先日発売されたフライトシム『Microsoft Flight Simulator』にて、現実世界には存在しないはずの212階建ての超高層タワーが確認されており、話題を呼んでいる。もとを辿れば、どうやらとあるユーザーのタイプミスが原因であるようだ。
『Microsoft Flight Simulator』は、マイクロソフトとAsobo Studioが手がけたフライトシミュレーターだ。プレイヤーは精密に再現されたコクピットにて、操縦によって大空を駆ける。マイクロソフトの検索エンジンBingが持つ膨大なマップデータをもとに、同じく同社が持つAzure AIの解析によって、建物や環境の3Dモデルを生成してゲーム内に適用。現実さながら世界が表現されている。たとえば北朝鮮の平壌などの上空も飛行可能だ。ゲーム内の天候を現実の気候と同期させることもでき、究極の航空体験が味わえるわけだ。
しかしながら、リアルで没入感が高いからこそ、異様なものが存在すると目立ちやすい。その代表が、オーストラリアのメルボルンの北にあるフォークナーの建物。同作内のフォークナーには、超高層ビルが存在する。閑静な町並みに突如としてそびえ立つ巨塔。『Half-Life 2』のCitadelだとか、現代のモノリスだとか、さまざまな表現にて不思議がられている。現実世界には存在しないはずのこの謎ビルは、タイプミスによって生まれていたことが濃厚だ。
本作に採用されているBing Mapsでは、一部地域にてOpenStreetMapが採用されている。OpenStreetMapとは、ユーザーの編集によって作成される世界地図プロジェクトである。ユーザー参加型コンテンツということで、そのボリュームは膨大。Bing Mapsは、それぞれの地域のパートナーと共に地図が作成されており、たとえば日本ではZenrinと協力しマップデータ提供を受けている。フォークナーのマップに関しては、OpenStreetMapのデータ提供を受けており、画面の右下のコピーライト部分でも、その記載を確認できる。
だが、ユーザーの編集したデータは必ずしも正しいとは限らない。nathanwright120なるユーザーは、フォークナーにある2階建ての民家に212階とのデータをつけてしまっていた。このユーザーの他の編集データは正しいので、おそらくタイプミスだろうとのこと。その後この212階という数字は他のユーザーに訂正されたが、『Microsoft Flight Simulator』では、修正前の地図データが取り込まれていた。それゆえに、メルボルンには誰も知らない謎の塔がそびえ立つことになったのだ。
この謎の塔は早速コミュニティにて人気を集めており、さまざまな人々がオーストラリアにある212階の民家を訪れている。YouTuberのConor O’Kane氏はこの謎ビルへの着陸を目指す動画を投稿。ひたすら頂上を目指し、墜落するという奇妙なチャレンジを続けている。幾度もの挑戦の後、着陸に成功。212階の眺めを一望し、謎の感動が生まれている。
OpenStreetMapによるトラブルは珍しくない。たとえば、位置情報ゲーム『ポケモンGO』ではOpenStreetMapのタグ付けによって、ギリシャのサラミス島が“海”だと認識されてしまった結果、ポケモンが消えるという事態が発生していた(関連記事)。ユーザー編集コンテンツはヒューマンエラーが発生しやすく、同データをゲームに取り込んだ場合、思いもよらぬアクシデントが生まれることを示した一件であった。メルボルンに現れた超高層民家も、そうした一例であるだろう。
Bing Mapsにおいては、細かな建物情報などはOpenStreetMapにてカバーしているようで、オーストラリア全域においてOpenStreetMapが使用されているほか、アメリカやヨーロッパでも建物データなどはユーザー編集機能に頼られている(日本においては、細かな部分もZenrinがカバー)。こうしたシステムを考えると、似たような事例が今後確認される可能性はありそうだ。
各メディアはマイクロソフトに、この高層民家が修正されるかどうかを問い合わせている。212階のビルが消えてしまうのは、妥当ではあるが、どこか寂しくも感じるかもしれない。実際にその目でたたずまいを目撃したい方は、『Microsoft Flight Simulator』を購入し遊んでみるといいだろう。