『Apex Legends』レジェンド調整を担うゲームデザイナーが退職。「2007年投稿」の性差別・人種差別的発言が発掘され解雇か
『Apex Legends』にてリードゲームデザイナーを務めていたDaniel Zenon Klein氏が、8月6日付けでRespawn Entertainmentを退職したことを明かした。自身のTwitterにて伝えている。
Klein氏は、『Apex Legends』開発チームの顔ともいえる役割を担ってきた人物だ。Riot Gamesにて8年間の経験を積んだのち、Respawn Entertainmentには2020年1月に入社。シニアゲームデザイナー、のちにリードゲームデザイナーを務め、レジェンドのバランス調整などを手がけてきた。同氏は『Apex Legends』の開発において大きな役割を果たしてきたのと同時に、ファンとの交流を非常に積極的におこなってきたことでも知られる。海外掲示板RedditやTwitterなどで、開発事情やレジェンド調整の意図などを頻繁に発信しており、ユーザーから寄せられた疑問にも数多く回答する姿を見せてきた。まさに、『Apex Legends』開発チームとプレイヤーをつなぐ窓口のような役割を果たしてきた人物だ。
Klein氏は、Twitterの長文スレッドにて今回の退職に至った経緯を説明。Klein氏は、2007年に自身がネット上に投稿した人種差別・性差別的な文言が原因で、Respawn Entertainmentから解雇されるに至ったと伝えている。同氏は、当時の自身が差別的な思想を深く信じていたわけではなく、そうした発言をすることで多くの人から反応を得られると考えていたと釈明。しかし、実際に思想を信じていたかどうかは、発言の是非には関係がないとして、改めて謝罪している。またKlein氏はTwitter上で、Electronic ArtsおよびRespawn Entertainmentは、各社の権利の範囲内で同氏を解雇したと補足。いずれの企業にも非はないとするスタンスを示している。
Klein氏は、2007年当時から現在に至るまで、よりよい人間になるために大変なエネルギーを費やしてきたと述懐する。多くの人に支えられ、進歩することができたと振り返るも、現在の状況に至ったことで、「過去に自分が言ったことの埋め合わせはできない」と感じ非常に落胆していると伝える。現在は極度の不安に襲われており、せめて次の仕事探しでも始めないと、その不安に押しつぶされてしまいそうだとも語った。同氏は、自身のスキルに見合った求職情報があれば、伝えてほしいとTwitterで呼びかけている。
またKlein氏は最後に、『Apex Legends』チームに対して心から申し訳ないと謝罪の意を示した。同氏は、同作における今後の予定を知っている身として、『Apex Legends』には明るい未来が待っていると断言。同時に、そうした未来でともに働けないことが残念だとも伝えている。
Klein氏の過去の発言露呈については、7月28日に投稿された動画が発端であると思われる。同動画は、Klein氏が過去にネット上に投稿した性差別・人種差別的な投稿について告発するものだった。挙げられたものとしては、まずアートオンラインコミュニティDeviantARTに投稿された文章。2007年3月19日に投稿された文では、同氏の友人グループでの出来事が記されており、Toniという女性を、アダムとイヴの神話を引き合いに出しながら罵る内容となっている。「XX染色体(遺伝子のうち、女性を決定する染色体)」を指して「馬鹿の染色体(moron chromosomes)」と言い表したり、Toniのことを「脳なしの狂った人間(政治的に正しい言葉でいうところの「女性」)」と呼び表すなど、女性に対する差別的な文章が綴られている。
また動画では、Klein氏がブログに投稿したとされる文章も掲載(動画投稿後に同ブログは削除されたという)。自身の口ひげについて友人から「中に鳥でも飼ってるの?」と尋ねられたKlein氏が回答するという内容だ。「うん。それとアフリカ人の家族もね。ときどきパンくずを与えるんだ、もちろんアフリカ人じゃなく鳥にね。もしアフリカ人に餌をやったら、戻ってきてそこらじゅうに糞をするから」と人種差別的な返事を返す様子が記述されている。
*なお、この告発動画自体は2018年に投稿された別の告発動画を“再発掘”するかたちで作られたようだ。
動画にて掲載されているブログ投稿などはすでに削除されているため、本当にこれらの投稿がKlein氏によるものかは定かでない。ただし、動画が投稿された7月28日、Klein氏がTwitterで声明を発表。「2007年にブログで書いたいくつかのひどい発言」に対し、自らの言動を恥じているとして、謝罪文を表明している。同日には、Respawn Entertainmentにてコミュニティ&コミュニケーションディレクターを務めるRyan K. Rigney氏も動画の投稿者にリプライを送付。2007年の発言を2021年の人間に当てはめることを非難し、また「性的暴行の可能性がある」と根拠なく発言することを控えるように要請していた(動画冒頭に「この動画には、性差別や性的暴行といったセンシティブなトピックが含まれています」という注意文言を記載していることを受けての指摘。後日、動画から「性的暴行」という文言が削除された)。
こうした一連のTwitter上の投稿を見るに、7月28日の告発動画を端緒としてKlein氏の2007年の言動が取り沙汰され、8月6日にはKlein氏が解雇されるに至った、と見ることができそうだ。ちなみに、8月7日にはRedditにて恒例の開発者による質疑応答(AMA)スレッドが開催されたものの、これまで回答者として常連だったKlein氏の姿は見られなかった。
Redditでは、突然のKlein氏退職の報せに対し多くのユーザーが反応を寄せている。14年前の発言を取りざたして現在の人間を非難するのはおかしい、とするKlein氏への同情的な意見も見られるほか、2007年当時にはすでに社会人だったKlein氏の責任感の欠如を批判する声も存在。また、Klein氏のレジェンド調整方針に不満をもっていたユーザーは、バランス調整の担当者が変わることで新たな風が吹き込まれることを期待してもいるようだ。なかには、アソシエイトライブバランスデザイナーを務めるJohn Larson氏の昇格を望む声も散見される。
ユーザーによって反応はさまざまながら、これまで屋台骨を背負ってきたKlein氏をチームから失った『Apex Legends』。まだ開幕したばかりのシーズン「エマージェンス」が今後どのような道筋を辿るのか、先行きはいまだ不透明なままである。