アメリカ・ジョージア州に拠点を置くデベロッパー/パブリッシャーのTripwire Interactive(以下、Tripwire)は9月7日、社長のJohn Gibson氏が退任し、共同設立者で副社長のAlan Wilson氏が暫定的に後任に就いたと発表した。Gibson氏は先日、自身のTwitterアカウントに政治的なコメントを投稿し、物議を醸していた。
Tripwireは、サメオープンワールドゲーム『Maneater』やFPS『Killing Floor』シリーズなどで知られるデベロッパーであり、パブリッシャーとしても活動しているスタジオだ。社長のJohn Gibson氏は9月5日、テキサス州にて施行された州法の差し止めを求める訴えを、合衆国最高裁判所が退けたことについて誇りに思うとツイートした。
問題の州法は、女性が妊娠してから6週目以降に、人工妊娠中絶することを原則禁止するというもの。母体の命に危険がある場合は例外とされる一方で、レイプ被害による妊娠であっても中絶することは認められない。さらに、妊娠6週目以降にテキサス州内で人工妊娠中絶をおこなった場合、施術した医師だけでなく、その過程でほう助した人物も訴えられる可能性がある。これは一般人による民事訴訟を指しており、勝訴すれば1万ドル(約110万円)以上の法定損害賠償金が得られるという。人工妊娠中絶を規制する州はほかにも存在するが、テキサス州の法律は特に厳しい内容となっており、女性の権利の侵害だとして大きな反対運動が起こるなど国論を二分している。
John Gibson氏は、このテキサス州法の内容への支持を、個人として表明したかたちだ。ただ、スタジオ社長でもある同氏に対しては、著名ゲームクリエイターや一般のゲーマーを含む、州法に反対する人たちからの反発や疑問の声が殺到。本稿執筆時点で1万件以上のコメントが投じられている。また、Tripwireが販売を担当した作品の開発元からは、同氏の考えを支持しないとの声明が出され、さらに開発協力で提携していたデベロッパーは、Tripwireとの契約をただちに打ち切ると発表した(関連記事)。
こうした騒動を受けてTripwireは9月7日、公式サイトなどで声明を発表した。同スタジオは、今回のJohn Gibson氏のコメントは同氏個人の意見であり、Tripwireの会社としての考えを反映していないとしたうえで、Tripwireのチームやパートナー、コミュニティがもつ価値観を無視したコメントだったと述べる。同スタジオの経営陣は、今回の件について非常に申し訳ないとし、よりポジティブな環境を作るべく迅速に行動するとした。
まず冒頭で述べたように、Gibson氏は社長を退任し、共同設立者・副社長のAlan Wilson氏が暫定的に後任に就く。Wilson氏は、Tripwireのビジネスと開発の両面を率いてきた人物とのこと。また同氏は、かつては『Red Orchestra』Modの開発チームの一員だったこともあり、その後Tripwireを設立して同作の続編を手がけている。今後Wilson氏は、スタッフやパートナーの懸念を払拭すべく、全社員との対話集会を開くなどオープンな対話を促進していくとした。
Tripwireは、John Gibson氏を社長から降格させることで幕引きを図ったかたちだ。発表に対しては、正しい決断だとする意見が多く寄せられている。また先述した提携デベロッパーは、今回の発表をリツイートしていることから、契約打ち切りを見直すことになるかもしれない。
一方で、Tripwireに対しては疑問の声も数多く寄せられている。つまり、個人の思想を表明しただけで社長を退任させるのはやり過ぎではないか、という意見だ。ただ同スタジオとしては、ビジネスに影響が出始め、またコミュニティが離れていってしまう危機にあったことから、今回示した対応を迅速に打ち出さざるを得なかったようだ。
なお、Gibson氏は問題のツイート以降はコメントを出しておらず、自らの判断で身を引いたのか、経営陣から社長退任を迫られたのかは不明である。Tripwireをめぐる今回の問題はひとまず沈静化に向かうだろうが、Gibson氏は今後何を語るのかについて注目が集まりそうだ。