サイバーパンクホラーゲームの開発者、「現状このゲームの購入は推奨できません」と自ら告知。ネガティブな評価を真摯に受け止め、異例の対応

サイバーパンクホラーゲーム『Sense: A Cyberpunk Ghost Story』の開発者、「現状このゲームの購入は推奨できません」と自らSteamで告知。ネガティブな評価を真摯に受け止め、異例の対応。

『零』や『クロックタワー』から影響を受けた、2.5Dのサイバーパンクホラーゲーム『Sense: A Cyberpunk Ghost Story』が8月25日にSteamで発売された。だがリリースは順調とは言えず、開発元・販売元が自らSteamのストアページに「現状このゲームの購入は推奨できません」との注意書きを掲載するという、異例の対応を取った。デザインチョイスへの不満や不具合の多さを要因としたネガティブ評価が多く、そうしたプレイヤーの声を受け止めての決断である。

問題視されている点を修正するまではゲームを購入してほしくない。それは開発元Suzakuの真摯な想いのようだ。当初はSteamでの販売一時停止を検討していたが、Steam運営元であるValveの規則上、販売停止対応はできなかったと伝えている。かわりに、ユーザーに向けた注意書きをストアページに掲載した。「現在配信しているビルドは、私たちが意図した本来の体験を届けるものにはなっていません」と述べ、主な問題点を箇条書き。それらを修正するまで待つことをおすすめすると記載している。


『Sense: A Cyberpunk Ghost Story』はサイバーパンクの世界観で描かれる2.5Dのホラーゲーム。2083年の新香港を舞台に、若き女性メイ・リン・マックが謎の事件に巻き込まれるところから物語が始まる。マップの探索や調査、街の住民との会話を基本としつつ、謎を解いていくことに。『クロックタワー』からの影響が色濃く、メイの命を狙う化け物から逃げ、身を隠すといった場面も。セーブ地点が限られており、試行錯誤しながら真実に迫っていく。開発元Suzakuの主要メンバーであるBenjamin Widdowson氏自身はアメリカ人であるものの、開発に参加している奥さんのKay氏は香港ネイティブ。現地文化や伝承の描写にあたって重要な役割を担ったという(Steam)。

説明不足や不具合が課題に


問題を抱えている分野として開発元は、セーブシステム、操作方法・ゲームプレイの説明不足、キーバインド(キーの割り当て)、解像度がリセットされる不具合、エレベーターのインタラクションロジックの問題、そのほか無数のインタラクション系の不具合を挙げている。いずれもユーザーレビューやSteamのスレッド上での指摘が多い箇所である。セーブシステムに関しては、オートセーブがなく、リトライ時の負担が大きい設計になっているとの指摘があった。こちらについては、オートセーブ/クイックセーブ機能を追加することで改善する予定。そのほか、デモ版のセーブデータが残っていると、セーブデータが破損してしまう不具合が確認できているとして、デモ版のセーブデータを削除してから製品版を遊ぶよう案内している。

キーの割り当てに関しては、Enterキーでメニュー画面を開く仕組みになっている点が、問題視されている。実際、操作方法の説明不足と相まって、どうやってメニューを開くのかわからないとの質問が寄せられていた。現代のゲームでは珍しいキー割り当てであり、開発チームの中でも意見が分かれていた様子。だがメインの開発者であるWiddowson氏としては、古いPCゲームではEnterキーでゲームをポーズするケースが多いとの記憶があり、このような割り当てにしたという。これに対しては、Enterキーによってメニューを開くタイプのゲームというのは、WASDではなく矢印キーでキャラクターを操作していたからこそ、自然な割り当てになっていたのだという指摘が寄せられている。

開発元の反省


パブリッシャーのTop Hat Studiosは発売から2日後、8月27日の時点で、開発元SuzakuからのメッセージをSteam上に掲載。プレイヤーから寄せられたフィードバックや、ネガティブなレビューを読み、ゲームを改善するまで販売を止めるべきとの考えに至ったと伝えている(先述したように、Steamポリシー上、販売の一時停止には至っていない)。開発元のSuzakuは、4人チームの小さなスタジオ。QAテストのフィードバックが、プレイヤーの体験をフルに反映した内容ではなかったとも記しており、ゲームがどのような問題を抱えているのか把握しづらい状態であったのだと推察できる。

開発元いわく、本作では『零』や『クロックタワー』といったオールドスクールなサバイバルホラーゲームに習い、セーブ回数を制限。奥深い探索、慎重な計画立て、何度も失敗を繰り返しながら学んでいくトライアル&エラーといった要素を前面に出したかったものの、ゲームへと効果的に組み込むことに失敗。そうしたデザイン上の主義に固執し、フラストレーションがあまりにたまるような難しさになってしまったと、反省の念を記している。パブリッシャーのTop Hat Studiosとしても、プレイヤーが失望しているとわかっていながらゲームを売り続けるのはフェアではないと、開発元Suzakuの判断に同意。残念ではあるものの、ゲームの販売を止めるのが正しい行動であると、コメントを添えている。

修正アップデートは近日中に配信予定


その後Top Hat Studiosは9月1日に進捗を報告。開発元Suzakuによる修正対応が進められており、プレイヤー向けに配信する前には、パブリッシャー側でも普段以上に時間をかけてQAテストをするつもりであると伝えている。QAテスト後、今週中には修正アップデートを出したいとのこと。アップデートの配信時にパッチノートを掲載するという。

なおTop Hat Studiosは、国内ゲーム開発者doekuramori氏が開発した『The Citadel』のパブリッシャーでもある。そちらのタイトルでは、ゴア表現を巡り、開発者が海外で誹謗中傷を浴びるという問題が発生。Top Hat Studiosが開発者側の想いを丁寧に説明し、できる限り開発者の考えを尊重してサポートしていく姿勢を見せていた(関連記事)。トラブルが続いてしまったものの、いずれも作り手の意向を尊重しつつ、コミュニティ向けの状況説明もしっかり進めるという、パブリッシャーとしての姿勢が読み取れる案件であった。

『Sense: A Cyberpunk Ghost Story』はPC(Steam)向けに販売中。日本語にも対応。開発元・販売元が伝えているように、興味のある方は、近日配信予定の修正アップデート後に触れてみる方がよいだろう。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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