『龍が如く7』の「外国人が英語で道を尋ねてくるシーン」、英語版ではどうローカライズしたのか。第四の壁を破る、『龍が如く』らしいユーモラスな手法

『龍が如く7』の「外国人が英語で道を尋ねてくるシーン」、英語版ではどうローカライズしたのか。第四の壁を破る、『龍が如く』らしいユーモラスな手法。

来月11月にリリースを控えている『龍が如く7 光と闇の行方』(以下、龍が如く7)の海外版、『Yakuza: Like a Dragon』。海外メディアやインフルエンサーによるプレビューが解禁され、海外Xbox Series X|S版を中心に、ゲームプレイ映像が次々と公開されている。

そんな本作には、サブストーリーのひとつとして、主人公の春日一番が外国人の男性から道を聞かれるシーンがある。駅への行き方を英語で尋ねられた春日は、英語が得意ではないため内容を理解できず。とんちんかんな受け答えをしてしまう。すると資格学校で英語を学んだ猪狩という人物がどこからともなく現れ、カタコトながらも自信満々の英語で回答。救いの手を差し伸べる。これは「春日は英語がわからない日本人」という設定だから成立するもの。では、春日が英語で話す、海外版『龍が如く7』ではどうローカライズしたのだろうか。

10月14日にXboxのTwitchチャンネルで配信された「Yakuza: Like A Dragon – Xbox Series X Gameplay Premiere with SEGA!」にて、Sega of Americaのローカライゼーション・プロデューサーScott Strichart氏が、ローカライズのユニークなアプローチを紹介。海外メディアKotakuが取り上げている。


*日本語版の該当シーン

Sega of Americaのローカライズ担当者は、台詞をほぼそのまま残すという方法を選択。ただし演出によってプレイヤーに状況を理解させるという、巧みな技を使っている。まずは外国人男性が不自然なほどゆっくりと言葉を発するよう変更。これは、アメリカ人男性が海外に出向いた際に取りがちな言動を取り入れたものだという。自国語を解さない相手に話す際、普段よりもゆっくり話す人というのは、生活していて実際に目にする。この誇張気味な演出を入れることによって、ゲームの舞台が英語圏外の国であることを、プレイヤーに思い出させる効果が期待できる。

続いて春日が「うわっ、英語か!(Oh, shit… It’s English!)」と独り言を発する場面でも、日本語版にはなかった演出を挿入。日本語版ではすぐに会話の選択画面に移るのだが、海外版では春日がゆっくりとカメラに視線を移し、プレイヤーに向けてこっくりとうなずく。下の解説付き動画では一瞬しか映っていないが、春日が右手の親指を立てるジェスチャーをしているのもわかる。滑稽な状況であることを理解していると示し、何が起きているのか察してもらえるよう、春日が第四の壁を破り、プレイヤーに合図を送っているのだ。

*該当箇所は放送の1:20:43〜から

日本語から英語にローカライズされたことで生まれた「普段英語で話しているのに、英語が理解できない」というシュールな状況自体を自覚的な笑いに変えたのである。単純にオリジナルの台詞をそのまま訳すだけだと、プレイヤーは困惑すると予想される。下手すると理解不能な状況に陥る。また、外国人男性に英語以外の言語を喋らせるという方法も考えられるが、それだと、その後の春日と猪狩の「なぜ英語を学ぶべきなのか」という会話にも支障が出る。ゲームの世界観や原文のニュアンスを維持しつつ、台詞ではなく演出を変更するというのは、ただの翻訳におさまらない、ユニークなローカライズ事例と言えるだろう。

ローカライズ担当者の要望によって、ゲームにアニメーションを追加するという対応を実現させること自体、稀なことである。上の動画でも、ローカライズチームと開発チームの連携により実現した対応であると説明された。こうした小さなこだわりからも、ローカライズへの力の入れ具合が垣間見える。なお春日のかわりに駅への行き方を教える猪狩の台詞は、オリジナルのものをほぼそのまま採用。「ゴーストレイト!アンドターンライト!ゴーゴーゴー!ゴーユアウェイ!ビリーブユアセルフ!」という自信満々のカタコトイングリッシュを、英語吹き替え声優が再現する。


また吹き替え用の台詞作成における秘話も明かされた。こうしたゲームのプロジェクトでは、オリジナル版のアニメーションにあわせて、尺にズレが生じないようローカライズ版の台詞を作らなければならないケースが多いという。だが本作では、吹き替えの台詞にあわせて、カットシーンの方を直すという、逆のアプローチを採用。ローカライズチーム自身が開発ビルドを触り、カットシーンの調整をおこなったとのこと。これまたローカライズチームと開発チームの密な連携があるからこそ、実現できた対応だろう。

海外版『龍が如く7』といえば、戦闘メニューの項目を「Skill・Etc.・Guard・Attack」と、頭文字をとって「SEGA」と読めるよう調整した話も出ていたように(関連記事)、何かとローカライズが話題になるタイトル。海外版プレビューが解禁されたことで、「デリバリーヘルプ」という日本ならではの言葉遊びが「Poundmates」という、セクシャルにも用心棒的にも聞こえる絶妙な訳になっていることも判明(Skill Up氏のプレビュー動画)。なぜ二重の意味に捉えうるのか気になった場合は、Pound urban dictionaryなどで検索を。Poundに何かを激しくたたくという意味もあることから察してもらえるかもしれないが、生々しいのでこれくらいで止めておこう。


『龍が如く7』の海外版である『Yakuza: Like a Dragon』は11月10日発売予定。対応プラットフォームは海外のXbox Series X|S、Xbox One、PS4、PC(Windows/Steam)。海外PS5版は2021年3月発売予定だ。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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