オールドスクールFPS『The Citadel』のゴア表現を巡り、国内開発者が海外で誹謗中傷を浴びる。「グロフェチを目指したゲームではない」と声明を出す

オールドスクールFPS『The Citadel』のゴア表現を巡り、国内開発者が海外で誹謗中傷を浴びる。「グロフェチを目指したゲームではない」と声明を出す。

国内の個人ゲーム開発者doekuramori氏は8月5日、オールドスクールFPS『The Citadel』Steamにて配信開始。個人開発の処女作ながら、配信後すぐに米国のTop Hat StudiosがPC版の共同パブリッシャーにつき、同作のバグ修正やパフォーマンス改善に向けた対応をサポートするように。またコンソール版の計画も動き出すという、明るいスタートを切った。

だがその裏では、開発者のdoekuramori氏にあてた誹謗中傷メッセージが殺到しているのだという。きっかけとなったのは、YouTubeに投稿された1本のレビュー動画。Top Hat Studiosは具体的なチャンネル名に言及していないが、声明文や動画の内容、動画投稿主の事後反応から、ICARUSLIV3S氏が8月17日に投稿した動画「So I Tried… The Citadel」のことだと考えられている。

Top Hat Studiosによると、動画投稿者の感想を、そのまま開発者doekuramori氏がゲームに込めた実際の意図だと捉えた一部ユーザーが、doekuramori氏を危険人物と評し、中傷メッセージを送ってくるようになったという。

特定層の性的嗜好を満たすゲームだという指摘

https://youtu.be/x2j7Bbp2Gog

*ICARUSLIV3S氏が投稿した動画

『The Citadel』は、『Doom』や『Wolfenstein 3D』『Marathon』といったオールドスクールなFPSから影響を受けた、2.5DのシングルプレイFPS。主人公は巨大要塞の最奧部に眠る偽りの神を倒すべく戦う殉職者だ。90年代FPSのフォーマットを踏襲しつつも、操作面で現代的なアレンジを加えている点が本作の特徴である。また敵を倒したときに残る四肢や臓物、苦悶の表情を浮かべた頭部など、ほんのりとしたアニメタッチのグロ表現がスパイスとなっている。

ICARUSLIV3S氏による動画の大部分は、ごく普通のゲームレビューである。同氏の期待に沿う品質ではなかったようで、各レベルのビジュアルデザインが退屈であった点や、エナミーの種類は豊富ながら一部の巨大メック系以外は戦闘が簡単すぎて歯ごたえがない点などを冷静に指摘。後者に関しては、主人公が携行できる武器種が無闇に多く、かつ強力であり、武器ごとの役割分担ができておらずバランスが取れていないと、ICARUSLIV3S氏が感じた難点を列挙。

そのほかにも、ショップで売られているアップグレード品の効果がテキストだけでは不明瞭であったり、頻繁にクラッシュが発生したりと、忌憚なく意見を述べている。ただ、悪い面だけでなく、メックスーツに搭乗できる場面やボスのデザインといった、ICARUSLIV3S氏が気に入った部分にも言及。総合的に厳しめの評価を下しているのは、レトロFPS好きとして、より良いゲームになってほしいという思いがあるからだという言葉を添えて、動画をとじている。


中傷メッセージを招いたのは、ICARUSLIV3S氏が同作のゴア表現について言及する箇所だろう。『The Citadel』の全体的な雰囲気は、同氏を妙に困惑させるものであり、その最大の原因はゴア表現にあるとコメント。同氏はゲームにおける過激な暴力表現自体が嫌いなわけではなく、壁という壁を敵のはらわたで赤に染めるのは大好き。だが本作からは、どこか不快な印象を受けるという。

頭部だけになった敵が浮かべる、取り憑くような表情。そのうち、顔の下半分だけになった敵兵が、“アヘ顔”のような舌の出し方をしているのを見つけ、不快感の正体に気づいたという。本作は特定層の性的嗜好を満たすためのゲームなのだと、ICARUSLIV3S氏は結論づけたのだ。この世のどこかに、本作を片手で遊んでいる人がいるのだと。こうした感想をきっかけに、猟奇趣味的なゲームを作った人物として、『The Citadel』の開発者を攻撃する者たちが現れた。

グロフェチを目指したゲームではないと開発者がコメント


開発者doekuramori氏いわく、『The Citadel』は決してグロフェチを目指したゲームではないという。同氏が好むのは『東方Project』やバイオメカニズム。暗いテーマを扱い、重く抑圧的な雰囲気が漂うようなゲームが好きとのこと。グロが好きなわけではなく、人と機械が融合する未来像や、そこから生まれる概念といった、「攻殻機動隊」とH・R・ギーガーを組み合わせたような審美感に興味を抱いているとのこと。

過激な暴力描写は、クラシックなレトロシューターにとって不可欠な要素だと考えているからこそ、『The Citadel』に取り入れられた。そしてdoekuramori氏自身はアニメスタイルの表現に親しんだ開発者であり、本作の暴力描写も、アニメ的表現というフィルターを通して生み出された。それは決して“フェチ”を狙ったものでも、性的な表現を意図したものでもないという。同氏のことを、女性に危害を加えたがっている変質者と非難する者たちが出てきたが、そうした理解は誤りであると、声明文にて伝えている。

パブリッシャーのTop Hat Studiosも、『The Citadel』はウルトラバイオレントなレトロシューターを、日本人の視点から、日本のアートスタイルを介して解釈したオマージュ作品であると補足。これは日本に根付いたアートスタイルであり、フェチを満たすためのゲームでも、エロゲーでもないと強調している。

露出が増えたことで発生したトラブル


小さな個人開発プロジェクトが、Steamというプラットフォームを介して国境を越えて広まっていき、海外パブリッシャーがつくほどの注目を集めた。そして文化的なホームグラウンドから脱するにあたり、予期せぬ批判、誤解、個人攻撃を招くことになった。それは作り手としてフラストレーションのたまる出来事だろう。そうした中で、Top Hat Studiosというパブリッシャーがつき、支援を得られ、批判が発生している言語(英語)にて声明文を出せる環境が整ったというのは、不幸中の幸いなのかもしれない。

なおICARUSLIV3S氏は、Top Hat Studiosの声明を受け、デベロッパーへの嫌がらせ行為に加担しないよう動画のコメント欄にて注意喚起している。『The Citadel』のゴア表現を猛烈に嫌っているわけではなく、奇妙だと思っているだけだとも補足。もっとゲームプレイ体験がしっかりしていれば、ほとんど気にならなかっただろうとも伝えている。

現在doekuramori氏は、コミュニティとの交流を、クリティカルな不具合の修正に関連したトピックのみに抑えている。またさらなる中傷を防ぐべく、身体欠損や暴力表現を規制する機能を実装できないか、パブリッシャーのTop Hat Studiosと相談しているとのこと。今後の活動としては、『The Citadel』の拡張版を制作するほか、新作の構想を練り初めているとTwitter上で発信している。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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