クトゥルフオープンワールド『The Sinking City』開発元、パブリッシャーの“海賊行為”を告発。「不当にハッキング&販売された」と主張

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Frogwaresは3月2日、「How Nacon Cracked and Pirated The Sinking City(Naconが『The Sinking City』をいかにクラッキングし、海賊版を出したか)」と題した動画およびブログ記事を公開した。『The Sinking City』についてはその権利をめぐり開発元Frogwaresと、販売元Nacon(旧BigBen Interactive)の間で法廷闘争が継続している。一時Steamから取り下げられていたが、先週になってNaconより配信再開。ところがFrogwares側より、再配信への不関与が表明され、購入しないようにTwitterで注意喚起がなされるという奇妙な事態に発展していた(関連記事)。 

NaconはFrogwaresのTwitterでの主張に対し、遺憾の意を示す告知をSteamのニュースページに掲載している。声明においてNaconは、『The Sinking City』のリリースにあたりパブリッシャーとして尽力してきたことを主張。現在Steamにリリースされたものは完全なバージョンであるとしつつ、Frogwaresとの連携が取れないために追加コンテンツが収録されていないことを説明した。ところがNaconがニュースページを更新したわずか3時間後、Frogwaresが同ページにてNaconの“海賊行為”を告発する動画を掲載。同じニュースページで対立する2社の主張が並立する奇妙な状況が発生している。 
 

 
今回の解説動画は、2月26日に配信されたSteam版がどのように「違法に」リリースされたかをFrogwaresの視点から解説したものである。まず同社は、Steamにて配信されているバージョンと、GamesplanetにてFrogwares自身が販売を担当するDRMフリー版の違いを説明。Steam版は、NaconがGamesplanet版を改変して配信したものであるとFrogwaresは主張しており、前者ではGamesplanetロゴがNaconロゴに置き換わっている点、Gamesplanet限定配信である記載が削除されている点、Frogwaresの他作品への誘導リンク「Play more」が削除されている点などを挙げた。 

さらに、2月26日に配信されたSteam版のデータ構造を詳細に見ると、次のようなことがわかるという。まず、フォルダ名や構造はFrogwaresが自身でGamesplanetなどの各プラットフォームにて配信しているものと同じである。実行ファイルは名前が似ているものの、サイズが異なっており、何らかの修正が施されたことを示唆している。またパッケージファイルは2020年夏頃に作成されたバージョンと同等のものだという。 

分析により、Gamesplanet版とSteam版がその起源を同じくするにもかかわらず、相違点がいくつか存在することが判明した。これは、NaconがFrogwaresの暗号化キーを使ってGamesplanet版を逆コンパイルし、ハッキングした証拠に他ならないとFrogwaresは結論づけている。明確な著作権侵害であり、技術に習熟したプログラマーを起用しての行為であるとして悪質さを強調した。 
 

 
では具体的にどのような作業がおこなわれたのだろうか。Frogwaresは次のように説明している。まずNaconは何らかの手段でFrogwaresが設定した暗号化キーを入手(経路についてFrogwaresは把握済みであり、法廷に提出予定だという)。その後一部ファイルに変更を加え、再度コンパイルしたのち何事もなかったかのようにSteamでリリースしたという。試しにFrogwaresはNaconがリリースしたSteam版をダウンロードし、Frogwares側で設定した暗号化キーをアーカイブに使用してみたという。果たしてそれは作動したそうだ。 

そしてFrogwaresは、Naconが加えた重大な変更ポイントとして、「インターネット接続の確認」が削除されていることを指摘した。Gamesplanet版の実行ファイルには存在する同機能が、Steam版では除外されているのだ。その理由をFrogwaresは以下のように説明した。先述のとおり、Steam版ではFrogwaresの他作品へ誘導する「Play more」のリンクボタンが削除されている。これは、外部サーバーへのコンテンツにつながるリンクであり、同時にソフトが使用しているバージョンを確認する役割も果たしていたという。海賊版・ハッカー対策として導入されていた、さりげないセキュリティ機能であった。 

このプロテクション機能を削除するため、Naconはゲームの実行ファイルとパッケージ内の構成ファイル双方に手を加えていたという。Frogwaresは、実行ファイルの改ざんについて電子署名の有無などを挙げて説明。ゲームの改ざんの足取りがつかないようにしたNaconの手口を事細かに解説している。 
 

