米イリノイ州議員が『Grand Theft Auto』などの発禁目指す。車両盗難増加を受け、「暴力的なビデオゲーム」の全面禁止を求める法案提出
米国イリノイ州の政治家が、シカゴにおけるカージャック事件増加を受けて「暴力的なビデオゲーム」の全面禁止に乗り出しているという。イリノイ州にはもともと、州の刑法12A条において、未成年に対する暴力的なビデオゲームの販売を禁ずる法律があった。このたび民主党下院議員Marcus Evans Jr.氏が提出した修正法案HB3531においては、その効力が拡張される。まず、未成年に対してのみ禁じられていた販売禁止の範囲を全面禁止に拡大。さらに「暴力的なビデオゲーム」の対象を再定義している。いわく、「心理的な危害・児童虐待・性的暴行・動物虐待・家庭内暴力・女性への暴力・ドライバーもしくは搭乗者がいる状態における自動車盗難を含む」ものだという。
修正法案における暴力的なビデオゲームの定義について、最後の「自動車盗難」だけ妙に具体的なのが気になるところだろう。背景には、イリノイ州シカゴにおける深刻な自動車盗難の被害事情がある。地元メディアChicago Sun-Timesによれば、2020年に警察へ届け出られたカージャック事案は1417件におよび、前年比で2倍に膨れあがった。さらに今年1月の事案は218件におよび、このペースでいけば2021年のカージャック事案総数は2600件台にのぼる見込みだという。Evans氏は、本法案によってコミュニティを苦しめる活動を促進する一部ゲームの販売が禁止されるだろうとしている。法案では、該当するゲームを販売・レンタルした場合1000ドル(約10万5000円)の罰金が課されるとしている。
Evans氏は1月より、レッカー車会社を率いるEarly Walker氏と接触していた。同氏はシカゴ警察とレッカー車ドライバーで協力し、被害の多発するガソリンスタンドでの車両盗難防止運動「Operation Safe Pump」を立ち上げた人物として知られている。Walker氏は、地域におけるカージャックの事案と、ビデオゲームにおいてプレイヤーが取れる行動の類似性に気付いてから、複数の議員に対しそれらゲームの販売禁止を求めるように働きかけてきていたという。Walker氏は、カージャックの問題においてゲームが大きな要因のひとつであると主張する。現実で起きている車両盗難とビデオゲームの中でのそれは酷似していると、同氏は強調した。
海外メディアPolygonは、本法案が通過するかどうかに慎重な見方を示している。2011年、米国の最高裁判所はビデオゲームに言論の自由を認める判決を下した。この判決により、2005年にカリフォルニアで発布された、保護者の同意なしに未成年者に暴力的なビデオゲームを販売することを禁止する法律が違憲であるとされた。同判決においては、ビデオゲームを本・演劇・映画などと同様に、キャラクター・会話・シナリオ・音楽などを通じて思想を伝達するメディアとして判断。したがって憲法修正第1条(による表現の自由)の保護を与えるに値するとされている。
Evans氏の法案が通過すれば、真っ先に規制の槍玉に上がるのは『Grand Theft Auto』といった人気シリーズだろう。車両盗難描写のあるタイトルということもあり、Chicago Sun-TimesやPCGamesNも、影響を受けるであろうゲームの例として同シリーズに言及している。過去の判例を踏まえながら、議会がどのような方向へ動くか注視したいところだ。