Facebookがクラウドゲーム分野に参入。過大な約束をせず、驚きの技術を披露しない、「何を提供しないサービスなのか」を発表する
Facebookは10月26日、同社Androidアプリおよびブラウザページ(fb.gg/play)にてクラウドゲームの提供を開始。同社のゲーミングブランドFacebook Gamingの一部として、ダウンロード不要のストリーミングプレイに対応した基本プレイ無料のゲームを、米国限定で配信し始めた。
同社は最近、一部地域にてクラウドゲームを提供し、テストをおこなっていた。このたび、米国における本格的なベータテスト段階へと移った形となる。第一陣として、初週に『Asphalt 9: Legends』『Mobile Legends: Adventure』『PGA TOUR Golf Shootout』『Solitaire: Arthur’s Tale』『WWE SuperCard』が配信され、近日中に『Dirt Bike Unchained』が追加される予定だ。現状はあくまでも米国向けのサービスとなる模様。
Facebookは、他のクラウドゲームサービスが謳うような「あらゆるデバイスで豊富なゲームを遊べるようにする」構想を実現できるのは、はるか未来の話であると断り、同社のサービスもPCやコンソール機を置き換えるものではないと伝えた。提供するタイトルは「すぐに遊べる」という点にフォーカスし、基本プレイ無料のモバイルゲームにとどめている。あくまでも、自社ゲームコンテンツの提供方法のひとつとして、クラウドからのストリーミングプレイを取り入れているというイメージだ。
やらないことから伝える
Facebookは今回の発表にて、「クラウドゲーム」への参入をアナウンスすると期待値が高くなりすぎてしまう傾向があるとして、同社が何をするかではなく、「何をしないか」の説明を先におこなっている。まずは「過大な約束をしない」こと。クラウドゲームの未来は信じているものの、同社のデータセンターやデータ圧縮アルゴリズム、解像度、フレームレートなどの情報でユーザーの興味を惹くような手法は取らないと約束。クラウドゲームが大衆向けのサービスとして十分な成果を出すのはまだまだ先の話だと述べ、過大な売り込みをせず、長所と短所をしっかり受け入れることが重要なのだと伝えた。
なお、Googleのクラウドゲームサービス「Stadia」については昨年、過大な約束により消費者が落胆した結果、ゆっくりとしたローンチになってしまったのではないかと、同サービスにコンテンツを提供しているパブリッシャーTake-Two InteractiveのCEOより指摘されていた(関連記事)。解像度やプレイ方法について実際には提供できないサービス内容を公言してしまうと、批判の種になってしまう。そうした先人の様子から教訓を得たのかもしれない。
続いてFacebookは、コンソール機やゲーミングPCを置き換えるつもりはないと発表。クラウドゲーム市場は拡大していくと思うものの、既存ハードウェアを置き換えたりはしないだろうと伝えている。クラウドゲームですぐに遊べることが、より良い選択肢になる場合もあるし、そうではない場合もある。あくまでも選択肢のひとつなのだと。
Facebookのクラウドゲームは、同社がすでに提供しているゲームコンテンツの拡充を図るものであり、Facebookのユーザーに馴染まれている基本プレイ無料のタイトルのみでスタート。主にモバイルデバイスで遊ばれているタイトル群だ。将来的にシステムおよびインフラ周りが改善されれば、より多様な種類のゲームを扱えるようになるが、それまでは基本プレイ無料タイトルで貫く姿勢である。なお、最初のうちはカードゲームやストラレジーゲームといった、レイテンシーが問題になりにくいジャンルのゲームから提供していくとのこと。2021年にはアクションゲームやアドベンチャーゲームを追加していく見込みだ。
対象タイトルはモバイル向けのゲームゆえ、特殊なハードウェアやコントローラーがなくても遊べるように作られている。デスクトップからアクセスする場合は、キーボード/マウスで操作可能。Facebookの狙いどおりにいけば、既存のFacebook GamingのHTML5ゲームを遊ぶのと変わりない感覚でクラウドゲームを遊べるだろうと伝えている。
またFacebookのフィードで流れてきたゲーム広告から、そのままワンクリック/ワンタップでゲームを遊び始められるという点も、デベロッパーにとってひとつのメリットになるだろうと、FacebookのJason Rubin氏はThe Washington Postにコメント。より効果が見込める広告商品の販売が狙いのひとつとしてあるようだ。Rubin氏は、「Facebook独占タイトル」の獲得は視野に入れていないとも伝えている。
そしてFacebookのやらないことリストの締めくくりとして、現状はiOS向けにローンチしないと説明。Androidアプリもしくはブラウザ上でのみ遊べるようになる。Appleは今年9月、App Store Reviewガイドラインの改訂により、それまでApp Storeでの提供を却下していた他社クラウドゲームサービスに門戸を開いた。しかしApp Storeでサービスを提供する上で遵守せねばならない内容について、「Project xCloud」を展開するマイクロソフトは、ユーザー体験を損なうため受け入れられないものだとコメントしていた(関連記事)。
今回のFacebookも、iOS向けの代替案を模索しているものの、App Storeでの配信が適切かどうかは悩んでいる様子。かといってSafariブラウザでできることは限られており、iOS向けにどうやってサービスを展開していくのかは未定の状態となっている。Appleはゲームの扱い方が他社とは違っており、この大事なリソースの支配権を行使し続けているという点だけは明らかだと、Facebookは批判気味に言葉を締めている。
*「現状iOSには対応していません。なぜなら、Appleだから(ため息)」と述べる、Facebook Gaming公式のツイート
クラウドゲーム分野への参入にあたり、「やらないこと」から真っ先に発表するスタンスを取ったFacebook。それだけクラウドゲーム参入というワードに懐疑的なユーザーが多くなっているのかもしれない。Facebook Gamingにてクラウドからのストリーミングプレイに対応する各種タイトルは、米国限定で展開中だ。