海外フォーラムResetEraにて、奇妙なオールスターが勢揃いしている。「Unintentionally creepy NPCs.」と題されたスレッドでは、さまざまなゲームにおけるNPCがずらりと投稿されている。しかし、そのいずれも単なる脇役ではない。どの面々も個性的、というか端的に気味が悪いのである。スレッドの投稿者は、「無害だが見た目や挙動が不気味なキャラクターたち」を大募集。例として、『シェンムーⅢ』に登場する「藩智要」を挙げている。
薬局・安全薬行の店員を務める藩智要は、「たのまれ事」を通してもプレイヤーと接することになる小市民。しかし健康薬品を扱っているわりには顔色が最悪で、頬もこけてしまっている。極めつけは身にまとった白衣だ。謎の赤いシミが点々と落ちており、明らかに“安全”ではない趣を醸し出している。このように、決して敵キャラクターではないがプレイヤーに強烈なインパクトを残す名脇役が、スレッドには続々と集まった。なおスレッドタイトルは「 Unintentionally creepy NPC(意図せず不気味な〜)」とされているが、実際にはカテゴリ問わず名物不気味NPCが集っているためあしからず。
多数の支持を集めたのが、『トゥームレイダー』シリーズに登場する執事、ウィンストンだ。長年ララ・クロフトとその家族に仕える住み込みの使用人で、ララの生き様を陰に陽に支える深い理解者。プレイヤーにとっても頼もしい忠実なしもべ……のはずだが、多くの人にとっては異なる印象を与えていたらしい。主に彼と顔を付き合わせることになるのが、ララの自宅であるクロフト邸。彼女の家はちょっとしたチュートリアル要素もかねており、高低差のある宅内ではさまざまなアクションを練習可能。高難度のトラップをかいくぐるため、ここで特訓を重ねたプレイヤーも多いはずだ。自身の家で飛んだり跳ねたりを繰り返すララもなかなかのインパクトだが、ここでのウィンストンが厄介な存在。
というのも、室内でアクションを繰り広げているとウィンストンはぴったりと彼女の後についてくるのである。腰の曲がった老執事ゆえ、機敏なララに比べればそのスピードはゆっくりとしたもの。しかしお盆のティーポットをカタカタいわせ、ローポリゴンの人形じみたウィンストンがじわじわと背後に迫ってくる様子は、当時多くのプレイヤーに謎の焦燥感を与え続けた。
あまりにも気味が悪いことから、ウィンストンの追跡をなんとかやめさせようとする人が続出。宅内には仕掛け扉のついた冷凍庫があり、外のギミックでドアを開閉可能なことから、ウィンストンのホーミングを利用してうまく食肉保管庫に閉じ込めてしまうプレイヤーが少なくなかった。一家を支えてきた功労者に対してはあんまりな仕打ち。その見た目の怖さと後味の悪い仕打ちの記憶が、多くの人の心に残っているのかもしれない。
国内では知名度が低いながら、“追跡系”NPCについて「ワトソン」をおいて語ることはできない。Frogwaresといえば近年は『The Sinking City』などを手がけたことで知られるウクライナのスタジオ。中でも看板といえるのが、シャーロック・ホームズをテーマにした推理ADVシリーズだ。19世紀ロンドンを舞台に、名探偵ホームズがさまざまな事件に挑む作品群。そしてホームズものとして欠かせないのが助手・ワトソンの存在である。もちろんFrogwares作品でも活躍しており、欠かせない名脇役を演じている。
YouTubeにて伝説的作品となっているのが、2008年投稿の「Creepy Watson」と題された動画。こちらは作中のワトソンのAIを巧みに利用した映像となっている。というのもゲーム内にて、ワトソンはホームズの後を決して離れないように設計されている。具体的にいうと、「テレポート」が可能なのだ。プレイヤーであるホームズが一人称視点で部屋を探索していると、ふと視界から外れた瞬間まったく異なる位置に出現するワトソン。動画ではBGMや各種演出が巧妙に取り入れられ、まるで目を離してはいけないSCPのように迫りくるワトソンの恐怖が描かれている。13年前に投稿され330万回の再生数を誇る本作はネットミーム化しており、その存在はFrogwaresも認知。のちにスタジオが最新作で“逆パロディ動画”を制作し投稿するなど、多くのユーザーに親しまれて(?)いる。
このほか『あつまれ どうぶつの森』のぴょんたろう、『アサシンクリード ヴァルハラ』における子どもたちなど、直近のハイエンドゲームからも続々とNPCが参戦。しかしその一方本スレッドでは、圧倒的強さを誇った作品が君臨している。『ゼルダの伝説』シリーズだ。主人公こそ眉目秀麗なリンクが務める同シリーズだが、その周囲の住民はなかなか個性的である。『時のオカリナ』『ムジュラの仮面』における大妖精やチンクル、風車小屋のグル・グルさんは大定番。ローポリ時代だけでなく、画質の向上した『トワイライト・プリンセス』ではトアル村の子どもマロや、便利アイテムのおばちゃん/おばちゃんの息子も多くの人にトラウマを植えつけていた。
ユニークなものとしては、『リンクの冒険』における「エラー」が挙げられる。ルトの町に住む男性であり、英語版で彼に話しかけると一言だけ「I AM ERROR」とだけ名乗るチョイ役。そのシュールさからネットミームと化しており、多くの海外版ユーザーからは誤植かプログラムミスとして認識されている……がこれは誤り。実は日本語版でもしっかり「オレノナハ エラー ダ…」と名乗っており、意図的なジョークであることが確認できる。ただし、れっきとした本名だったとしてもいきなり「ERROR」を名乗り出す人間はやはり奇妙。日常に潜む狂気が垣間見えるような不気味さを漂わせており、個性派揃いの『ゼルダの伝説』NPCの中でも一線を画す存在といえるだろう。
プレイヤーがどれだけヒロイックな活躍を繰り広げても、その陰には必ずゲームの世界の住民たるNPCが存在する。美男美女だけでなく、時に人間性の周縁に位置する彼らがいるからこそ、作品の世界観が深まるのかもしれない。興味がある人はこちらのスレッドで、深淵なるNPCの世界を探索してみてはいかがだろうか。