『Sky 星を紡ぐ子どもたち』の帽子、韓国風か中国風かで議論勃発。しかし星の子に民族の壁はない


Sky 星を紡ぐ子どもたち』(以下、Sky)にて、あるコスメアイテムをめぐりユーザー同士のすれ違いが起きてしまったようだ。本作は『Flowery』『風ノ旅ビト』を手がけてきたthatgamecompanyによるアドベンチャーゲーム。オンラインを介したソーシャル要素が特徴で、最大8人のマルチプレイで他者コミュニケーションしながら、プレイヤーは星を集める旅路をめぐる。昨年には全世界で2000万ダウンロードを達成したことが伝えられ、多くのユーザーに愛されている作品だ。

同作では今年1月より、シーズンイベント「夢かなう季節」を実施中。王国での演舞を夢見るスケーターをめぐり、峡谷に追加されるふたつの新エリアにて冒険が繰り広げられる。イベントをクリアすることで、恒例の季節限定報酬も獲得可能。新たな感情のジェスチャーを覚えられるほか、星の子をカスタマイズできるコスメティックアイテムも新登場した。
 

 
ところが、そのラインナップのひとつが議論を呼ぶこととなった。イベントで登場する精霊のひとり、「舞い踊る表現者」から獲得できるヘアスタイル(帽子)についての解釈で、コミュニティの意見が割れたのだ。当初ユーザーの間では、この帽子は韓服に用いられる「カッ(gat)」であるとの認識が広まっていた。英語版『Sky』Wikiでも、2月4日夕方の時点では帽子について「伝統的な韓国風の(traditional korean-styled)」といった記載が見られた。

ところが同日の夜、帽子について「韓国風の」「カッ」といった記述が訂正・削除された記録が見られる。というのも帽子について、「中国の伝統が元ではないか」との指摘が広まっていたためだ。中国の一部のユーザーは、『Sky』の件の帽子は韓国ではなく中国の明王朝の服飾に由来するものだと主張。帽子のデザインの由来についてコミュニティで意見の食い違いが発生した。本件に関しての議論は長く続いたが、thatgamecompanyゲームデザイナーJenova Chen氏はしばらく中立を保っていた。
 

 
ところが2月4日、Chen氏はWeiboにて本件に関する声明を投稿。文書によると、開発チームは版『Sky』ファンベースでの対立を察知し、コミュニティの不和の種を取り除こうと模索していた。その結果、中国版『Sky』においてのみ、後のアップデートで帽子のデザインを変更したのだという。しかしその結果、当初の帽子に魅力を感じていた中国ユーザーから反発が強まってしまった。その結果、中国版においてもすべてのユーザーに、改めて元のデザインの帽子を配布する、との決定が下されたようだ。

しかしChen氏のさらなる言及により、議論はにわかにヒートアップすることになる。というのも同氏は、件の帽子が「中国の明王朝の帽子を元にしている」と明確に述べたのである。この言及に対し、一部のユーザーは反発。というのもあるユーザーがthatgamecompanyにメールで問い合わせた際、運営チームの回答として「『Sky』はフィクションの世界であり、現実世界と強く結びつくことはないと保証する」とのメッセージが返されたことが広まっていた。Chen氏が特定の国の文化をモデルとして明言したことは、運営チームからの回答と矛盾しているのではないか。こうした疑問がユーザー間で広まり、一挙に議論が加熱しているのだ。また中国版『Sky』パブリッシングを務めるNetEaseが自社の投稿において「最初のプロトタイプの帽子、大きな帽子の中国の明王朝、これは反駁できない歴史的事実です」「中国の運営チームとして、私たちは伝統的な中国文化が侵略されるのを防ぐための誠実な心も持っています」と投稿したことも、波紋を拡げる一因となったようだ。
 

*Chen氏はTwitterにおいても、明王朝の服飾がモデルとなったことを明言している。
 

本件についてthatgamecompanyは、メディア向けに以下の声明を出している。
 

 
「夢かなう季節」が韓国・中国のプレイヤーベースを引き起こした混乱を心からお詫び申し上げます。 今シーズンのコスメティックアイテムで歴史的アイデンティティを強調することは、意図したことではございませんでした。 私たちは、コスメティックアイテムが国際的なコミュニティにどのように影響するかについて十分な評価をおこないませんでした。また、異なる地域間で歴史的に重要な衣服を無意識のうちに含めました。今後は改善に向けて努力することを約束します。

thatgamecompanyは多文化ゲームスタジオであり、開発プロセスではさまざまな影響を受けています。 何百万人ものプレイヤーが『Sky 星を紡ぐ子どもたち』を通じて、すでにつながり、永続的な友情を築いてきました。 プレイヤーがどこに故郷をもっていたとしても、ゲームが他の人の団結と思いやりを促進し続けることを願っています。
 

 
本コメントでは、改めて問題の帽子が「歴史的アイデンティティを強調する」ものではないことが明確にされたかたちとなる。作品として無国籍の世界観を描いていても、無から何かを生み出すことは困難だ。 thatgamecompany コメントとChen氏の発言を併せて考えるなら、あくまでデザインのインスピレーション元が中国文化にもとづくものであるということ。Chen氏の発言はどこまでが真意なのかは不透明だ。単なるクリエイティビティだけでなく、ビジネスにも関わる。というのも、中国市場でサービスを展開するには、政府に目をつけられないように中国文化を“丁重に”扱わざるを得ないのも事実。現地にNetEaseというパートナーがいればならおさらだ。いずれにしても、重要なのはthatgamecompanyがいずれかの民族の正統性や、文化の所有権を主張する意図はないということである。

今回の一件でもっとも心を痛めているのは、他ならぬ『Sky』のファンコミュニティだ。一部ユーザー間で議論が過熱しているとはいえ、多くのユーザーにとって『Sky』の文化は『Sky』の世界のものだ。そこに民族や国境の壁はない。さまざまな壁を越えて「つながり」をもてる本作だからこそ、ファンベースの対立が解消されることを切に願うばかりだ。
 


なお英語圏では新たに「ソンブレロ」派が出現。ジョークまじりに新楽器としてマラカスを要求中だ。波乱を呼び寄せる……かもしれない。