『FF7リメイク』シナリオ手がける野島一成氏、「自身の発言が商品に影響が出ること」を恐れる。関わった作品について今後コメントしない
シナリオライターの野島一成氏は1月16日、自身のTwitterアカウント上で、心中を吐露した。その内容はというと、野島氏自身の発言が商品に影響が出る可能性があるため、自身が関わった作品については「黙して語らずが妥当である」と考えているとのこと。クリエイターたちが個人で意見を発信するにあたっては、さまざまな難しさが伴うようだ。
野島氏は、データイースト出身のシナリオライター。『探偵 神宮寺三郎』シリーズや『ヘラクレスの栄光』シリーズのシナリオを手がけたのち、スクウェアに入社。『バハムートラグーン』のディレクターを務めたのち、『ファイナルファンタジーVII』『ファイナルファンタジーVIII』、『ファイナルファンタジーX』『キングダムハーツ』シリーズといった、人気作のシナリオを担当。それらのシリーズにて関連作や小説の執筆も担当しており、『ファイナルファンタジーVII リメイク』(以下、FF7R)にも深く携わっている。そのほか新作としては、3月18日発売予定の『ストレンジャー オブ パラダイス ファイナルファンタジー オリジン』のシナリオも担当する。
そんな野島氏は、1月16日にTwitterにてメッセージを投稿。まず「現在進行中の仕事だけではなく、発売後のものについても、私の個人的な発言が商品の価値やファンの方々の楽しみを損なってしまう可能性を思わずにはいられません」とコメント。続いて「その結果、黙して語らずが妥当であると、今は考えています。守秘義務以前の、個人的なTwitterへの接し方として、です」と語った。
続いて英語にて当該ツイートを補足。「少し誤解がありそうなので付け加えると、Twitterをやめるわけではありません。モルモットの写真などはあげていきますよ。ただし、『FF7R』など、自分が関わった特定の作品について話すのはやめようと思います」と付け加えた。
野島氏がなぜこうした発言をしたのか、背景は不明。野島氏は日常についてのコメントやモルモットの写真、そして社会情勢などについて発言しており、現在関わった作品についてはそもそもコメントしていない。ゲームやシナリオづくりについて考えや意見を発信することはあるが、特定の作品に絡めてもいない。『FF7R』についての個人的な意見などもほとんど述べていない。非常に丁寧にTwitterで発信を続けていたのである。
一方で、野島氏はファンに絡まれることも少なくなかった。たとえば、1月16日に野島氏は映画の「街の上で」を見たとして感想を述べていた。しかしとあるファンは、そんな野島氏の発言とは脈絡なく、『FF7R』について要望を投げつけた。クラウドとティファを公式カップリングにすることでファンベースを引き裂くのはやめてほしい、ジェシーについてもっと掘り下げてほしい、といった次第。そうしたユーザーに、絡むのをやめるように反論する別のユーザーも現れたが、野島氏をリプライに巻き込みながら不毛なやりとりが展開されていた。
こうしたやりとりが関係したかは不明だが、とにかく野島氏に対して『FF7R』など携わった作品の要望を突きつけるメンションが度々送られていたわけだ。一方で、今回の野島氏のコメントは、単にそうしたファンにNOを突きつけるのではなく、むしろ寄り添うものだ。あくまでいちクリエイターとして、自分の発言が商品の価値やファンの楽しみを奪ってしまう可能性があると危惧している。つまり、ファンや商品を蔑ろにしたくないと話しているわけだ。前述のカップリングについても、野島氏は「そうした意図はない」と否定することもできないだろう。その発言自体が商品やファンに影響を及ぼしかねない。難しい立場にいるのである。もともと自身の作品については語っていなかったが、改めて今後語ることはないと宣言したわけだ。
同様の立場として葛藤を語っていたクリエイターとしては、桜井政博氏があげられるだろう。同氏は『スマブラ』というプロジェクトの中心人物ということもあり、その発言ひとつひとつに注目が集まり、新ファイター参戦との関連付けがなされる。その結果、特定の作品について言及ツイートをすることもできないという悩みを抱えていた。また桜井氏は『スマブラSP』の開発終了にあたって、参戦疑惑に気を遣う必要もなくなったとコメント。愛猫であるふくらと、『Among Us』のインポスターを写す写真を投稿していた。状況は違うが、問題の根幹は似ている。野島氏や桜井氏に限らず、人気タイトルの関係者は同様にSNSの振る舞いに慎重さが求められるほか、ユーザーからの要望や批判を無言で受け流さざるを得ないのだ。
クリエイターそれぞれがSNSで個人アカウントをもつ時代。しかしながら、彼らにぶつけるかたちで直接要望を伝えるのは、開発者にとってストレスになりえる。もし要望がある場合は、ゲーム会社という窓口を通じて、然るべき場所に意見を届けるべきだろう。開発者とユーザーの距離が近くなり交流も身近になった一方で、その距離感の近さゆえに開発者にとって困難が生まれているかもしれない。