 
このほかにも今回の発表では、Naconが『The Sinking City』のデラックス版をハック対象としたため、Frogwaresとの契約の範疇外にあった追加コンテンツ込みで販売していること。また、本来Naconが販売権利をもたないプラットフォームでの販売に向けてSteamキーの発行リクエストを出したことなどが告発されている。なお本件についてFrogwaresは、あくまでもNaconが独自におこなった行為であり、SteamおよびGamesplanetには責任がないとの見方を示している。 

またFrogwaresは、今回の「海賊版」を誰がSteamにアップロードしたのか辿った。ビルドのアップロード履歴に残ったユーザー名をLinkedinにて検索したところ、ベルギーのスタジオであるNeopicaの創設者兼マネージングディレクターの名前と一致することが判明したという。同社は『Hunting Simulator』などの開発元として知られている。Neopicaは2020年10月にNaconに買収されており、直近のゲームでも『The Sinking City』と同じUnreal Engineを採用していることから、同スタジオスタッフが『The Sinking City』の「ハッキング」に携わったのだろうという見立てをFrogwaresは示した。 

なおNaconがFrogwaresに無断で『The Sinking City』の販売を試みたのは今回が初めてではない。昨年12月、NaconのCEOであるAlain Falc氏はFrogwaresに通達を送付。「48時間以内に『The Sinking City』のマスタービルドを渡さない場合、法律と契約の範囲内で利用可能なすべての解決策を講ずる」との警告が伝えられた。Frogwaresがこれに従わないまま48時間が経過すると、NaconはGamesplanetより『The Sinking City』を購入し、Steamにて販売しようとしたという。本件についてはFrogwaresがSteamへ申し入れをしたため、販売は止められた。 
 

 
Frogwaresとしては、Naconが『The Sinking City』のソースコードを入手したため、無断でアセットを使用して新しいバージョンを配信できてしまうことなどを懸念に挙げている。今後も法廷での闘争を続ける意思を新たに綴り、告発文の締めくくりとしている。 

【UPDATE 2021/03/03 10:38】
Steamにて『The Sinking City』のストアページが取り下げられていることが確認された。現在のところFrogwares、Nacon双方からのコメントは発表されていないものの、Frogwaresによる告発を受け一旦ページを非公開にしたものと思われる。

UPDATE 2021/03/03 12:10
Steamより、『The Sinking City』のストアページはFrogwaresのDMCA侵害申請により取り下げられたという。海外メディアVICEの取材に対し、Valveのマーケティング部VPを務めるDoug Lombardi氏が声明を出して明かした。

【UPDATE 2021/03/04 13:52】
一連のFrogwaresの告発に対し、Naconから反論の声明が出された。
 
Naconは契約上、Steamにおける『The Sinking City』の販売権を有する唯一の企業であることを主張。Frogwaresが当初主張していた契約不履行・支払い拒否などの訴えに対し、すでにNaconは開発費・ロイヤリティとして890万ユーロ(約11億4800万円)を支払ったと反論した。マーケティング費用を合わせると、Naconが同プロジェクトに費やした金額は1000万ユーロ(約12億9000万円)におよぶ。またパリ控訴院はFrogwaresによる契約解除の訴訟を退けたと伝えてもいる。これは「Naconが2020年7月に起こした、契約解除の無効を確認するための訴訟は裁判所に却下された」というFrogwaresの主張と食い違う。
 
またNaconは、FrogwaresがNaconに無断で『The Sinking City』をSteam上でリリースしようとしたことを指摘(今年1月にFrogwares名義で数時間のみ配信された件を指すと思われる)。Steamでの販売を再開することは技術的に不可能ではない証拠であると伝えた。さらに、Frogwaresからの「Naconは、海賊行為によって入手・改変したゲームをSteamで販売している」との主張にも反論。NaconがSteamで『The Sinking City』を販売できるようにFrogwaresが協力しない場合、サードパーティーによる改変を認めるとの条項が、両社間の契約に含まれているという。

NaconはFrogwaresからの攻撃的な主張に対し、法的措置を取る権利を有しているとコメント。またこれまでの裁判所での決定はすべてNacon側に有利なものであったとして、Frogwaresはこれらの事実を意図的に伏せていると指摘している。

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