『モンスターハンターライズ』はなぜ安定して美しく動くのか、テックメディアが考察。カプコンとRE ENGINEの最適化の賜物
カプコンは3月26日、『モンスターハンターライズ』を発売した。同作は、テンポの向上や遊びやすさといったゲームデザイン面だけでなく、Nintendo Switch向けの最適化という点についても称賛されている。Nintendo Switchは持ち運びも可能ということで、スペックとしてはPlayStation 4やXbox Oneよりも大きく劣っている。結論からいうと、グラフィック表現などでは『モンスターハンター:ワールド』レベルには及ばないということだ。
しかしながら、『モンスターハンターライズ』は、“Nintendo Switchタイトルとしては”非常に秀でているとの評価が名高い。豪華なカットシーンに、なめらかな動作、そして安定したフレームレート。Nintendo Switchでさまざまな3Dゲームをプレイしたことがあるユーザーなら、本作の表現水準の高さや動作の安定性に、目を見張るものがあることがわかるだろう。そんななかDigital Foundry・GamingBoltなどテック寄りのゲームメディアやKotsnick GamingといったYouTubeチャンネルが、『モンスターハンターライズ』がどのように動作しているか、またどのようにNintendo Switch向けに最適化されているかを考察している。その内容をかいつまんでお伝えしよう。なお本稿の内容は、カプコンから公式発表されたものではない。推測などを含んでいるので留意していただきたい。
まず前知識として、同作にて使用されているゲームエンジンについて知る必要があるだろう。『モンスターハンターライズ』の開発においては、カプコンの内製エンジン「RE ENGINE」が使用されている。カプコンは長らく「MT FRAMEWORK」と呼ばれる内製エンジンを開発・運用してきた。前作『モンスターハンター:ワールド』も同エンジンをベースとしたワールドエンジンを使って開発されている。
しかし、「MT FRAMEWORK」は大幅な新機能の追加や仕様変更が困難だということや、タイトルごとにエンジンコードの書き換えが行われ互換性の喪失へとつながっていたという理由から、それらの課題を踏まえた内製エンジン「RE ENGINE」が開発された(CGWORLD)。2017年に『バイオハザード7 レジデント イービル』がリリースされて以降、『バイオハザード』シリーズ新作や『デビルメイクライ5』などに同エンジンが使用され、現在では『帰ってきた 魔界村』や『カプコンアーケードスタジアム』といった幅広いカプコンタイトルにて、「RE ENGINE」が使用されている。そして『モンスターハンターライズ』でも、同エンジンが採用されているわけだ。
では、「RE ENGINE」が使用された『モンスターハンターライズ』は、どのように動くのか。まずは解像度について。TVモードでは1344×756(756p)が基本になっており、携帯モードでは960x540p(540p)となっているという。プレイ中に解像度が変化する、いわゆる可変解像度は採用されていない。TVモードと携帯モードの大きな違いとしては、解像度によるものが大きい。画面解像度だけでなくテクスチャ解像度なども違い、TVモードの方が、よりきめ細やかテクスチャ表現になっているわけだ。一方で、遠距離のオブジェクト描写やLoDの仕様はTVモードと携帯モードで変化は見られないそうだ。
またフレームレートについても、 TVモード・携帯モードとも安定して30fps前後が出ているとのこと。Kotsnick Gamingによると、TVモードの方が若干フレームレートの安定性はあがるという。『モンスターハンター』シリーズでは可変フレームレートが採用されることもあるが、本作では忠実に30fpsベースに動いており、なめらかさの変化に敏感なプレイヤーも安心とのこと。ただし、滝が流れている水辺では26fpsが出るなど、例外的な場所も存在するそうだ。
本作のパフォーマンスの要は、安定性だろう。解像度やフレームレートはさほど高くないものの、ある程度の数値を保って動き、エラー落ちすることもない。4人でマルチプレイをし、モンスターが複数動いている状態でも、ゲームプレイ体験が著しく低下することもない。筆者の主観になるものの、Nintendo Switch本体のファンが冷却のために激しくうなったりもしない印象だ。派手さはないものの、非常に安定したパフォーマンスで狩りを楽しめる。
特に、携帯モードでの動作安定度が重要視されていることがうかがえ、堅実という言葉が似合うパフォーマンスだろう。それでいて、ビジュアル表現の水準は高い。モデリングは精巧で、カットシーンでのキャラ表現はPS4/Xbox Oneタイトルに迫るもの。フィールドやモンスターの質感表現もリッチ。Nintendo Switchのサードパーティータイトルとしては屈指のグラフィックとなっている。
そうしたパフォーマンスやグラフィックを再現するためには最適化、つまり削減されている部分もあるようだ。Digital Foundryは、前作『モンスターハンター:ワールド』と比較しながら、今作の最適化要素をあげている。たとえば、足の仕様だ。前作では石段などの上を進む場合には、足が段の上に乗せられている。一方で、今作では石段があっても石段に足がめりこんでいるのだ。また装備の揺れなども、今作では控えめ。そのほか、前作では近くで武器を振り回すとオトモアイルーが反応する。一方で、今作は武器を振り回してもオトモアイルーの反応はなし。またフィールドにある草は揺れるものの、影表現はほぼない。キャラクターの影表現は実装されているが、影そのものがアニメーションしないことが報告されており、前作との違いが見て取れる。
そのほか目立つ最適化の点といえば、遠景描写されている時のモンスターのアニメーション。特定モンスターについては、ある程度距離がある場合、アニメーションのフレームレートが半分にて描写されているという。つまり、遠くにいるときは15fps程度で動いているようだ。寒冷群島にたどり着いた際に、飛行生物の動きにややカクつきを感じたプレイヤーもいることだろう。そして近づいていくとほかのモンスターと同様に30fps前後のフレームレートで描写される。こうした部分も、最適化のひとつだろう。小さな変化ながら、負荷という面では重要な機能を果たしていそうだ。ほかにも、目に見えない工夫が数多く重ねられていると考えられる。
GamingBoltは、『モンスターハンターライズ』が任天堂のファーストパーティー級の最適化であると称賛。Digital Foundryもまた、カプコンはテクノロジーとビジュアルのバランスを考えながら素晴らしい仕事をしたと称賛を送っている。『モンスターハンターライズ』が(現時点では)Nintendo Switch専用タイトルとして開発されていることや、RE ENGINEの優秀さ、そしてカプコンの技術力などが、高いパフォーマンスの実現に貢献しているのだろう。『モンスターハンター:ワールド』には劣りながらも、携帯モード向けにしっかりと最適化されている『モンスターハンターライズ』。テック系メディアの分析などを介して、パフォーマンス面にも注目してみるといいだろう。もしくはCEDECなどで開発者から直々に語られる機会を待ってみるのもいいかもしれない。