Kickstarterで資金集めたゲーム『Cryamore』返金対応、8年間積もった憎悪の末「あなたたちの金はいらない」。今後はポルノ絵で開発資金を確保

インディースタジオのNostalgiCOは2月1日、Kickstarterにて24万ドル(約2544万円)を集めたプロジェクト『Cryamore』について、支援者全員に返金対応することを発表した。ただし制作が中止になったわけではなく、今後はKickstarterに頼らないかたちで『Cryamore』の開発を続けていくという。

インディースタジオのNostalgiCOは2月1日、Kickstarterにて24万ドル(約2544万円)を集めたプロジェクト『Cryamore』について、支援者全員に返金対応することを発表した。ただし制作が中止になったわけではなく、今後はKickstarterに頼らないかたちで開発を続けていくという。
 

 
『Cryamore』は2013年よりクラウドファンディングを開始した、アクションRPGだ。JRPGの影響を強く感じさせるスタイルが特徴で、読書家の少女Esmyreldaが不思議な鉱石資源Cryamoreにまつわる調査に挑むアドベンチャーとなっている。対応プラットフォームはPCのほか、公式サイトにはWii U/PlayStation 3/Xbox 360のロゴを確認可能。日本のアニメーションを彷彿とさせるキュートな絵柄や、古き良き時代を思わせる精細なドット絵が評判を呼び、5900人もの支援者を集めることになった。当初2014年とされていたリリース時期が一旦「TBA」となり、いっとき支援者を不安にさせたものの、2015年には本作のパブリッシャーとしてアトラスとパートナーシップを結んだことを発表。サポーターの期待を集めていた(ただしアトラス側からの発表はなく、その真偽は不明)。

ところが、プロジェクト開始から8年が経過してもいまだにゲームはリリースされていない。支援者向けのアップデート情報も、当初は月に数回程度の告知があったのが、徐々に年数件程度に減少。2019年の投稿はわずか1件であった。そこでは、4000以上のアニメーションスプライトが完成していることや、8つのダンジョンがすでに実装できていることなど、開発の実績を報告。同時に、進行の遅れに対する報告が弁明されている。開発エンジンであるUnity 4が古すぎて使い物にならないこと。Nintendo Switchなど現行コンソールに移植するにあたり弊害があること。ゲームを当初の状態から大幅に作り直したことなど。

さらに開発の状況もさることながら、メンバーのプライベートにおける事情も大きく制作進行を揺るがしていたようだ。プロジェクトの指揮をとるRobaatoことRobert Porter氏は2015年ごろより私生活に支障をきたしてきた。パートナーと12年間にわたる関係の末に破局したことや、何らかの原因により友人・家族らと関係を断たねばならなかったことが明かされている。さまざまな事情が説明されるも、「私たちはまだ生きているし、よくやっています」と宣言。逆境にあってむしろタイトル完成を目指す勢いが増したと伝えている。しかし、結局アップデートはそれからさらに2年間の沈黙に入る。コメント欄には不信感を募らせた支援者からのメッセージが殺到し、「何でもいいから早く形のあるものをリリースしてほしい」との不満が募っていた。ちなみにPorter氏は別途、2015年に自らのイラストレーションの画集発売をクラウドファンディングにて企画していたが、こちらも製品が届かないまま数年が経とうとしているようだ。
 

 
そしてさらに2年が経った2021年2月1日、「最後」と銘打たれたアップデートが公開された。文責はPorter氏で、まず同氏は長らくの苦境にあって温かなサポートを続けてくれたファンに丁重な感謝のメッセージを伝えている。そして中盤以降は一転、ここ数年での苦痛を激烈な筆致で述べた。まずPorter氏は、「開発チームを悲しませ、追放し、荒らし、ひどく軽蔑的な発言をしたすべての支援者」に対し、「『Cryamore』が残酷な人々からの金銭で汚染されることを望んでいない」と断言。こうした人々はKickstarterがプロジェクトを支援するためのプラットフォームであることを忘れ、真逆のことをしてきたと糾弾した。同氏の記述によれば、開発チームは今や「Kickstarter」という単語に対し“PTSD”を患うほどにまでなっているという。

そして続く記述では、2019年に明らかにされていたPorter氏の私生活がより赤裸々に語られている。いわく同氏の結婚生活は「カルト宗教」に関連したものだったという。収入についても教団がらみで制限されていたとのこと。さらに妻が不貞を重ねていたことなどから、最終的に夫婦が破局。教団とも縁を切ったが、「人生のすべてを剥奪された」という。家族との関係も断ち切られたPorter氏は教団の追及を逃れるように国外へ移り住んだが、その過程でうつ病を悪化させたと伝える。またPorter氏の盟友でチームメンバーだったAlan Wansom氏も2018年に父君の逝去を経験したほか、攻撃的なコメントから深刻なダメージを受けていたことが匂わせられている。

支援者から心ない言葉を受けてきたことから、Porter氏は一部を除くKickstarterバッカーに激しい憤りを覚えているようだ。したがってKickstarterの支援は受け取るに値しないと判断し、返金という決断に至った模様。一方『Cryamore』開発自体は「中止からは程遠い(It is FAR from dead.)」と断言しており、今後は異なる資金繰りで制作に取り組むという。具体的には、イラストレーターでもあるPorter氏は現在、ポルノ絵の制作によって月々1万5000ドル(約157万円)の収入を獲得しており、開発資金は潤沢に確保できているという。人気ゲームの二次創作ポルノイラストなどを販売しているようだ。また多くのベテラン開発者を雇用し、彼らに十分な給与も与えると伝えた。Kickstarterの告知だけでもすでに弁舌激しいが、Porter氏個人のTwitterはさらに激情的だ。「『Cryamore』は完成させる」といった決意表明のほか、「立ちはだかる人間は全員消し去る」との過激な文言も踊っている。
 

https://twitter.com/Robaato_Art/status/1356092348866785281

 
Kickstarterで大きな支援を集めたプロジェクトが頓挫することは、珍しいケースではない。2016年には、7万3000ドル(約766万円)を集めたRPG『Midora』が資金を使い果たし開発中止に。支援者への返金対応を受け付ける顛末となった。一方、2017年にはRPG『Project Resurgence』が18万4735ドル(約2000万円)の支援金を使い果たし、返金も不可能という最悪のケースに陥っている(関連記事)。これらの事例と比べると、『Cryamore』は「プロジェクト自体は続行」にもかかわらず返金をおこなうという異例の対応といえる。背景には、私生活の困難による開発者の精神的苦境、それにともなってのKickstarterに対する激しい失意があるようだ。烈火のごとき憎悪と執念で制作される『Cryamore』。果たして本作が日の目を見る日はやってくるのだろうか。また24万ドルは、本当に返金されるのだろうか。

Yuki Kurosawa
Yuki Kurosawa

生存力の低いのらくら雰囲気系ゲーマーです。熾烈なスコアアタックや撃ち合いを競う作品でも、そのキャラが今朝なに食ってきたかが気になります。

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