼んでいる。その問いかけとは、ゲーム難易度の「EASY・かんたん」といった記載が嫌(不愉快)だと思うか、というもの。ゲームの難易度では、「EASY」「NORMAL」「HARD」といった項目が一般的。一方で、その項目の名前は多様化している。


変わりゆく難易度表記

今年発売のタイトルに絞っても、難易度表記はかなり多彩。アクションRPG『STRANGER OF PARADISE FINAL FANTASY ORIGIN』の難易度は「STORY」「ACTION」「HARD」「CHAOS」。もっとも簡単な難易度は、物語を楽しむという狙いのもと「STORY」とつけている。『星のカービィ ディスカバリー』では「はるかぜモード」と「ワイルドモード」が存在。はるかぜモードは初心者向けであるが「イージー/かんたん」とは表記していない。一方で「ワイルドモード」もノーマルやハードといった表記にはしていない。高難度アクション『Sifu』は、発売当初は難易度の選択肢がなかったが、アップデートによって追加。もっとも簡単な難易度は「STUDENT(生徒)」で、「DISCIPLE(弟子)」「MASTER(師範)」と難しくなっていく。依然としてEASYを採用するタイトルは多くあるものの、世界観にあわせた難易度表記の多様化は進んでいる。

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EASY/NORMAL/HARD(かんたん・ふつう・むずかしい)という表記方法は、どの選択肢が難易度低めで、どれが高めなのか、言葉としてわかりやすい。ではなぜ、違った表現を採用する動きが進んでいるのだろうか。その理由のひとつとして、「EASY・かんたん」といった表記を嫌がるユーザーの存在があるようだ。ますだたろう氏に、弊誌で話をうかがった。

動機と寄せられた声と

新作ゲーム『シューフォーズ』の発売を控える同氏は、SNSにて、もっとも難易度が易しいモードにEASYを用いるのは好ましくないという旨のツイートを見たという。EASYという表記がまだ多くのゲームで採用されていることを踏まえ、冒頭の「EASY・かんたん」といった記載を見て嫌(不愉快)になるか、という質問をTwitterアンケートとして投じたそうだ。まだアンケートの結果は確定していないものの、実に9割のユーザーが「EASYやかんたんといった表記によって嫌な気持ちにならない」と回答している。そうした表記も問題ないというわけだ。

特に多く見られるのが「表記は問題ないが、難易度によって見られるコンテンツが変わるのは嫌」という意見。この例でいうと、『キングダム ハーツ』シリーズは難易度によって隠し要素を見る条件が変わる。作品によってはビギナー難易度だと見ることができないといったものも。隠し要素が難しいコンテンツをクリアした人向けの報酬として用意される意図は理解できるものの、アクセスできるコンテンツが変わるのはユーザーとしては辛いところ。名前ではなくプレイ可能なコンテンツに関する問題なので、少し今回のトピックとは毛色が違うかもしれない。


一方でEASYという名称が定着しているから、その名前を使っているという開発者の声も。先日『いのちのつかいかた』のSteam早期アクセス配信をスタートさせただらねこ氏は、難易度について良い表現がないとしてEASY/NORMAL/HARDを採用したとコメント。ちなみに自身のゲームの難易度については、「Normal:たぶん何度か死ぬけど頑張ってねHard:開発者自身も何度か死ぬけど頑張ってね、くらいなもんだし」と説明している。

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誉が生んだ文化

なぜ「EASY・かんたん」の表記が議論の種になるのか。背景としては、高難度ゲームをクリアできることが勲章になるという文脈があるだろう。ゲームにおいては、高難度ゲームの人気作は多い。ゲームの面白さや乗り越える快感はもちろんのこと、そのゲームをクリアすることがゲーマーの誉となる点も魅力だ。達成感は勲章となり、ゲーマーたちのアイデンティティをかたちづくるのだ。高みに到達する人がいれば、その高さに応じてヒエラルキーが生まれ得る。難しいゲームをクリアできる人はすごいという文化は、ゲームを簡単な状態にしてクリアするのは恥ずかしいという認知も生みかねないということだ。


そうした文化は開発者側が先導している側面もある。たとえば『Wolfenstein: The New Order』においては、難易度選択画面で、主人公のアイコンが変化。VERY EASYだと赤ちゃんがおしゃぶりをくわえるような顔に。VERY HARDなら返り血を浴びた獰猛な顔つきになる。ウィットに富んだ凝った演出であり、この演出はなかなかに好評。一方で、簡単な難易度を選ぶ人は赤ちゃんという示唆が、屈辱に感じる人はいることだろう。

ちなみに、『Wolfenstein II: The New Colossus』日本語版だと、難易度は易しい順に「パパあそんでいい?」「ボクをいじめないで」「かかって来い!」「殺るか殺られるか!」といった順に上がっていく。こうしたユーモラスな難易度表現は、FPSジャンル黎明期の『Wolfenstein 3D』や『DOOM』から存在している。その昔から、こうした難易度への価値観は存在し、それが脈々と受け継がれてきたわけだ。


高難度ゲームの人気はいまだ根強く、今年も『エルデンリング』や『TUNIC』といった難しいゲームが人気を博している。一方で大きなメーカーはアクセシビリティへの取り組みを強めている。障がいを持つ人たちでも遊びやすいようにといった配慮だけでなく、ゲームが苦手な人でもクリアできるようにという設計も進められている。たとえば『The Last of Us Part II』は難易度が高めのゲームであるが、盲目のゲーマーが同作をクリアしたとの報告もあがっていた。SIEだけでなくマイクロソフトも近年アクセシビリティの充実に極めて熱心。任天堂もまた、ふるくから幅広いゲーマーが遊べるような工夫を凝らし続けている。


初心者を手招きする難しさ

つまり、初心者にも遊べるようなゲームづくりが進められている一方で、簡単な難易度を選ぶ遊び方を恥ずかしいとする文化も存在している。だからこそ、「EASY・かんたん」を嫌だと思う、といった投稿も生まれるのだろう。誰かがその風潮を意図的に作ろうとしているのではなく、難しいゲームをクリアできる人がすごいというヒエラルキーが、自然と頂上に対する底の概念を生んでいるのである。

結果としては、冒頭に述べたように「EASYやかんたんといった表記があっても、嫌な気持ちにならない」が大勢。しかしながら、回答者が「EASY・かんたん」といった難易度を選ぶユーザーでなければ、この疑問のターゲットであろう人の声にはならないだろう。Twitterでゲームを語り合うことが好きな熱心なユーザーにとっては、自分たちが選ばない(であろう)「EASY・かんたん」を許容できる。そういう意味では、回答についてもある程度の偏りが見られるかもしれない。

※ますだたろう氏も携わる新作『シューフォーズ』トレイラー

いずれにせよ、重要なのは、どんな難易度であれ、ゲームを楽しもうとする人を尊重することだ。どの分野でも技術が優れている人が敬われる傾向にあるが、誰でも最初は下手なのである。ゲームをイージーでクリアできる人が尊重されていき、「EASY・かんたん」を選びやすい風潮が生まれれば、業界もコミュニティもさらに発展するだろう。いつか初心者ゲーマーも、高難易度に挑める腕前に育っていくかもしれない。そして、腕前が育たなくとも、それぞれがひとりで楽しむ分には、負い目に感じたり見下される理由はないのだ。ゲームは素晴らしく、そのゲームの感想や体験を共有できる人たちは仲間だ。どんなに腕に違いがあれど、お互いを敬えるゲーマーでありたい、そしてみんなにそうあってほしいと筆者は考えている。



※ The English version of this article is available here

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