Meta (旧Facebook社)が展開するメタバース「Horizon Worlds」のバーチャルアイテム販売手数料に対して、Appleや同業他社が苦言を呈しているようだ。これに対し、Meta側も見解を述べている。
Metaは4月11日、Horizon Worldsにおける、クリエイター向けの新たなツールのテストを開始すると発表した(関連記事)。同テストでは、少数の選ばれたクリエイターが対象となり、制作したバーチャルアイテムをHorizon Worlds内で販売することが可能になるとされている。しかし発表時点では、販売にかかる手数料については明らかにされていなかった。
そこで、海外メディアBusiness InsiderがMetaの広報に問い合わせたところ、回答を入手。手数料としては、最大47.5%になることが明らかになった。その内訳としては、アイテム販売をおこなうMeta Questストアが30%を徴収し、その残額に対してプラットフォームであるHorizon Worldsがさらに25%(元の販売金額の17.5%相当)の手数料を徴収するという仕組みだ。ただし、Metaは、今後Horizon WorldsをMeta Quest以外のプラットフォームにも展開していく意向を示している。たとえばiPhoneで展開する場合は、Meta Questストアの30%の手数料の代わりに、App Storeが定める15~30%の手数料がかかることとなる。
とはいえ、Metaが展開するMeta Questストアを経由してバーチャルアイテムを販売する場合は、収益の約半分がMetaに徴収されてしまうわけだ。MetaのCEO Mark Zuckerberg氏はかつて、AppleがApp Storeの手数料を30%に設定していることについて、クリエイターが収益を得ることを難しくしていると批判していた。そこで、今回明らかになったMeta QuestストアにおけるHorizon Worldsの47.5%という手数料設定は、そうした発言に反し、高すぎるのではないかと指摘されているのだ。
海外メディアPC Gamerは本件に関し、Linden Labにコメントを求めた。同社は、2003年より続く長寿メタバース『Second Life』を運営する企業。『Second Life』においても、クリエイターはバーチャルアイテムを販売し、リアルマネーを獲得することが可能となっている。『Second Life』においては、メタバース内通貨の購入に7.5%の手数料、売却に3.5%の手数料、USドルへの換金に5%の手数料を課している(プレミアム・メンバーシップの会費や土地の使用料などを除く)。
Linden Labの取締役会長であるBrad Oberwager氏はPC Gamerの問い合わせに対しコメント。Metaによる50%近い手数料は、クリエイターにモチベーションを与えるとは考えにくいと言及している。対比として、Linden Labは2021年においてクリエイターに8600万ドル(約100億円)を支払ったことに触れた。また『Second Life』の創設者で戦略アドバイザーであるPhilip Rosedale氏もPC Gamerにコメントを寄せており、Metaの手数料はクリエイターが実際に経済へ参加するのを思いとどまらせるだろうと苦言。Rosedale氏自身は、Metaに対して一切の期待を抱いていないと断じた。
Metaにおける手数料への懸念は、Appleからも述べられている。同社の広報担当であるFred Sainz氏は、海外メディアMarketWatchに対しコメントした。同氏は、Metaがこれまで、AppleのApp Storeにおけるアプリ内購入への30%の手数料を繰り返し批判しつつもその一方で、小規模事業者やクリエイターを“スケープゴート”に使ってきたと言及。翻って現在は、Metaはほかのどのプラットフォームよりも高額な手数料をクリエイターに求めているとし、偽善的であると批判した。Sainz氏は、MetaがAppleのプラットフォームを無料で使おうとしている一方で、自社プラットフォームではクリエイターや小規模事業者から搾取しようとしているとして、Metaのシステムに苦言を呈している。
業界各所から批判が寄せられるなか、Meta自身もPC Gamerにコメントを寄せている。Meta側広報担当者によれば、Meta Questストアにおける手数料は、VRデバイスのコストを抑えるために用いられるとのこと。広報によれば、Metaのアプローチとしては、手の届くデバイスを出荷することでVRの市場を成長させようとしており、Meta Questストアにおける手数料はヘッドセットの小売価格を購入可能な範囲に維持するうえで重要だとしている。くわえて同ストアでは総収入が100万ドル(約1億2000万円)を超えるタイトルが120本以上存在することを挙げ、VRプラットフォームとしての実績と貢献を強調した。
また、そもそもMetaの手数料取り分が嵩上げされてしまう背景としては、手数料がHorizon Worlds分と販売プラットフォーム分で二重になってしまうことが原因として挙げられる。Horizon Worldsが複数プラットフォームで展開するためにこうした価格構造となっているわけだ。しかし、自社プラットフォームであるMeta QuestストアからHorizon Worldsサービスを利用する場合は、Metaの取り分が二重に加算されてしまうため、歪な高手数料に見えてしまう側面もあるだろう。
なお先述のAppleによる批判については、MetaのCTOであるAndrew Bosworth氏が反応している。Appleは同社ストアでソフトウェアに30%の手数料を課しているほか、デバイスにおいてもかなりのマージンをとっていると指摘。Appleが市場力を利用して自分たちのビジネスを有利に進め、その結果、開発者に大きな犠牲を強いていると批判した。
Horizon Worldsにおける販売手数料の問題については、業界各所からさまざまな声が挙がっている状態だ。果たして同プラットフォームにおける経済はどのような成長を遂げるのだろうか。今後Metaがどのような手を打っていくか、注目したいところだ。