『Call of Duty: Black Ops Cold War』ゾンビモード配信で世界記録を目前にエラー落ちした男。沈黙と絶叫の果ての“痛み”、それを人は絶望と呼ぶ

 

『Call of Duty: Black Ops Cold War』ゾンビモードの配信において、悲惨な事故が起きてしまったようだ。発売から足掛け1週間が経とうとしている同作。その中に収録されているのが、「Black Ops」シリーズではおなじみのゾンビモードだ。敵はアンデッドの大群で、無限に湧き出る亡者の群れを撃ち殺し、可能な限り生存することが目的となる。本作では荒廃した第二次世界大戦時代の地下施設を舞台に、冷戦時代の武器で立ち回るモードとなっている。
 

 
本モードを使って、ある壮大なチャレンジに挑む男がいた。ストリーマーのNoahJ456氏だ。『Call of Duty』シリーズのほか『Destiny』『Dying Light』といった作品のプレイで知られ、YouTubeのチャンネル登録者数は468万人を超える人気配信者である。その彼が最新作のゾンビモードで新たな野望に燃えていた。「ラウンド数カンストのスピードラン」である。ゾンビモードはラウンド制で進行するゲームだ。ラウンドごとに定められた強さの敵が一定数出現するため、現れたゾンビを全滅させることで次のラウンドへと移行する。ラウンドを重ねるほどレアな武器が手に入りやすくなるものの、その分ゾンビもより硬く、攻撃的になる。数十を超える高ラウンドにおいては、ハイレベルな立ち回りが必要不可欠となるのだ。

今回、NoahJ456氏が目標としたラウンド数は「256」。この数字はゲームがラウンドを数えられる限界値、すなわちカンストである。NoahJ456氏はカウントが止まる段階までのプレイで最速を目指したのである(なおカンスト突破自体はすでに先例が存在)。スピードラン配信とはいえ、短時間で済むような業ではない。必要なのは卓越したスキル、そして強靭な運だ。

NoahJ456氏が配信を開始したのは11月18日のことだったが、ラウンド100に到達するまでにはすでに約2時間が経過していた。この時点はまだ通過点といったところで、NoahJ456氏も涼しい顔。しかしラウンド200へ到達するまでにはさらに3時間半を消耗することになる。目標値の5分の4というマイルストーンに達したこともあり、200突破時のNoahJ456氏は天を衝く勢いで「Let’s GOOOOOOO!!」との叫びを発していた。
 

 
勝負は最後のパートに入る。残り56ラウンドを凌げば、夢のカウントストップだ。視聴者の誰もが固唾を飲んでNoahJ456氏の配信を見守っていた。配信開始からぶっ通しで半日が過ぎてなお、活力に満ちた実況と安定したプレイを絶やさない同氏。前人未到の領域はすぐそこ、皆がそう感じていた。

ラウンド208での出来事である。「255じゃない、256が今日のゴールなんだ」と息巻くNoahJ456氏。間断ないリズムで撃ち続け、ゾンビを屠っていたそのときだ。一瞬、全画面を黒い何かが覆った。思わず瞬きをする。音は何も聞こえず、画面は真っ暗闇に覆われている。もうすぐ6時間を示そうという時計だけが規則的なリズムで動いていた。ひと呼吸、ふた呼吸。それでも画面はブラックアウトしたままだった。何があった。何が起きた? 呼応するかのように、モニターには無彩色の窓がポップアップした。目に飛び込んでくる「ERROR」の文字列。何の感情もなく示された雑多な文字列のコードが、システムに致命的なエラーが生じたことを示していた。ゲームが、落ちた。エラーによってサーバーそのものから弾き出されてしまったのだ。

ストリーム画面の端でNoahJ456氏は、動かなかった。忙しなく画面を走査する眼球の動きだけが、かろうじて彼が生きていることを示していた。沈黙。エラーを示すウィンドウが用済みとばかりに消え失せ、何事もなかったかのようにメニュー画面に戻ったとき、NoahJ456氏はようやく身じろぎをした。片手を持ち上げ、自身の両眼を覆ったのだ。「本当に、俺を、からかってるのか」。ようやくNoahJ456氏が発した言葉には、配信用マイクがかくも感情を拾えるものかという万感がこもっていた。驚愕。恐怖。拒絶。「本当に、」と同氏が次の言葉を絞り出そうとした瞬間だ。彼にスーパーチャットが投げ込まれた。自動システムが添付されたメッセージを読み上げる。

「知ってる? 森の中には隠しキャラの巨人が——」
「知らねえよ!!」

いかなるエンターテイメントでも、人間の「本物」に触れることは稀有だ。その瞬間のNoahJ456氏の絶叫には、真の怒りがこもっていた。ただ、同時に彼は善き配信者でもある。すぐさま「いやごめん」と我に帰り、「そのイースターエッグはもう見たことあるよ、うん」と真っ当な返事をよこした。心はもうそこにないにもかかわらず。
 

*17:40ごろ参照。

 
即座に視聴者への配慮を見せたNoahJ456氏だが、それでも魂の慟哭は治らない。「冗談だろ」と吐き捨てる。やや遅れて、状況を悟った視聴者からもスーパーチャットが届き始めた。「畜生、兄弟。R.I.P.」「なんて不幸なんだ。今、何が起きてるんだ」「クラッシュのことなんかコメントするんじゃなかった、ごめんなさい」。コメントを見つめるNoahJ456氏は口元を覆っており、どんな表情をしているのかわからない。わずかに目元を細めているようにも見える。ゲーミング機器の光だけが虹色に明滅する部屋の中で、永遠にも思える時間が過ぎていく。しかし、正確にはクラッシュが起きてから約2分が過ぎたことを時計が示していた。プレイ開始からここまでの時間、5時間49分42秒。

「“痛み”だ」。長い沈黙ののちにNoahJ456氏が発した一言がそれだった。「pain」すなわち、痛み・苦しみ・骨折り。「“痛み”だ」。もういちどNoahJ456氏が呟いたところで配信動画は幕切れとなる。

今月13日の発売以来、存分に『Call of Duty: Black Ops Cold War』を楽しんでいる諸氏がいよう。MP5ナーフに不満を抱き、M16とAUGに怒りを向けるプレイヤーもいるだろう。しかし世界には、発売以来いちどもマルチプレイに入らず、キャンペーンにすら触れていない男がいる(PC Gamer)。この世の何かを憎悪する権利をNoahJ456氏がもたないとしたら、誰が憎しみを抱くことができるだろうか。同氏のツイートは11月19日朝の一言以降、確認されていない。