PS5『ラチェクラ』制作中は“残業なし”だったと開発者の一人が報告。 週40時間労働を維持したゲームデザイナーの言葉が反響呼ぶ
Insomniac Games所属のゲームデザイナーGrant Parker氏は、発売迫る新作『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』の制作において、残業をしなかったと告白し反響を呼んでいる。6月11日に発売されるPS5向け『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』。同作のメディアレビューが解禁され、90点台が連発するなど錚々たる数字が並んでいる。そしてParker氏は、ゲームの評価が高いだけでなく、制作する職場の環境が健全であったと語っている。
Parker氏は6月9日、『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』が高い評価を得ていることに安堵。メタスコア89を記録する状況のなか、“チーム全体とは限らず自分の場合”と前置きしながら、開発期間を通じて週40時間労働だったと告白。クランチをしなかったとコメントし、長時間労働の苦しみなしでも素晴らしいゲームを作ることは可能だと語った。
クランチとは、長期間にわたる強制的な長時間労働を指す。ゲーム制作においては、期日に間に合わせる、あるいはゲームの完成度を上げるために、長時間労働を強いられる風習があり、クランチと呼ばれ問題視されている。とはいえ、決まったスケジュールに物を完成させることは、会社にとって重要。マスターアップ期は特にクランチが起こりやすく、対処すべき問題として捉えられながら、一方で逃れられないものとも認識されている。
『レッド・デッド・リデンプション2』や『サイバーパンク2077』の開発においてはクランチが報告されており、国内ゲーム会社でもクランチは往々に発生している。また、クランチをしないことを掲げる会社も生まれてきているが、品質など結果が伴わないケースも多く、健全な環境で面白いゲームを完成させることが、いかに難しいかという課題を浮き彫りにしている。
そんな中、Insomniac Gamesは健全な労働環境を整えており、それでいて高い評価のゲームを生んだと、Parker氏は語っているわけだ。同氏は「あくまで自分のケース」と再度強調。白人で男性、シスジェンダーのゲームデザイナーというコンテクストも添え、ルーツ上の特権もあっただろうとコメント。しかしながら、マネージャーは自分を燃え尽きないように配慮してくれたと語った。ちなみにParker氏は業界歴8年ほどである。
健全な環境下で働いていたのはParker氏だけではないようだ。同じくInsomniac Games に在籍し、シニアアニメーターとして『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』に関わったLindsay Thompson氏は、ゲームの制作において一度もクランチしなかったとコメント。タスクを終わらせるために何度か遅くまで働いたことはあるものの、クランチはなかったと語り、健康が自由な創造力をもたらしたと振り返っている。Thompson氏もまた、「自分の場合」と強調しているが、チーム全体としてもクランチに陥っていないはずだと付け加え、経営陣が健全な働き方を推奨していたと語った。
Insomniac Gamesは、もともと労働環境として健全であることが伝えられているスタジオ。Rockstar Gamesの『レッド・デッド・リデンプション2』のクランチが報じられた際には、Insomniac Games所属スタッフ複数名がクランチに反対する声をあげていた。長時間労働を良しとしない文化があるのだろう。
また同社がSIE PlayStation Studiosのひとつであることも留意すべきかもしれない。SIEが2019年に同社を買収する前からクランチに反対する風土はあったようだが、それでも経済的な安定はゆとりある労働環境と関連してくる。さらに、Parker氏とThompson氏があくまで「自分の場合」と強調している点も留意すべきことである。スケジュールに追われやすい立ち位置の人物が、健全に働けたかどうか未知数。外注先も含めプロジェクトに関わった全員が、健全に働けていたとは限らない。
とはいえ、開発スタジオが健康に働き、それでいて作品が高い評価を受けていることに、複数の業界関係者が勇気をもらったという旨のコメントを残している。健康的な労働環境には、優秀なマネジメントが不可欠。現場と管理者の両方が機能しなければ達成できないことだろう。『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』は、ゲーム以外の部分でも、注目を集めることとなった。健全な環境下で作られたという「ラチェクラ」新作がどのような完成度になっているか、実際に手にとって確かめてみるのも面白そうだ。
『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』は、PlayStation 5向けに6月11日発売予定だ。