ゲームの実況配信が一般的になって久しく、これを職業とする人も増えている。そんななか、ゲーム業界のベテランが実況配信の現状について物申しており、物議を醸しているようだ。
Google傘下のゲーム開発スタジオStadia Games&EntertainmentのクリエイティブディレクターAlex Hutchinson氏は10月23日、実況配信者はプレイするゲームの販売元・開発元にお金を払うべきだと、自身のTwitterアカウントを通じて持論を述べた。
Alex Hutchinson氏は、EAやUbisoftなどを渡り歩き、クリエイティブディレクターとして『アーミー オブ ツー:The 40th Day』や『ファークライ4』『アサシン クリードⅢ』といった作品を手がけてきた人物だ。その後独立してTyphoon Studiosを設立し、『Journey to the Savage Planet』を2020年にリリース。同スタジオは、クラウドゲームサービスStadia用ゲームの拡充を目指すGoogleに2019年に買収されており、同氏も現在は先述したポジションに就いている。
発端となったのは、Hutchinson氏がいわゆるストリーマーたちによる、実況における楽曲の無断使用を指摘したこと。使用許諾を得ていない楽曲を配信で使用していたことで、配信者がコンテンツの削除を恐れていると言及した。これはおそらく、今年6月にTwitchがDMCA(デジタルミレニアム著作権法)に基づく、楽曲の削除要請を大量に受けた件を指しているのだろう。Twitchは配信者に対して、問題のあるアーカイブ映像は削除するようアドバイスしていたのだ。
その上で同氏は、配信者はプレイしているゲームについてもお金を払っていない(使用許諾を得ていない)ことを指摘。販売元の一存ですべて削除される可能性があるため、楽曲よりもこちらをもっと心配すべきだとした。さらに、「実際のところ、配信者はプレイするゲームの販売元や開発元にお金を払うべきだ。ほかのビジネスと同じように、使用するコンテンツにはお金を払い、ライセンスを得るべきだろう」とコメントしている。
Hutchinson氏のツイートは、本稿執筆時点で1万5000回以上リツイートされるなど大きな反響を呼び、4000件以上の返信が寄せられている。同氏の持論は法的には正しいとする意見もあるが、反発の声が多数を占める状況で、中には著名配信者も見られる。内容としては、配信によって販売元はゲームの露出と共に利益を得ており、マーケティングのメリットを無料で享受しているというものが多い。
同業者であるゲーム開発者からも否定的な意見が見られる。Undead LabsのデザインディレクターGeoffrey Card氏は、上述のプロモーション効果に言及した上で、もし有料の許諾制にしたら人気配信者以外はプレイを諦めるだろうとコメント。またMokuzai StudioのFred Wood氏は、配信者が開発元にもたらす価値を過小評価していると指摘した。
ゲーム配信がマーケティングとして機能していることは間違いなく、最近では宇宙人狼ゲーム『Among Us』が、人気配信者による実況配信をきっかけに突如大人気タイトルになったことは記憶に新しい(関連記事)。メーカー側としては、特にインディースタジオでは自由な配信を認めていることがほとんどで、ガイドラインを設けている場合でも、一定の条件を満たしていれば著作権侵害を主張しないとしていることが多い。
ただAlex Hutchinson氏は、販売元が配信者にお金を払ってプロモーションとして配信してもらう場合を除き、配信者はゲームではなく自身のマーケティングにゲームを利用しているだけだとコメント。あくまで法的な正当性を前提に、お金を稼ぐ手段としてゲームが無断で使用される状況はフェアではないとしている。
*BloombergのJason Schreier氏は、重役が大金をせしめているため、開発者は配信による利益を目にできていないだけではないかと皮肉。
同氏の意見に反発が相次いだのは、ゲームの売り上げだけでなくコミュニティの形成なども含め、メーカーが実況配信を通じて得られる利益は膨大だという見方が定着しているからのようだ。法的に見ればHutchinson氏の意見には一理あるようだが、ゲーマーに受け入れてもらうことは現時点ではなかなか難しそうである。なお同氏は、自身が手がけたタイトルについて許諾制にするかどうかは明らかにしていないが、Googleは海外メディア9to5Googleに対し、Hutchinson氏の意見は同社やStadia、YouTubeの方針を反映したものではないとしている。