とあるインディー開発者、Steamセール時の売上の95%をアルゼンチンからの購入が占め首をかしげる。背景には「トレーディングカード」の存在か


インディー開発者のLoren Lemcke氏は8月10日、自身が手がけた作品のSteamでのセール時の、国別の売り上げ本数を公表した。それによると、どういうわけかアルゼンチンからの購入が極端に多い。この背景には、意外な理由が存在する可能性があるようだ。海外メディアViceが報じている。
 

 
Loren Lemcke氏は、エンドレスアクションシューター『Over 9000 Zombies!』や、ルール無用ホッケーゲーム『Super Blood Hockey』といった人気作を手がけたインディー開発者。同氏は両作について、8月9日から16日までセールを実施しており、今回公開したのは当時の『Over 9000 Zombies!』の売り上げ本数のようだ。

内訳を見てみると、計933本売れたうちの95%にあたる887本がアルゼンチンからの購入となっている。2位のアメリカが13本、3位のカナダ/ロシアは6本であることから、いかにアルゼンチンだけが突出しているか分かる。Lemcke氏は、Steamユーザーはみなアルゼンチンで暮らすようになったのだろうとジョークを飛ばしているが、どうやら以前からセールのたびに、こうした奇妙な傾向は確認していた様子である。
 

(『Over 9000 Zombies!』)

 
なぜアルゼンチンでの売り上げが極端に多かったのか、はっきりとした理由は判明していないが、いくつかの可能性が考えられる。ひとつは、アルゼンチン国外からアルゼンチン国籍を装っての購入が増えたというものだ。Steamでは、数多くの国の通貨での販売に対応しており、価格にはそれぞれの国の物価などが反映される。すなわち、同じゲームであっても国によって価格が異なることが多い。

たとえば『Over 9000 Zombies!』の場合であれば、日本では198円で販売されているところ、アルゼンチンでは26.99ペソ。日本円に換算すると約30円であり、数ある国の中で最安となっている。ちなみに今回のセール時の価格は、日本では50円だったところ、アルゼンチンでは6.99ペソ(約8円)だった。日本から見るとかなり安く感じられるが、上述したように、現地で暮らす人にとってはこれが適正価格ということになる。

こうした価格の違いから、VPNを使ってアルゼンチン国内からSteamストアに接続しているように偽装して、安くゲームを購入する他国ユーザーが存在する。今回も、セール時を狙ってそうしたユーザーが増加した可能性があるだろう。とはいえ、こうした行為はSteam規約違反とされており、Steamを運営するValveも、国設定の変更を3か月に1回に制限したり、現地の支払い方法の利用を義務付けたりといった対策を打っている(関連記)。
 

(Image Credit: SteamDB)

 
もうひとつの可能性としては、Steamのトレーディングカードを目的に、純粋にアルゼンチン国内からの購入が増えたのではと指摘されている。トレーディングカードは、Steamのシステム側に用意された機能で、対応ゲームのカードセットをコンプすると、プロフィールのカスタマイズアイテムを獲得できる。

カードセットの半分はゲームプレイによって、そしてもう半分はコミュニティ内でのトレードで入手する仕組み。そして、コミュニティマーケットにて売買することも可能となっている。今回の話題に返信したアルゼンチン在住ゲーマーによると、『Over 9000 Zombies!』のトレーディングカードは10ペソで売れるという。となると、セール価格6.99ペソとの差額によって利益が生まれる計算になる。

別のアルゼンチン在住ゲーマーも、同国内ではトレーディングカード目的の購入が一般化しているとコメント。10ペソ以下で販売されているゲームを見つけては購入し、トレーディングカードを売りさばくということを繰り返す人々が存在するのだそうだ。アルゼンチンでは経済の低迷が長らく続いており、高い失業率や通貨安が問題となっている。同ゲーマーは、トレーディングカードの売却を目的にゲームを購入するなんて馬鹿げていると感じるかもしれないが、現経済状況下では大きな助けになっていると述べている。
 

 
『Over 9000 Zombies!』の売り上げ本数の、実に95%をアルゼンチン国内からの購入が占めていたというのは驚くべき数字であるが、本数にすると900本弱。ひとつの国の中でトレーディングカードの売却が流行しているとすれば、現実的な本数にも思える。実際現地には、そうした手法を指南するYouTuberも存在するという。

SteamにおいてVPNを使って接続国を偽る行為は、先述したように今や気軽におこなえるものではなく、アカウント停止処分のリスクもはらむ。フルプライスの大型タイトルならともかく、特に今回のような小規模作品の格安セール時においては、トレーディングカードの売却を目的にしたアルゼンチン国内からの購入という説の方が有力といえるかもしれない。

ちなみに『Over 9000 Zombies!』を手がけたLoren Lemcke氏は、新作『Terror of Hemasaurus』を現在開発中だ。巨大モンスターとなって、人類を滅ぼすべく街を破壊しまくるアクションゲームとのこと。配信時期は未定である。