『Apex Legends』にて「ユーザー交流窓口」のRigney氏が退職。ジョーク交え軽やかに去る


Apex Legends』にてコミュニティ&コミュニケーションディレクターを務めるRyan K. Rigney氏は10月29日、Respawn Entertainmentを退職したと発表した。今後はとあるゲームスタジオのスタートアップに参加し、マーケティングディレクターとして活躍していくという。 
 

 
Rigney氏は、2006年ごろから2014年ごろまで、ゲームメディアやWIREDなどでライター・コラムニストとして活動。2014年から2015年にかけてはGaming Insidersにて編集者を経験すると同時に、コミュニティマネージャーを務めている。こうした経歴を買われ、2015年からはRiot Gamesに在職。当初はライターを務めたのち、2017年には『League of Legends』のコミュニケーションリードの任に就いた。その後PUBG Corporationに籍を移してコミュニケーションリード、ふたたびRiot Gamesに戻りグローバルコミュニケーションリードを経たのち、2020年からElectronic Arts傘下のRespawn Entertainmentに入社した。 

コミュニティ&コミュニケーションディレクターとしてのRigney氏は、いわば開発チームとユーザーをつなぐ窓口として活躍した。海外掲示板RedditやTwitterなどにおいては、積極的にユーザーと交流。近日リリース予定のアップデートの修正内容について伝えたり、あるときは不具合についての詳細情報を公開したりと、情報発信を活発におこなってきた。もともとユーザーとの交流に積極的な『Apex Legends』開発チームでも、Rigney氏はときにブラックジョークを交えた切れ味のある対応も見せ、開発チームの顔といえる存在になっていた。 
 

 
しかしRigney氏をめぐっては、10月頭にちょっとした騒動が起こっていた。今月頭、Meta社(Facebook社)のサーバーがダウンし、関連サービスが軒並み使用できなくなる事案が発生。Messenger、Instagram、WhatsAppなどのサービスで障害が発生し、全世界に影響をおよぼすこととなった。そうしたなか、Rigney氏はこの時事ネタに対してTwitterにて言及。「Facebookがサーバーのティックレートを増やして、ヘルスパッチさえ配信すれば、きっと解決するよね、みんな?」として、大企業であるFacebookのサーバー問題を皮肉るツイートを投稿した。 

しかしこの当時、ほかならぬ『Apex Legends』においてもサーバー問題が発生中。9月中旬から長期にわたって接続障害が発生していたため、ランクマッチのスプリットが延長されるなど異例の措置がとられていた。こうした、自社におけるサーバー問題を棚に上げて他社のサーバー問題を批判するかのようなRigney氏の言動に対し、ユーザーが反発。その後Rigney氏自身が弁解するまでに発展してしまった。Rigney氏の説明としては、言葉どおりFacebookを揶揄する意図はなく、むしろFacebookを通じて自社の状況について皮肉る「自虐ネタ」としてのねらいがあったという。 

この事件を皮切りに、もともとSNSでの露出が多かったRigney氏の発言機会はさらに増加した。「Facebook騒動」の翌週には自身のTwitterにて、「コミュニティとの付き合い方指南」を語るスレッドを投稿している。ここでは、開発の事情を抱えながらユーザーの抱く不満にどう対処すべきかといった経験論を展開。ときに、怒れるユーザーに対する皮肉も交えながら、Rigney氏らしいブラックジョークも交えて自身の苦楽を語った。その後も、Redditではユーザーからの質疑に回答するなど、SNS上での発言が顕著に。その際、引き続きFacebook発言を引き合いにRigney氏を批判するレスなどもつけられたが、同氏はときに真面目に、ときにミームを引用しつつ、反応を示していた。 
 

 
こうして振り返ると、今月にかけてRigney氏のメディア露出や発信が増えていたのは、近々Respawn Entertainmentを離れるにあたって思うところがあったためかもしれない。同氏は発表にあたり、Respawn Entertainmentは信じられないほど素晴らしい職場だったとコメント。熱心で優しく才能のある同僚ばかりだったと伝えたほか、開発チームが長期間でのビジョンを抱いているため、期待してほしいとユーザーに呼びかけた。くわえて、「創造的で競争熱心で活気に満ちた『Apex Legends』コミュニティ」にもメッセージ。「君らはみんなワガママだった、本当に寂しくなるよ」とRigney氏らしい言葉を添えた。ちなみにRedditでもRigney氏に感謝を伝えるスレッドが立ったのに対し、Rigney氏は「コメント欄に一番面白いミームを貼ってね」と冷やかしている。 

Rigney氏のメッセージからは、円満にRespawn Entertainmentを退職したことがうかがえる。一方、これまでの退職者の傾向を踏まえると、やや気がかりな点も。もともと『Apex Legends』界隈でもっとも発言の活発だった開発者といえば、当時リードゲームデザイナーを務めていたDaniel Zenon Klein氏が挙げられる。ユーザーのご意見番として知られたKlein氏だったが、今年8月に離職。原因としては、同氏が2007年にネット上で投稿した人種差別・性差別的な文言が発見され、批判を浴びたことで社を離れることになったという。 

Klein氏にせよ、Rigney氏にせよ、双方ともユーザーとの交流が多く、発言の多い人物。表に立つことが多い分、その言動がリスクとなることも少なくない。Rigney氏についてもFacebook発言という火種がなかったわけではなく、退職の事情について邪推する向きもあるようだ。とはいえ「表に立つ人物が退職しやすい」というよりは「表に立つ人物の退職しか知る余地がない」という可能性もあり、必ずしもユーザーと交流の多い開発者が退職しやすいとはいえない状況ではある。何にせよ、新天地に旅立つRigney氏の先行きに幸多からんことを祈りたい。 
 

 
なお『Apex Legends』は現地時間11月2日より新シーズン「エスケープ」が開幕予定だ。開発体制も変化するなか、今後の運営方針にも注目したい。